第19話 語彙力なさすぎ
その日の昼休み。
大玉転がしの練習があった。
「頑張ろうね!」
隣には健気にウインクをかます栞凛がいる。
「やれることは、やります」
正直、どう考えてもこの組み合わせはおかしい。
明らかに足の速さが違う。
「大輝くん、ちゃんとついてきてね!」
「できれば、そうしたい」
もちろん、僕が遅い方だ。
「え、でもそこまで変わらないでしょ?」
「僕9.4秒だけど」
その後、少し沈黙が流れた。
「なんか、ごめんね」
テヘペロ、と栞凛は自分の頭を叩いていた。
「ちなみに、何秒なの?」
「8.2秒だよ」
その差約1秒。この大差をどう埋めろというのかね。
「あ、そろそろ始まるよ」
「まだ全然先だけど」
僕らの番はアンカーの1つ手前。かなり遅い方だ。
「よーい、始め!」
笛の音とともに、第1走者が走っていった。
ルートは、まっすぐ進んで折り返すだけの、単調な道のりだ。
「大丈夫かなあ⋯⋯」
なぜこいつが心配しているのか。僕の方が心配だよ、と言いなくなる。
「そろそろじゃない?」
気づいたときにはもう次の番まで来ていた。
「さて、行くよ!」
「わかりました」
大玉がパスされる。それと同時に、僕はスタートする。
「大輝くん右! 右押して!」
「押してるよ」
「もっと強く!」
案の定、僕は置いていかれそうになる。
「Uターンだよ! 大輝くんそのまま押してて!」
「わかった」
僕はそのまま進んだ。
栞凛が進行方向をちゃんと制御してくれたおかげで、何事もなく曲がれた。
「あとは直進! 全速力だよ!」
もう、大玉に遊ばれている気分だ。完全に弄ばれている気がした。
「ほら、速く走って!」
2人が指定されたラインを超えないと、パスができない。
僕が全速力で走った。この弱そうな足で走りきった。
「大輝くん、もうちょっと頑張ってよ〜」
こっちはもう体力の限界だ。それなのにどうしてこいつは元気なのか。
「⋯⋯もう、無理、走れない」
「そんなに疲れたの? まあまあ、頑張れ」
ボロクソに煽られた。陰キャに万能な運動神経をもとめるやつが悪い。
運動できない陰キャで何が悪い。
「はい、座って。アンカーゴールしたよ」
「うん」
僕はその場にしゃがんだ。
他のクラスも、続々と座っていった。
最後のクラスが終わったとき、まるで見計らったかのように昼休みが終わった。
「解散!」
担任が言った。
その言葉に、全員が一斉に立ち上がった。
「ゆっくり行こ。一緒にね!」
「わかった」
こんな人混みに飲み込まれるのは僕も嫌だ。
しかたなく栞凛と教室へ戻ることにした。
「どうだった? 意外と簡単じゃない?」
「簡単じゃない」
ぼそっと呟いた。それを拾ってくれるのが栞凛である。
「うーん、コツはねえ⋯⋯」
「⋯⋯」
「ゴロゴロってしてドーンってしてイェーイってやればできるよ」
うまく説明をしようとしてくれてるのはわかる。わかるのだが、あまりにも語彙力がなさすぎてなにも伝わらない。
「あ、うん」
ようやく校舎内に入れた。ここまででも結構な時間が経っている。
靴を下駄箱に戻し、上履きを取り出した。
「あ、あと2分しかない。急がなきゃ」
僕は早歩きで教室へ向かうことにした。
「なんか大輝くん、早歩きは異常に速いよね」
「そうかな」
僕には違いがわからない。栞凛が違うというなら違うのだろう。
「あ、今日って4時間で終わりだっけ?」
「うん。もうこのあとすぐ下校」
「よし、今日もよろしくね!」
僕は、察したくない。まあ、今日もというなら、どうせそういうことだろう。言われるまで行く気はさらさらないが。




