第18話 昨日に戻りたい
『ブルル』
スマホが震えた。
僕はそれを完全に無視した。
「(通知は切った。誰も連絡返すとは言ってない)」
『ブルル』
これは、ただうるさいだけ。本当にうるさい。
「(うるさいなあ。もうすぐこのワーク3周目終わるんだよ。集中させてくれ)」
僕がそう思っていても、スマホは止まることを知らない。
ずっとうるさいままだ。
「(約束は破ってないから、いいか)」
僕は3周目のワークを終わらせようと筆を進めた。
すると、スマホの震えが連続で規則的に来るようになった。
「(電話か。でなくてもいいな)」
そのとき、家の1階から声がした。
「風呂はいりなさーい!」
「はーい」
僕は震えが止まらないスマホを無視して、風呂へ向かった。
******
「あ、やっと出てきた」
朝だ。完全に待ち伏せされていた。
「今日は30分も待ってたんだよ?」
「だから?」
「そこじゃなくてね?」
栞凛が話すことはわかっている。予想はなんとなくついている。
「どうして反応してくれなかったの? 連絡するって言ったじゃん」
「通知は切ってないよ」
「え、返してくれなかったじゃん」
まあ、当たり前の反応だろう。僕もひねくれてるとは思った。
「誰も返事をするとは言ってないよ」
そこには、一瞬の沈黙が流れた。
「⋯⋯あ」
「そういうこと」
僕は歩き出した。今日もかなり早めに出たし、十分余裕はあるだろう。
******
「今日の朝のホームルームは、昨日決めきれなかった体育祭のことやるぞー」
先生がみんなに聞こえる声で言った。たった今、朝のホームルームが始まったばかりだ。
「今日の日直は明日に回すから、やらなくていいよ」
そのとき、横から声がした。
「昨日って、何決めてないの?」
「知らない」
知るわけない。こいつにつかまっていたときだ。
「まず、借り人リレーだが、出たい人いるか?」
「はーい!」
1人だけ、元気よく返事をした人がいる。
「お、他にいないか?」
誰も手をあげない。
「渡瀬は決定な。あと3人、だれかやってくれるやつ?」
沈黙が流れる。誰1人としてやってくれそうな人はいない。
「あ、じゃあ」
そう言って、誰かが手をあげた。その流れに乗って、もう2人も決まった。
「この4人で決定でいいか?」
誰も異論はないようだ。
『キーンコーンカーンコーン』
予鈴が鳴った。ホームルームが終わる時間だ。
「楽しみだね!」
隣から声がする。とてもうるさい。
「待っててよね!」
待つとはなにか。なにを待つのか、さっぱり検討がつかない。
「あ、1時間目移動教室じゃん、急がなきゃ」
「先行くから」
僕は栞凛が悠長に話している間に支度を終わらせていた。
「待ってよ!」
「ちょっとね」
まだあと10分ほどある。時間に余裕があるから、待っている。
クラスメイトはもう誰もいなくなっていた。
******
1時間目が始まった。昨日より、隣がうるさい。
「(昨日に戻りたい⋯⋯)」
またあの静かな空間に戻りたいと思った。
「ねえ見てこれ。意外とうまくかけた!」
そう言いながらノートを見せつけてくる。
「邪魔。授業中」
「いいじゃんちょっとくらい」
栞凛がそっぽを向いた。
「(やっと静かになった)」
「え、なんか言ってよ」
静かじゃなくなった。一瞬で静寂は消え去ってしまった。
このあともこれが続くと思うと、ゾッとするものである。




