第34話 足りれば⋯⋯か
「ねえ、最初歌う?」
僕はその質問に対し、静かに首を振った。
「ごめん、僕音楽知らないから。授業でやったやつなら歌えるけど」
「そっか〜、じゃあ最初は絶対音感の私ね!」
と、タブレットを置き、マイクを持った。
「ほら、大輝くんこれ!」
栞凛が渡してきたのは、タンバリンだ。合いの手でも入れろということだろう。
「なんだ、これ。なんか、聞いたことがあるような⋯⋯」
知ってる、けど知らない。
聞いたこよある、けど知らない。
「なんだ、これ」
ただ、絶対音感なはずの栞凛、そもそも音程ではなくタイミングから間違えている。
それはもうひどすぎた。
「これ知ってる? アイドルが出してるやつでさ、最近超人気なんだよ!」
「ごめん、全く知らない」
アイドルとなるともう未知の領域だ。
僕が知ってるアイドルは、どこにもいない。
「やっぱそういう流行知らないよね〜」
当たり前というような雰囲気で流さないでくれ。当たり前なのは確かだが。
「じゃあ、僕歌わかんないから」
「もう1回私が歌っちゃっていい!? ありがと!」
ぜひぜひ。歌って時間稼いでくれ。僕は極力歌いたくない。
******
「さすがに疲れたかも⋯⋯。なんか頼む?」
栞凛はそう言いながら、メニューをひらひらとさせている。
「『頼む?』って、別料金でしょ?」
「うん、そうだけど?」
こいつ、自分が金ないの忘れたんか? もう、本当に頼もうとしてるし。
「え、お金は?」
「大丈夫大丈夫! いっぱいもらってきたから⋯⋯」
段々栞凛の声が小さくなっていった。
「3ヶ月分のお小遣い、前借りしちゃった⋯⋯」
最後の方は、もう完全に空気に混ざり込もうとしていた。
全部聞き取れてしまったが、実を言うと聞きたくなかった。
「ま、あれもこれもぜーんぶ、大輝くんのため、って思えば、いいもんねー!」
僕のため、って、完全に強がっている。適当に理由探して、強がろうとしているのが見え見えだ。僕のため、であるはずがない。あっていいわけない。
「ふーん」
これ以上お金事情の話はしたくない。ので、反応を薄くすることに専念した。
「でさ、なにか食べたくない? 私すっごいお腹空いたんだよねえ」
「別に、僕はお腹空いてないけど」
なんなら、お腹いっぱいまである。少し、朝ごはんを食べすぎてしまった。
「うーん、何食べよ。まあポテトでいいや」
「適当やな」
思わず口に出てしまった。本当に、言う気はなかった。
「ま、適当でいいでしょ。ポテトなら2人で食べられるしね!」
これ、シェアしたときって、どう割り振ればいいの? お金の問題、発展しない?
「あ、私が頼んだから、お金は払うよ⋯⋯足りればね」
その『足りればね』ってやめてほしい。足りなかったら絶対とられる。食べたよね? って詰められる。
「そろそろ疲れたし、帰ろかな」
「うん。帰りたい」
僕はほぼ歌っていない。まず、知ってる曲がほぼない。あと、単純に音痴。
「えっと、料金は⋯⋯」
それを見た栞凛は、目を丸くした。
「ん? 買いすぎだねこれ」
ポテトのあと、結局ピザやらパフェやら色々注文した結果がこれだ。
「助けて、ください⋯⋯」
「え? なんで?」
ちなみに言うと、僕はほぼ食べていない。強いて言えば、ポテトを1本パクった程度だが、こいつは気づいてないだろう。
「お金の貸し借りはだめ、って言われなかったっけ?」
「言われました⋯⋯大変申し訳ございません。どうにか、どうにか助けてくれませんか?」
栞凛が目の前で土下座までしてくる。
あの、ちょっとからかおうとしただけなのに、真に受けないでもらえます?




