第35話 祝われないし
「これで、足りますでしょうか?」
カラオケを出た瞬間、栞凛は急いで家に帰った。
ちょうどぴったり、その額がある。
「うん。ありがと」
別に奢ってもよかったが、学校の規定なので仕方ない。
「じゃあね」
僕は手を振って栞凛と別れた。
その後、栞凛のでかいため息が僕の耳にも届いた。
一体、なにが待っているのか。
******
夏休みの中盤、僕の誕生日がやってきた。
どうせ祝ってくれるやつはいないと、僕は二度寝しようとした。
『ブルル』
スマホが鳴った。通知が届いたのであろう。
『お誕生日おめでとう!』
その文章とともに、いろんなスタンプが送られてくる。
僕には、無料配布されているスタンプしかないというのに。
「ありがと」
最低限の返信はしておく。しないと⋯⋯、考えないようにしよう。
僕はそこで考えるのをやめた。
『なんかさ、お祝いにどっか行かない?』
「どっか、って?」
『え、えっと』
そのあとに続く言葉を待った。だが、なにも来ない。
「なにもないなら、別にそれでいいんだけど」
もう、そんなのには慣れている。こんなの言ってくれるのも親だけだ。
『えー! 嫌だ』
「いや、僕の誕生日じゃん」
僕の誕生日の予定を、こいつが決める権利はない。
『だって、私にもかなり関係するから!』
それって、どういうことだ? 他人の誕生日なんて、僕からしたらどうでもいい。
「あとさ、別に僕暇じゃないからね」
『え、予定あるの?』
さも予定がないかのように言ってくれる。事実だが。
「予定はない。やることはある」
『じゃあ暇だね』
暇、であり暇ではない。暇だけど暇じゃないのよ。
『じゃあ聞くけどさ、なんか欲しいものある?』
⋯⋯欲しいもの、欲しいもの。やば、見つからない。
「ない、かも」
『あ! じゃあさ、海とか、行ってみない?』
海ね。あんなカップルたちがイチャイチャしてるようなところにはあんま行きたくない。
「え、えー」
『だめー? うーんとじゃあ⋯⋯』
そこで、返信は途切れた。
しばらく待っても、なにも来ない。
「じゃあもう、どこも行かないでいいんじゃない?」
『それじゃ、さ?』
どうせ自分のとき、なにもしてくれないからやだってことだろ。
『わかった! お泊まり会だ!』
「⋯⋯え?」
お泊まり会? それって、つまり、一晩一緒に過ごす、こと? ――嫌だ。嫌すぎる。
『じゃあ、私ちょっと親に交渉してくるから! 大輝くんも交渉してきて!』
「え? あ、うん」
僕の親は、今家にいない。
ちょうどお盆だからか、旅行に行こうと僕も誘われた。――そこはやっぱり、陰キャだった。
僕が旅行を拒んだからか、家で1人、置いてきぼりにされたのだ。
まあ、これも全部僕が悪いのだけれども。
『ブルル』
またスマホが鳴った。
許可とってくるの早すぎないか?
『私はいいってよ! そっちは?』
いいかも、しれないし、だめかも、しれないし。まず、許可すらとれない。
「今、親いないから」
『じゃあいっか! 子供を家に1人なんて、私が守ってあげるからね!』
え? それ、って、どういう意味なんでしょうか。
『今から準備して、そっち行くから! 待っててよね!』
「うん」
『絶対逃げないでよね!』
「うん」
さすがに、返信が速い。文字を打つのが速い。
僕が2文字打ってる間に、それ以上の文字を打っている。いくらなんでも速すぎでは?
僕はそのまま、栞凛が来るのを待つことにした。




