第26話 無関係だし
「第3競技、選抜リレーです」
放送がかかった。
代表の選手が、スタート位置に並んでいる。
「頑張れー! 行っけー!」
隣からは、大きな声援が聞こえた。
「(うるさいなあ)」
「ほら、大輝くんも一緒にさ、応援しようよ!」
僕は体育祭反対派の1人だ。応援する理由が見つからない。
「え、なんでですか」
「なんで、って、クラスメイトが頑張るんだよ!?」
僕は体育祭が嫌いだ。そんな僕がこの地獄に積極的に参加する意味はあるのか。
「僕には、関係ないので」
「まあ、やっぱいいや!」
なんか、すぐに引き下がった。理由がないからか。
「じゃあ、さ、私とお話しよ?」
なぜか、頬が赤い。
「話すって、何を?」
「⋯⋯」
「⋯⋯」
リレーの声援をよそに、ここでは静寂が流れた。
「ねえ、夏休み、大輝くん、暇?」
暇かといわれると暇だ。ただ、やることはある。
「受験勉強で、忙しい」
「じゃあ暇だね」
僕は嘘をついてない。もう今年度には受験が控えているのだから。
「暇、だからなんですか?」
「ううん。暇かな、って。それだけ」
実に怪しい。怪しすぎる。絶対何かいいたいことがあるだろうに。
「じゃあ、さ。夏休み、遊ぼう?」
「遊んでる暇はないですが」
勉強で忙しいって言うてますが、日本語わかってないのか。
「⋯⋯だ、め?」
上目遣いで甘ったるいような声を響かせている。こうやったら断れないとでも思っているのは、バカバカしい。
「何をするかにもよる」
まあ、補習に付き合うぐらいなら、やってあげるかもだが。
「あの、さ。一緒に⋯⋯」
「おおおおおお!」
「行けー! 頑張れ!」
「行ける!」
そこを境に、周りの歓声がより一層大きくなった。そのせいで、栞凛の声など微塵も聞こえなくなった。
「⋯⋯くれる?」
重要な部分だけ聞き取れなかった。こいつには今の歓声は聞こえていないのだろうか。
「なんですか?」
「え、聞いてなかった!?」
正しくは、聞こえなかった。やっぱり、あの声援がこいつの耳には一切届いていなかった。
「聞いてはいたよ」
「じゃあわかるじゃん。二度も言わせないで」
これは、明らかに周りが悪い。僕は聞こうとしてた。
「今の歓声、聞こえてた?」
「え? 私の声聞こえてたって? じゃあ答えられるじゃん」
こいつ、耳がおかしい。あの歓声も聞こえず、ここも聞き間違えるとは。
「ねえ、どっち? 答えて」
こっちも答えたいさ。いくらなんでも問題がないのに答えを出せなんて、アインシュタインでも不可能だろう。
「聞き取れてないから」
「やっぱ聞いてなかったんだ」
だから、もうこいつ、都合のいいようにしようとしてやがる。
「じゃあ、絶対に断らないって約束してくれれば、いいよ」
「なら遠慮する」
うん。こっちに不利益が降りかかることを考えると、こうするのが妥当だろう。
「え!? ちょっと待ってよ!」
「待つって、なにを?」
こいつ、わかりにくい。なにを考えているのか。
「えー! いいよって言って!」
無駄すぎる。僕になにもメリットがない。
「なんで僕が『いいよ』なんか言わなきゃ⋯⋯」
「やった! 今いいよって言ったね!」
「⋯⋯は?」
いやいや、なんだこいつ。意味不明すぎる。
「じゃあなに聞いたか教えてあげるよ!」
「いい。いらない」
もしこれを聞いたら、本当にいいよって言ったことになってしまう。それだけは防がねば。
「えっとね、『一緒に、夏祭り、行ってくれる?』ってね!」




