第20話 地獄の始まり
あれからしばらくが経ち、地獄の日が来てしまった。
「弁当作った? ごめんね、母さんこんなときに体調崩しちゃって」
「全然。安静にしてて。来なくていいから」
むしろ、来ないでほしい。
体育祭なんて僕からしたら運動音痴の公開処刑にしかならない。
「じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
扉を開けると、もう日常になりうるような光景があった。
「さ、今日は体育祭だよ! 頑張ろうね!」
僕は一瞬、黙った。
「⋯⋯できるだけ」
本当は僕が体調不良になりたかった。こんな地獄、絶対に出席したくない。
「じゃあ、競争しよ!」
「お好きにどうぞ」
「冷たいなあ」
そんな会話をしながら、地獄が行われる会場へ向かうことにした。
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「ついに、ついてしまった」
「教室行こ! 弁当だけ置きにいったらテント集合だったよね」
「確か」
僕は行きたくない。あの会場についてしまったら、もう公開処刑の始まりだ。
「速く行くよ! 遅れちゃう!」
僕は栞凛に手首を掴まれた。無理やり引っ張られている。
「ほら、階段だよ。上って!」
「行きたくない」
「速く行くよ!」
仕方ない、行くか。僕は決心して、行くことにした。本当は、冷房の効いた教室で勉強でもしてたいわけだが。
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「楽しみ〜! 見て! いっぱい人がいるよ!」
「うん。それで?」
「え、別に、それだけだけど」
太陽の光が差し込んでくる。雲1つない快晴で、すごく蒸し暑い。
「あ、そろそろ開会式始まっちゃう!」
「うん。動きたくない」
ずっと日陰のテントの中で、みんなが動いてる様を見ている、それだけでもお腹いっぱいだ。
「はい、行くよ!」
「えー」
無理やり立たされた。
手を握られ、逃げたくても逃げられない。
「(あー、めんどくさい。体育祭なんて、消えてしまえばいい。こんなの地獄でしかない)」
そんなことを考えていると、栞凛に話しかけられた。
「それにしても暑いね。今日最高気温何度か知ってる?」
「36℃だったと思う。昼間の最低気温は28℃だったかな」
「暑っ! そりゃ暑いね」
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しばらくが経ち、開会式が始まった。
「ただいまより、開会式を始めます」
この開会式が、1番平和だ。つまり、嵐の前の静けさってことだ。
このあとは、地獄しか待っていないのだ。
「開会式さあ、1番いらないよね。消していいよ」
栞凛が小声で言ってきた。
「(ここが1番平和な時間だ。この時間を奪わないでくれ)」
「体操だけでいいよね本当に」
体操はしなくていい。体操をしたら、このあと運動しますよーって言ってるようなものだ。
今日はあいにくの快晴。降水確率は0%だった。
どこのサイトを見ても、どこのチャンネルを見ても、降水確率は0%ばかり。
「少しぐらい夢を見させてくれたって」
ほとんどの人は発狂するレベルで嫌なことだろうが、僕には関係ない。なんならそれで幸せになる1人だ。
「これで開会式を終わります」
どうたらこうたら考えているうちに、気づいたときにはもう開会式は終わっていた。
ここからは、地獄がが始まってしまう。もう、嫌だ。
「最初、頑張ろう! 私ちゃんと合わせるから! 置いていかないようにするね!」
「むしろ、置いてって。僕いないほうがスムーズに進むし」
一瞬、間が流れる。
「⋯⋯だめだよ! 一緒に走ってこそ意味があるから!」
栞凛にしては珍しく、いいことを言うなあと思った。
ただ、なぜ僕と一緒がいいのかはわからない。




