第22話 該当しない
「第2競技、借り人競争です。3年生は、準備してください」
放送で、そう言われた。
「じゃあ、私、行ってくるね!」
「うん」
ずっと手を振りながら去っていく栞凛に、一応手を振り返す。
「(よし、隠れておこう。絶対、あいつが来る)」
なんとなくだが、栞凛が僕のところへ来る、そんな気がした。
「(よし、ここなら)」
僕が隠れたのは、応援してる人たちの背後だ。いわゆる、灯台下ぐらし的な。
「(孤立してないほうが、意外と隠れやすかったりするんだよね、こういうのって)」
みんなは暑いからか、テントからはあまり出ていない。それが僕には好都合だった。
人が壁になるかつ、日陰で見にくいっていうダブルパンチだ。
気づいたときにはもう走り始めていた。
「大輝、お前の彼女さんがもうすぐ走るぞ」
「え? (彼女? 僕にそんなものはいない。作る気なんてさらさらない)」
そんな僕の思いなど相手にされない。
「ほら、早く前出ろよ? なあ陰キャ」
「いやだ。僕に、彼女は、いらな――」
そう言おうとした僕をぶん殴りたい。
たった今、すべてのクラスメイトから痛い視線を浴びさせられている。
「お前、あの美女と付き合えてるだけで恵まれてると思えよ?」
「こんなこと、生涯で一度きりだと思え」
「さすがに、その発言はないでしょ、大輝さん」
なぜだ、なぜか、みんなに勘違いされている。
「(どれだ? どこから勘違いされた?)」
大輝は、一度自分の行動を振り返ることにした。
「(大玉は、多分僕が残ってたから、声かけてくれただけだろうし⋯⋯)」
それ以外のところも、一切勘違いされるような行動はなかった。
「(一緒に帰ったのも、家行ったのも、勉強するため。あの保健室も、隣の席だったからだろうし⋯⋯)」
なにがいけなかったか、なにがだめだったのか、僕では到底たどり着けなさそうだった。
「おい、クソ彼氏。彼女様が走り始めたぞ」
人という壁の中から声がする。
「いや、僕は、僕は彼氏じゃ――」
そんなとき、ニヤニヤした顔でこちらに向かってくるのが栞凛だ。
僕はバレないように、身をかがめる。
「(ここを、ここを乗り切れば、解放される!)」
「うーん、いないなあ」
そう言いながら、栞凛は別のところへ向かっていった。
「(よし、乗り越えた。危なかっ――)」
「大輝、前出ろよ!」
僕は首を振った。振る速度は、限界を突破していた。
「は? 彼女がお前のこと探してんだぞ? それでも彼氏かよ」
「だから、僕は、彼氏じゃ――」
僕の意見なんて誰も聞いてくれない。問答無用で立たされた。
「お前はここにいろ」
一番前の、日向の部分へ引っ張り出された。
「ほら、来てるぞ?」
「(まずい、見つかった。もう、終わった)」
栞凛はニコニコの笑顔でこっちに向かって走ってくる。
「大輝くん、捕まえた! もう逃さないからね!」
僕は腕を掴まれた。いやだ、行きたくない。
「お題に沿った人じゃないよ、僕は」
「大輝くん、お題知らないでしょ」
渾身の言い訳をするが、無意味なようだ。
問答無用で連れて行かれた。
「私アンカーなの。早くしないと」
「じゃ、じゃあ、せめてお題を教えて」
「え?」
栞凛には、ためらいが見えた。何をそんなにためらう必要があるのか。
走ろうとしていた足が、ストップした。
「言わなきゃ、だめ?」
「うん」
栞凛の顔が赤らんだ。疲れたのだろうか。
「今じゃなきゃ、だめ?」
「(言ったらなにか問題でもあるのか?)」
そう言って、また無理やり引っ張られた。
僕が該当しない人物だったら、こいつはどうするのか。
「(どうせ、やり直しになるだろうな)」




