第25話 仕方ないな
「なにこれ〜! めっちゃ美味しいんだけど!?」
こいつ、なにを美味しいって言っているか。それは、ただのご飯だ。炊飯器で炊いたのをそのまんま入れただけの、ご飯だ。
「これだけでもう世界通用するよ!」
これに関しては、僕がすごいんじゃない。これを作った炊飯器を作った人がすごいだけだ。
「じゃあ、次これ!」
と、箸で掴もうとしたのは、ゆで卵だ。
「あ、やば!」
ゆで卵が、栞凛の箸をするっと、抜け出した。
「ふぅ、危ない」
「おお、ナイス!」
僕は素手でゆで卵をキャッチした。
「ちょうだい!」
「え、もう触っちゃったから」
と、僕は断ろうとした。本当は、ただ僕が食べたいだけだ。
「いいよ! なんなら大輝くんが触ったから、美味しくなっちゃうよ!」
それは本当に謎理論すぎる。水で洗ったからきれいならまだわかるが。
「さすがにそんなことないでしょ」
「ま、とにかくちょうだい!」
僕の手から、ゆで卵が消え失せた。犯人はこいつだ。
「ん〜、おいし〜! めっちゃちょうどいい!」
なにがちょうどいいのか。よくわからない。
「じゃあさ、大輝くんも、私の手作り、食べてみて!」
あ、手作りね。そうか、手作りか。
「じゃ、いただきます」
僕は一応ハンバーグから手を付けることにした。
「美味しいね」
実際には、まあ、普通ぐらいって感じだ。別に、可もなく、不可もなく。
さすがにそれは言えない。
「でしょ? やっぱ私天才!?」
「ふっ」
僕はつい鼻で笑ってしまった。本当に、そんなつもりはある。
うん、誰がこいつを天才というか教えてもらいたい。
「大輝くん、料理も私よりうまいじゃん! もう、何が出来ないの?」
「運動」
僕は即答した。自分が思ったよりも早く声が出ていた。
「あ、そっか」
「うん」
僕が運動できないのは、当たり前だ。運動できる陰キャなんてごく稀だ。運動できるやつは大体陽キャだけだろうと思う。
気づいたときにはもう、弁当が空になっていた。
時間はまだ11時30分過ぎぐらい。あと1時間半、なにをしようか。
「ねえ、お話、しよ?」
「わかった。(正直暇だし、まあいいか)」
弁当を戻しに教室へ行くのもめんどくさい。それはやらなきゃいけないが。
「ねえ、そういえばさ、誕生日っていつだっけ? ちなみに私9月27日」
「僕は、8月15日」
夏休み真っ只中。どうせ誰にも祝われないことだろう。
「わかった、8月15日、8月15日」
なぜか、覚えようとしている。別に、こんなの覚えたとて、役に立つのはこないだろうが。
「ねえ、明日って何かあったっけ?」
「え、明日、休みでは?」
一瞬、間があった。
「⋯⋯あ。確かに」
「来週行ったらすぐ夏休みだし」
そのとき、栞凛が一瞬不敵な笑みを浮かべたのは気のせいか。
「そっ、か。夏休み、だ」
「それが、何か?」
「ううん! 何も」
なんか、なにかありそうな雰囲気をさらけ出しまくっているのは、気のせいにしておく。
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「あ、もうすぐ始まるよ!」
「あ、本当だ」
気づいたときには時計の短針が、1時を指そうとしていた。
「そろそろ行こっか!」
「うん」
僕は仕方なく栞凛についていくことにした。
テントに着くと、もうみんなが集合していた。
「お前、頑張れよ」
「応援してるね!」
リレーの代表選手をみんなが応援していた。
「私たちも、応援しないとね!」
「してくれば、いいのでは?」
なぜか一向に僕から離れようとしない。僕はもうすぐに離れたい。
「だって、大輝くんも行かないと」
「いや、僕は⋯⋯」
「じゃあ私も!」
やっぱり行こうとしない。まったく、仕方ないな。




