第24話 僕のが盗まれた
「あった! 中庭だよ!」
「え⋯⋯?」
僕は中庭につれてこられた。
「ここなら、2人で食べられるでしょ!?」
「やだ。虫、いる」
この暑い夏の季節、虫が大放出されている。
今も、セミの鳴き声がクソほどにうるさい。
「あー、本当だ」
「やめない?」
「うん」
と、結局中庭では食べないことにした。それで正解だろう。
「あ、私いいところ知ってるんだよね! ついてきて!」
「え?」
僕は反応する暇もなく、問答無用で引っ張られた。まったく、人の意見を聞けってものだ。
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「ここ、ずっと使われてないんだよね」
と、栞凛につれてこられたのは、階段裏の狭い空間だった。
「なに、ここ?」
「ここは、なんかよくわかんないけど、ちょうどよくない?」
確かに、ちょうどいい。高さ、広さも、2人で食べるのにはちょうどいいだろう。
「じゃあ、さよなら」
「え!? なんで!?」
「え?」
僕は教室で食べたい。そっちの方が、慣れてるし。
「一緒に食べないの? 食べたくないの?」
「別に、そういうことじゃ⋯⋯」
「じゃあ一緒に食べよ!」
僕はただただ教室で食べたいだけだ。2時間もあれば、どれだけの問題をこなせるか。
「え、え?」
「『え?』ってなに? だって私たち、そういう関係でしょ?」
その瞬間、僕の思考はショートした。
「(は? え? ん?)」
思考が一切追いつかない。いつそうなったのか。
「え、だって、関係が近づきたい人って」
「そっちか⋯⋯」
僕は胸を撫で下ろした。めちゃくちゃ安堵した。
「え? あ、そっちだと思っちゃった?」
さっきから『そういう』だとか、『そっち』だとか、ややこしい言い回しはやめてほしい。
「早く、食べよ?」
「まあ、はい」
もう、ここから教室に戻るのはめんどくさい。だからここで仕方なく一緒に食べてあげよう。
「ねえ、見てこれ! 私がめっちゃ頑張って作ったんだよ!」
その弁当には、色々と入っていた。
ハート型にした卵焼き、少し焼き焦げたでかめのハンバーグ、申し訳程度に添えられた野菜があった。
「あとこれ!」
栞凛が出したのは、海苔が巻かれたおにぎり2つだった。
「美味しそうですね」
こういうのは、そう言っておくのが礼儀だろう。一応、言っておく。
「ねえ、大輝くんはさ、自分で作ったりした?」
「今日のは、まあ」
自分で作った、と付け加える。
お母さんが体調不良だったから、自分で作ることにしたのだ。
「なにこれ!? 超きれいなんだけど!?」
なぜか、弁当の蓋が勝手に開けられている。まあいいか。
「うわー、これ、食べたい!」
唐揚げ、サバ、ブロッコリー、ゆで卵にトマトと、別に変なものはなにも入っていない。
「じゃあさ、交換しない?」
「えー、なんで?」
嫌だ。なんか、自分が作ったやつを他人には食べてほしくない。
「ねー! いいじゃん!」
「せめて、理由がないと」
「理由かあ」
と言いながら、目をつむり、考え始めた。ようにも見える。
何も考えていないようにも見える。
「チャンス!」
僕が水筒を飲もうとした瞬間の出来事だった。
僕の弁当が、目の前からなくなった。
「え?」
「あ、こっちあげるから!」
と差し出されたのは、僕の弁当ではない。
「うわ〜、全部美味しそうなんだけど!?」
別に、そんじゃそこらの弁当となんら変わらないだろう。なんならそれに劣るレベルだと思う。
「あの、返してくれません?」
「後で返すよ!」
後で、そのときにはどうせ中身がすべて盗まれていることだろう。




