第15話 離して
「先生は戻る。徳村はいてやってくれ」
「え、僕も⋯⋯」
完全に無視された。無視なんてひどい先生だ。
「ちょっとまっててちょうだいね」
保健室の先生までもが、保健室から少し席を離す。
病人がいるのに席を外すのはどうなんだ?
「2人に、なっちゃった、ね」
残念そうに言うが、微塵も残念に感じていないような、なんなら嬉しいまである雰囲気だった。
「ね、え? どうしてさ、そんなに、戻りたいの? そんなに、私と一緒が、嫌だ?」
栞凛が聞いてくる。いつものような圧はなく、そこまで興味がないように見えた。
「うん。僕はずっと1人でいいから」
「ずっと1人、か⋯⋯」
なんだろう、その言い方。気持ち悪い後味が残るからやめてくれ。
栞凛は、なぜか悲しい表情をした。
「だよね。大輝、くんは、ね」
まるで僕じゃなかったらというような言い方だ。
そのとき、扉が開く音とともに、担任がやってくる。
「親御さんが迎えに来てくれるみたいだ。徳村も戻っていいぞ」
「やだ」
僕が口を開く前に、回答が飛んできた。栞凛が答えていたのだ。
栞凛の方を見ると、少し意地悪そうな表情を浮かべていた。
「そうか。いたいならいてもいいぞ」
本当に、そういうわけではない。うん、本当に。
僕は今すぐに戻りたい。早くこの場を、離れたい。
「ありが、と」
「(自分で言っといて、なに言ってんだ)」
と心の中でツッコミを入れる。
仕方ない、ここにいてやろう、と思う。
「ちょっと待ってろよ」
先生が行ってしまう。行かないでくれ。
「寝転がらないの?」
「うん。だって⋯⋯くんの顔、見たい、し」
うまく聞き取れなかった。多分聞き取れなくて正解だったやつだと直感する。
「大輝、くんはさ、私のこと、嫌いなの?」
「え?」
僕は正直、人に興味がない。だからそもそも人に好きとか嫌いとか、そういう考えすら湧かないし、わからない。人に対してそういう感情を持ったことは、今までで一度もないことだ。
ただ、一応考えてみる。――少し、沈黙が流れた。
「別に、興味ない。人に対して、そういうのが、ない」
「⋯⋯そっか。なら、頑張らないと」
こいつは何を頑張るんだ? 僕にはさっぱりだ。わかるのは、こいつが何かを頑張る、それだけだ。
「頑張るって、なにを?」
「別に。なんでも、ない」
今すぐここを離れたい。離れたくて仕方がない。
ただ、先生に頼まれたことだ。一応、ちゃんとやりきりたい。
そのとき、扉が開いた。
「渡瀬。 親御さんが迎えに来たぞ。徳村も教室帰っていいぞ」
「だめ。私の」
その瞬間、僕の手は温かくなった。そして栞凛にさらわれていった。
「離して?」
もう戻っていいと言われたのだ。今すぐに戻りたい。
「徳村、渡瀬の荷物、持ってきてくれるか? 取りに行くだけだ」
「わかりました」
僕はそう言いながら、掴まれた手を引き離す。
栞凛が弱ってるからか、とても簡単に引き離すことができた。
「(やっと、抜け出せた)」
僕は急ぎ足で教室に向かった。
もう、荷物はすべて準備されていた。あと運ぶだけだ。
栞凛の席に置かれていた荷物を、僕は手で持った。背負いたくはない。
「(なんだこれ、重すぎる)」
僕の荷物より断然重い。正直どうでもいい。
******
「これです。お願いします」
僕は栞凛の親に荷物を手渡した。さすがに今の栞凛には持てないと思ったからだ。
「ちゃんと、待ってて、ね」
さっきからなぜか、栞凛は行こうとしない。なんなら、僕の手首を掴んでいる。
「(熱が移る。早く離してくれ)」
表面上では、そう思っていた。表面上では。




