第32話 137円か⋯⋯
「結局カフェデート⋯⋯じゃなくて、まあどうする?」
栞凛が聞いてきた。
僕のせいでカフェは行かないことになった。
「あ! あそこのゲーセンでも行く? それともカラオケとか」
「あ、まあ、別にいいけど」
僕はその店に目を向けたあと、栞凛の方を見た。
なにやらカバンをごそごそして、何かを探している。
「うわ〜、学生証持ってくるの忘れた〜。せっかく学割使えたのに〜」
学割、ね。確かにそんな制度があったなあと思う。
あれはもらって以来一度も筆箱から出てきたことはない。
「今日に限って、忘れるなんて、私のバカぁ! せっかく2人で遊べたのに⋯⋯」
いや、あの、別にあれがないからって、遊べなくなることはない。
「別に、なくてもいいんじゃ⋯⋯?」
「だめだよ! 私今金欠なんだから!」
間髪入れずに回答が返ってきた。
僕はじーっとこいつの手にあるカップを見つめた。
「あ、えへへ〜」
僕の視線に気づいたのか、その中身の入ったカップを僕から隠した。
「ご褒美買って、金欠て」
「いいの! 私のエネルギー源なんだから!」
人の懐事情になにか口出しするわけではないが、計画的に使わないからそうなる。
「で、どうするの? なにもしないなら僕は帰る」
「え〜! ちょっと待ってよ〜!」
栞凛が引き止めてくるなら仕方ない。仕方なく待ってやるか。
「じゃあわかった! 私のかすかなお年玉を使おう!」
ついにこいつ、お年玉に手を出してしまうか。僕なんてお小遣いがあまり過ぎて最近貯金箱が3箱目に突入しそうだ。
「ちなみにだけど、今いくら持ってる?」
「え〜、それ聞いちゃうか〜」
なんだこいつ。別に少し助け舟を出してやろうと思ったが、言わないなら別にいい。何もしないだけだ。
「ちょっと待って。数えるから」
栞凛は財布を取り出した。レシートだらけの分厚い財布だった。
「うわ、1円玉ばっかあるんだけど。なにこれ〜!」
僕が横から中を覗くと、それはもう悲惨なものだった。
もう、全体が1円玉と言っても過言ではないぐらいには。
「待って、1円玉42枚あるんだけど! やばすぎて草」
なにが草だ。それどころではないだろ。
「5円玉が1枚でしょ。あと10円玉4枚と、50円が1枚。100円と500円玉は0枚だ」
「合計で137円といったところか」
「え、計算速くない!? 歩く電卓すぎるんだけどww」
よくあるたとえだ。こいつの頭にはそれしかないのか。
「あ、じゃあ行けない⋯⋯。さっきのラテがなかったら足りたのになあ」
がっくりと肩を落とし、落胆する栞凛がいる。
そこまで落ち込む必要はあるのか。
「え〜、どうしようかな〜」
さすがに中3からお金の貸し借りってのはできない。もちろん奢りもだ。
「じゃあ、自販機のアイスでも買って⋯⋯って、137円で買えるアイスなんてないかー」
「さすがに、137円じゃなにもできないし、帰っていい?」
もう帰りたい。太陽はまだまだ元気に照らしているが、もう5時になりかけている。
「わたった! じゃあまた明日カラオケ行こ! お小遣いの前借り媚びまくってくるから!」
「あ、あ、うん」
僕は単純に引いた。このときから前借りとか、やばすぎたりしない?
「じゃ、今日は帰るかー! 仕方ない」
と、栞凛の声が響いた。
「はあ、せっかくのデートなのに、ごめんね」
「え、デート?」
僕と栞凛の間を、冷たい空気が通り過ぎた。
栞凛の顔が赤面していた。耳まで赤かったのではないか。




