第17話 ただの演技か
「(待てよ、この顔、見たことあるぞ)」
僕は記憶を追い返してみる。
確か、授業参観の日にちを間違えて来てた人だ。校門で先生たちに止められてるところを知っている。
「えっと、授業参観、間違えてましたか?」
入りとしてはかなりおかしい。だが、相手は明らかに動揺したのが伺えた。
「え、ママ、間違えてたの?」
反応からして、栞凛も初知りらしい。
そりゃ結構恥ずかしいことだから隠したくはなるか。
「そんなことより、あんたたちどういう関係⋯⋯あー」
今の『あー』はなんだ? なにか感づいたのか?
「青春いいわねえ」
「(あー、なるほどね。そういう関係だと思ったわけだ)」
「でしょ?」
問題はこいつだ。その言葉に便乗するな。本当にそういう関係だと思われるじゃないか。
「ごめんなさいね。今栞凛は熱だから、近づかない方がいいわよ」
「(んなの知っている。僕じゃない、向こうから近づいてきたんだ)」
「どうしても、って言うから〜」
一度たりともそんなことは言っていない。一切の誤解だ。
「心配して見に来てくれたのね?」
「うん、出たら、ちょっと、ふらふらしちゃって」
出た、というより出てたが正しい。僕はただ前を通りかかったに過ぎない。
勝手に突っかかってきておいて、あとは自分がいいように誤解を生む、どういう思考なのだろうか。
「ありがとうねえ。ついでに上がっていく?」
「うん!」
栞凛が返事をした。頷いた拍子に、僕の頭にあごが当たった。
「栞凛が決めることじゃないでしょ?」
「⋯⋯はーい」
めちゃめちゃ笑顔で問いかけてくる。これが無言の圧というものだ。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「え? 言葉に甘える?」
「先行ってなさい。荷物は持って行くよ」
この言葉を理解していない栞凛は、うるさいぐらいに聞いてくる。
「ねえ、言葉に甘える、ってなに?」
「自分で調べろ」
「えー、めんどくさい」
こいつ、さっきとは打って変わって元気になってやがる。あのふらふらも演技だったと気づくのは、かなり遅かった。
「こんなものしかないけど、よかったらどうぞ」
そう言って差し出されたのは、クッキーだった。
「あ、これ私が作ったやつじゃん」
「だって、そういうことでしょ?」
「あ、確かに。食べていいよ!」
なんの確かに、なのかさっぱりわからない。それにどういう意図があるのか、僕にはさっぱりだった。
「今のうちに、知ってもらわないと」
「そうだね」
そんな親子の会話に、僕はついていけず、ぽかんとしてる。
「で、栞凛、体調は大丈夫なの?」
「うん。さっきの体温は36.9℃だったよ」
「(平熱じゃねえか。それで僕におんぶを懇願したなら、意味不明すぎる)」
さっきから、横がクッキーを食べる音でうるさい。サクサクと音がなってるのはいいかもしれないが。
「大輝くんは食べないの? おいしいよ?」
「いらない。お腹空いてないし。(それに、なんでこいつの手作りを食べなきゃいけないのか)」
「あ、毒入ってるって思ってる? 大丈夫だよほら!」
そんなこと思うわけがない。実際、栞凛がそんなに高度なこと、思いつくわけがない。
「あの、そろそろ帰っても?」
「そうね。いつでも来ていいわよ」
「(もう二度と来たくない。絶対に)」
僕はカバンを背負い、家を出ることにした。
その後ろを、トコトコとついてくる者がいる。
「ついてこないで」
「えー、いいじゃん。もう元気だし!」
「やだ」
「じゃあ約束してね!」
こいつがいないと静か、いるとうるさい。
「今日の夜、連絡するから、通知切らないでね」
連絡って、なにも話すことはないが?




