第21話 僕の方が心配
「第1競技、大玉ころがしです。3年生は準備をしてください」
ついに、このときがやってきてしまった。
「頑張ろうね!」
「⋯⋯はい」
頑張りたくはない。なんなら置いていってもらって構わない。
「絶対一緒に、ゴールしようね!」
栞凛は、太陽のような笑顔を僕に向けた。
「僕なんて、置いていっても、誰も文句は言わないから」
「それは私が嫌なの!」
栞凛は力強く言った。
なぜそんなにムキになるのか。
「ちゃんと合わせるから! ね?」
「それじゃ、僕が足手まといじゃ?」
僕のせいで遅くなっている。完全に足手まといだ。
「大丈夫! 私がなんとかするから!」
「なんとか、って、具体的に?」
「⋯⋯」
沈黙が流れる。何も考えていなかったらしい。
「まあ、とにかく、頑張るの!」
「適当すぎ」
せめてどう対処するか、考えてから発言してもらいたいものだ。
「ほら、もう来るよ! いい?」
「まあ、うん」
さて、頑張ってくれよ。
この大玉ころがしを、他人事として処理することに決定した。
「ちょ、始まるよ!」
「あー、うん」
完全にボーっとしていて、なにも考えてなかった。
『ピーッ!』
そんな笛の音とともに、各クラス、第一走者が走り出した。
「走れるかなあ?」
「(いや、なぜこいつが心配する? 僕の方が100倍心配なのに)」
段々と、順番が近づいてきた。
もう、次の走者になってしまっている。
「いい? 行くよ!」
その声に少し遅れて、前の走者がゴールした。
大玉が完全なバトンになっている。
「レッツゴー!」
そう言いながら、大玉を転がしだした。
やっぱり案の定、ついていけない。
「ちょっと、速いよ」
「あ、ごめ〜ん」
そう言いながら、栞凛は少し速度を落とした。
「もうすぐ曲がるよ! 左ね!」
その言葉を聞いたとき、思考回路が『?』で埋め尽くされた。
そこに、一瞬の沈黙が流れた。周りの歓声も、すべてシャットダウンされた。
「⋯⋯え?」
「あ、右! 右だ!」
悲報、こいつは中3にもなって左右がわからなかった。かなり絶望的では?
僕にはもう、それが信じられなかった。
「ここ、ここね! 曲がるよ!」
栞凛は曲がると言いながら、まったく減速する気配がない。
僕はその減速しない大玉の軌道を、そのまま曲げようとした。――それが失敗だった。
「ちょ、急に曲がらないでよね! ってま、待って――」
栞凛が、バランスを崩し、転びそうになった。
「やば、転ぶ――」
「よっ、と」
その瞬間、僕は勝手に栞凛の腕を掴んでいた。
そして、引き上げた。
すると、周りからはなぜか歓声が起こった。一瞬だが、他の走者もこちらに目を向けた気がした。
「え? 大輝、くん?」
明らかに栞凛の声が変わった。甘ったるい、これを甘えるというのか、そんな声になった。
「減速してから曲がる。いい?」
そんな栞凛に対しても、僕は現実を突きつける。
「あ、ありがと」
あとは直線だけ。山場は、超えた。
「絶対、置いていったりなんか、しないから」
栞凛のその言葉は、嘘ではなかった。
ちゃんと、足が遅い僕にペースを合わせて走ってくれている。
「はい! お願いね!」
栞凛はそう言いながら、次の走者へ大玉をパスした。その隣には、一緒に走り終えた僕もいる。
「ほら、ね? 一緒に完走したほうが、気持ちいいでしょ?」
僕は、少し考えた。
「⋯⋯別に」
出てきた答えは、ただ1つだった。
「次も、頑張ろうね!」
次、というのはいつなのか。どういう、次、なのか。




