第31話 駅前のカフェ
『今日の午後暇?』
祭りの翌日になり、久しぶりにスマホが鳴った。
「暇というか、暇じゃないというか」
『私さ、駅前のカフェ行きたくて』
勝手に行けばいいじゃないか。なんで僕に言ってくるそれを。
「え、どうぞ」
『一緒に行こって』
別に僕じゃなくてもいいじゃないか。それなのに、なぜ僕なのだ。
「僕なんですか?」
『当たり前じゃん。逆に大輝くん以外誰がいるの?』
「友達とか、家族とか」
少なくとも僕である必要はほぼないだろう。
『そっかー。ま、私は大輝くん以外じゃ嫌だし』
「なにそれ」
それに、色んな意味が含まれていると感じたが、見なかったことにしよう。
『じゃ、明日家ピンポンするから』
「うん」
そこで、連絡は止まった。こうやって真面目に連絡を返したのは初めてかもしれない。
次の日、僕は外へ出た。
まだ、栞凛の姿はない。早すぎたか。
とそこに、当の本人が現れた。
「大輝くんだ! 行こ!」
「うん」
僕は栞凛についていくことにした。
「駅までどんぐらいだっけ?」
栞凛が聞いてきた。ここからは、別に近くも、遠くもないといったところか。
「多分、15分〜20分ぐらいだと」
「意外と近いんだね」
ここは別に、田舎じゃないけど、都会でもない。そんな微妙な場所だ。
「距離から考えて、これは分速100mで歩いたときの速さだね」
分速100m、相当早歩きしないと無理だ。なんなら中走りぐらいだ。
「はっや! 化け物じゃん!」
「まあ、さすがに速すぎるかな」
昨日の態度はどこへ行ったのか。もう普段通りになっている。
「ちょっと、そういう大輝くんも普通に速いんだけど!?」
「え? そう?」
僕は一度速度を落とし、栞凛と並んだ。
「そんぐらいだよ! ちょうどいい!」
僕にとって、すごく遅い。いつもこれに慣れていないからか。
と、そんなこんなで駅前のカフェについたわけで。
「ねえ、大輝くんはなに飲む?」
「うわ、ここか」
なんたらかんたらフラペチーノだの、すごい商品名が長かったような。もはや呪文だ。
「僕来たことないなあここ」
「来たことないの!? めちゃくちゃ美味しいよ!? 私なんて前毎日来てたのに」
うん、美味しいのはわかる。美味しいのは。それもまあ大手ですからね。ただし、問題は値段にある。
「少々僕には手がつけがたいお値段というかなんていうか⋯⋯」
ちょっと今の御時世、僕の懐がお腹を空かせる値段だ。
「確かに、でもご褒美って思うと美味しいよ!」
「ご褒美って、毎日ご褒美を食べてたってこと?」
ご褒美はたまにでいいんだよたまにで。そんな毎日だったら、もうご褒美じゃなくなるだろう。
「で、どうする? ラテとかもあるけど」
「あ、意外と普通のもあるんだ」
フラペチーノに目が行き過ぎて、少し影が薄かったかもしれない。
「ま、僕はいいかな。水筒あるし」
と、自前の水筒を取り出した。
「カフェ行くってのに、水筒持ってきたの!?」
「え、うん」
今のこの季節、冷水無しで外を出歩くなんて、持ってのほかだろう。
「僕はいいかな。もともと頼む気なかったし」
「えー、一緒に飲もうと思ったのにい!」
栞凛はプーッと顔を膨らませた。少しうるうるとしたような目でこちらを見てくる。
「なにかあったんですか?」
「なんでもないよーっだ!」
絶対なにかある言い方。うん、なにかある。
「ま、いいけど。とりあえず、私は注文してくるね!」
「行ってら〜」
僕は栞凛を送り出した。




