第3話 汚部屋の掃除
僕はその部屋を見た瞬間、絶句した。
足の踏み場もないほどの洋服の散らかり具合。食べっぱなしのお菓子の袋、整頓されてないプリント類、扉が閉まらないほどに詰め込まれたクレーゼットなど、あげていけばキリがないほどの汚部屋だ。
おまけに栞凛は散らかっている洋服を踏みつけて自分の部屋に入っていった。
「え? なんか、そんな汚かった?」
僕の顔から察したのだろうか、栞凛が聞いてきた。
僕にとっては信じられない光景だ。生活動線が考えられてなさすぎるこの汚部屋をどう処理するべきか。この汚部屋を片付けることが、最優先事項だと頭の中で判断した。
「先、片付け。机の上が汚すぎて勉強どころじゃない」
「え? こんだけスペースがあるんだよ?」
栞凛はそう言いながら机の上のゴミを端に寄せる。その拍子に、奥にあったゴミが床に落ちた。
「だめ。ゴミ袋」
「全部、必要なものに感じちゃってさ!」
そう言いながら栞凛は僕を見てウインクをしてみせる。僕には一切効いていなかった。
僕はどこかのスイッチが勝手に押されたような気がした。
「じゃあ、ゴミ袋とってくるから」
栞凛は階段を下って行った。
「どこから整理しようか⋯⋯」
僕が考えていると、下から大きな音がした。
『ガタガタガタッ』
僕は音のした階段を上から見下ろす。
「いった〜。めっちゃ滑っちゃった〜」
とても慣れているように見えるのは気のせいなのか、僕にはわからない。ただ、一応聞いてみることにした。
「あの、大丈夫ですか?」
すると栞凛は立ち上がった。
「うん! 全然平気!」
すぐケロッとしてみせた。やっぱり慣れているなと感じる僕であった。
「はいゴミ袋!」
栞凛はそう言いながら僕に透明な袋を差し出した。
「じゃあ、まずは⋯⋯」
僕は部屋の奥に行こうとしたが、止まる。
「(人の洋服は踏んでいいのか?)」
その答えは、一瞬で飛んできた。
「あ、全然踏んでいいよ! あと私断捨離下手だからさ、いるかいらないか全部決めちゃって!」
僕はその言葉を聞いて、容赦なしに洋服を踏むことにした。
キャスター付きの動かせない椅子の横には、散りばめられたゴミの袋が散乱していた。
「これは?」
「あーっ、それはねえ、私がお小遣いで初めて買ったお菓子の袋!」
僕は選手交代した。絶対栞凛が僕に聞いたほうが速いと思ったからだ。
「えっと、これはねえ、新作のコンビニスイーツを初めて食べたやつだ! これは⋯⋯」
「ゴミ」
「おじいちゃんからもらったやつだっけ? あ、だいぶ前の子ども会でもらったやつだ!」
「ゴミ」
僕はどんどんゴミと切り捨てる。必要最低限の物だけ残すようにする。
「ふぅ〜、やっと終わった〜」
今終わったのは、机の上と周辺の床に散乱していたお菓子のゴミだけだ。それだけで10分が経過した。
「次、洋服の整理」
「あー! だめ!」
突然栞凛が止めてくる。
僕はなんでだと首をかしげた。
「あのー、さ、ほら? 見せたくないものがあるかも、しれないじゃん?」
「あー」
僕はその言葉で大体察した。
「じゃあ、頑張って」
僕にできそうなことはもうないと、帰ろうとする。
「もう行っちゃうの?」
行こうとした僕を栞凛は引き止める。
「見ないほうがいいなら、いないくて、いいんじゃ?」
僕が栞凛にそう提案すると、悩み始めたようだ。
「だ⋯⋯くんなら⋯⋯? ⋯⋯まだ、だし⋯⋯」
かすれたような声で、僕にはあまり聞こえなかった。
「なにか、言った?」
「あ、ううん! なんでもない!」
僕が聞き返したが、答えてくれなかった。ただ、少し頬が赤らんでいるのが見えた。




