第29話 帰りたいけど
「ねえ見て! これ、着せてもらったんだ!」
僕の目の前には、花柄の浴衣を着た栞凛が立っている。
ちなみに補習は先生がおまけで合格にしてくれたわけで、決してこいつの力ではない。
「ふーん」
「なんでそんな興味ないの!?」
「え、だって」
僕はそう言いながら栞凛の顔を指した。
「よだれ垂れてる」
「え!? 嘘!?」
栞凛は口を拭った。新品であろう浴衣の袖で。使い方が雑すぎる。
「じゃあ、早く行こ! 売り切れちゃう!」
「そんなことないよ」
屋台の商品がそんな一瞬で消えるわけない。どれだけ人気なんだその屋台は。
「あ! あのチュロスとか美味しそう! あっちの金魚すくいもやりたい!」
「お金のことも考えてよ?」
「大丈夫大丈夫!」
絶対だいじょばない。僕には関係ないか。
「うわ〜、なくなっちゃった〜!」
「考えなしに使うからでしょ」
「でも、食べたいものがいっぱいあるんだもん!」
それはそうだとしても、少しは我慢を学んだほうがいいのではと思う。
「逆になんでそんな使わないの?」
「え、別に、普通⋯⋯」
「普通じゃないでしょ! そのリンゴ飴と狐のお面だけって、どうかしちゃってるって!」
あの、多分一瞬で使い果たしたこいつの方が以上だと思うのですが。
「リンゴ飴、普通に食べるの時間かかるし」
1番最初の方に買って、ようやく半分ぐらいになったところだ。
「あ、でも私まだ食べてないから!」
そう言いながら、栞凛は腕にかけてあるビニール袋からいろいろと取り出す。
「焼きそばと、広島風お好み焼きでしょ、あとスパボーもあるしあと⋯⋯」
「食べ物ばっかじゃん」
もうこれ以上聞くとキリがなくなりそうなので、このへんで遮った。
「で、ここ離れない?」
この辺は、信じられないぐらい人が集まっている。東京の満員電車ぐらいはパンパンだ。
「そういえば今日花火もあがるらしいよ!」
「花火か」
人混みから少し離れ、ようやく落ち着ける場所についた。
「ねえ、私花火がきれいに見える場所あるんだけど、行こ?」
「え、僕帰りたい」
「だめ! せっかくのデー⋯⋯祭りなんだもん! 最後まで楽しまなきゃ!」
今のは気のせい? 少しそういう関係に見えるような単語が聞こえた。
「ほら、ここ! 見渡しいいでしょ!?」
見渡しは、いいとは言えない。
ここが都会だったらきれいな夜景を見られるのかもしれない。残念だがここは都会ではない。ただ家が並んでいるだけの景色だ。海も見えるわけではない。いつも学校から見てるような景色まんまだった。
「あ、20時になった! 花火始まる!」
その言葉に合わせるように、花火特有の音が聞こえた。
『ヒュ〜、ドォン!』
「きれいだね」
「うん」
別に花火なんてどこも同じと考えてしまう。ただ、僕には違いがわからない。
「ね、ねえ?」
「ん?」
僕は声のした方を見る。
そこには栞凛の顔があった。花火のせいか、顔が赤くなっている。本当に、花火のせいなのか。
「ちょ、っと、聞きたいこと、あって」
「聞きたいこと?」
栞凛は指いじりを始めた。そうとう迷っているように見える。
「ね、え? いい?」
「聞かれましても」
かなり言葉が足りない。さすがにそれじゃ伝わるものも伝わらんよ。
「正直に、さ。答えてね?」
「だから、何がですか?」
できる限りならまあいい。そんな急に東大の過去問でも出されたら少し身構えるものだ。




