第28話 ⋯⋯合格?
「ねえ、ここ教えて」
そう喋りかけてきたのは、栞凛だった。
「あ、これね」
連立方程式。まあこれは簡単だ。
「加減法と代入法、わかる?」
「なにそれ?」
そもそも言葉すら理解していないらしい。
それより、なぜだろう、僕が喋っている間、栞凛の視線をとんでもなく感じる。
「加減法は、式そのものを足す。代入法は、式と式をイコールでつなぐ」
「わかった! じゃあやってみるね!」
栞凛はちゃんと自分の席に戻った。
それと同時に、僕も自分の勉強を始めた。
「ねえ、次ここ」
「(いやはやいな)」
数分したとき、また戻ってきた。
「ここか」
「へ〜、ま、わかった! ありがと!」
そう言いながら、なぜか僕の隣の席に座る。
「え、なんでここ?」
「だって、ほら」
栞凛は見てみろと指をさした。
それに従うように僕は周りを見渡した。
「⋯⋯いなくなってる。いつのまに」
もともとは栞凛の他にも数人いた。もう、終わったのだろうか。
「なんか、気づいたらいなかった。だから、私がここにいてもいいんだよ!」
「よく、ない」
何が良くない、のかはわからない。ただ、1人がいい。それだけの理由だ。
「だって、せっかく2人きりなんだよ!」
と、その空気を壊すような音が響いた。
『ガラガラガラ』
扉が開いた。そこに、足音が重なる。
「ちゃんとやってるかー? って、他のやつらは?」
先生が僕に聞いてくる。栞凛など当てにされてないことだろう。
「え、すみません、わかんないです」
僕は正直に答えた。別に、ここで嘘ついても何の得にもならないが。
「渡瀬、お前は?」
栞凛は少し考えてから言った。
「うーん、わかんない!」
そんなに気楽に言えるわけがわからん。奇妙を通り越している。
「そうか。とりあえず、お前は頑張れよ。徳村は好きに帰っていいぞー」
「えー! ひどい!」
そんな栞凛の叫びは、先生には届かなかった。
「はい、じゃあまた見に来るから、ちゃんとやってろよー!」
「はーい」
やる気のない返事をする栞凛。どうでもいいか。
「ねえ、早く教えて」
「(だからはやすぎねえか?)」
まあ、別に教えるのは苦じゃないが。
******
「もう明日夏祭りじゃん! 今日テスト頑張らないと!」
あれから毎日、栞凛は補習を受けに行っている。僕は、無理やり連れてかれるのもしばし。
「うん。がんば」
僕は応援しておいた。ちなみに僕は祭りには行きたくない。
「うわー! その応援、めっちゃ元気出る〜!」
「⋯⋯あ、そう」
こんなやる気のない応援でやる気が出るなど、都合のいい体だ。
そんなこんなで学校についた。
「じゃ、頑張ってくる!」
「うん」
適当に返事を返し、栞凛を送り出した。
「頼む、合格しないでくれ。そしたら、祭り行かなくて済む」
最低な人間だ。自分で言うことではない、が、やっぱり最低だと思うわけで。
僕は一旦教室へ向かい、自分の勉強をすることにした。
******
「ねえ、どっちだと思う?」
今さっき、こちらの教室に侵入してきた栞凛が聞いてくる。人の陣地にズカズカと入り込んできやがる。せっかく誰もいないから集中出来ていたというのに。
「⋯⋯合格?」
本当は、不合格を願う。ただ、そしたら僕の教え方が悪いって言われるかもしれないという恐怖もある。
「ふふ、今先生が採点してるからわかんない!」
「は?」
とんでもないフェイントだ。見事に引っかかってしまった。
「ま、あとのお楽しみ!」




