第33話 お・出・か・け・
「あ、あ、ああああああああああああああ!」
栞凛の悲痛な叫び声が、耳に流れてきた。
言ってしまった、という顔だ。
その場にしゃがみこみ、顔を膝のところに埋め込んでいる。
「ねえ、今の聞かなかったことに⋯⋯」
今の、とは『デート』のことだろう。聞きたくもなかった。
「え、うん。聞きたくないよそんな単語」
「え!? 聞きたくないって、どういうこと!?」
聞いていてほしいのか、聞かないでほしいのか、マジでわからない。どっちもなんて、さすがに無理よ?
「え、僕は一生その単語と向き合いたくないし、向き合わないだろうから」
僕は笑顔で返した。下手くそな作り笑顔だが勘弁してくれ。
「じゃあ、その、ね? 私が⋯⋯」
と、栞凛が言いかけたとき、ちょうど5時のチャイムがなった。
「じゃあ、今日は帰ろうかな」
「えーっ! じゃあ、その、明日、デート、しよ?」
「ん? 2人でカラオケでしょ? いいよ」
決してこれはデートではない。そうでなければはならない。
「えぇ、で、デート、だよ」
栞凛がボソボソと呟いた。
僕は聞こえないふりをして帰ることにした。
「僕なんか陰キャが、あんなにかわいいって言われてる子と、デートなんて絶対だめでしょ」
自分にそう言い聞かせて、デートではないこととした。
「でも、なんか、違う⋯⋯」
それは、ちょっとした違和感があった。
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「やっほー! 今丁度ピンポンしようと思ってたとこ!」
僕が玄関の扉を開けると、庭先には栞凛がいた。
栞凛は無邪気に手を振っている。
「ふんふーん! じゃあ、デート、楽しもうね!」
「お出かけ、ね」
それでないと、いけないのだ。
「ふぅ〜、ちゃんとお小遣い前借りできたから!」
「どうやって?」
なんだか、絶対頼み込んだだけじゃないような気がした。なので聞いてみた。
「え、別に、料理作って、洗濯物畳んだり、お風呂とトイレを掃除したり、しただけだけど?」
しただけで済ます内容ではなかったような気もするが、まあいいか。
「だって、大輝くんと、デート、のためって考えたら、なんでも余裕に感じられたんだ!」
「お出かけ、ね?」
間髪入れずにツッコミを入れる。
またこの無駄な会話が広がってしまう。やめよう。
「じゃあ、今日はカラオケね!」
「うん。僕、歌えないけど」
「大丈夫! 私、絶対音感だから!」
なんのフォローにもなってない。ただ、嘘なのは確かだ。
一応何も言わずにいてあげることにする。
「よし! 行こっか!」
栞凛は、意気揚々と店へ入った。
「じゃーん! 今日はちゃんと学生証持ってきたんだ!」
「あ、ふーん⋯⋯」
やばい、完全に頭になかった。なくても足りるけど、なんか損した気分になるなあ。
「お願いしまーす!」
そう言いながら受付のお兄さんに話しかけた。
「何名様のご利用ですか?」
「2人です!」
「おふたりですね。学生証などはお持ちでしょうか?」
「あ、あるよ! 大輝くんは?」
突然会話が僕に回ってきた。少し慌てて反応する。
「あ、ないです」
「承知しました。ではお1人様のみ学割でのご案内になります」
そう言いながら、僕にも笑顔で対応してくれた。
なんて律儀なんだ。偉すぎる。褒め称えてあげたい。
「2名様で、何時間のご利用となりますか?」
「えーっと、何時間がいい?」
だから僕に聞かれましても。僕じゃ絶対頼りにならないから、頼らんといて。
「うーん⋯⋯、フリータイムで!」
「フリータイムですね。わかりました」
「ドリンクバーは、どうされますか?」
「あ、2つお願いします!」
「2つですね」
「17号室になります。料金は後払いとなりますのでごゆっくりどうぞ」




