第14話 意外と軽い
先生にも頼まれて、結局僕が行く羽目になってしまった。
「ね、ねえ?」
保健室に向かう途中、栞凛が話しかけてきた。
「さっきの、私たち、どう、見られてたと、思う?」
頑張って振り絞って出した、そんなような声に聞こえる。
「考えたくもない。思考回路にそんな単語が入るのを僕は許したくない」
「じゃあ、言わないで、おく。でも⋯⋯」
そこで言葉が途切れた。
でものあと、なにかわからない。すごく後味が悪い。
「歩けるか?」
さっきは、ゆっくりとなんとか歩いてこれていた。
今は違う、ほとんど、引きずっているようなもんだと思う。
「ある、けない、かも。おん、ぶ、むり?」
今、とても危うい単語が聞こえた。
「(『おんぶ』だと? 絶対に嫌だ。それならまだ1日ご飯を食べないよりも嫌だ)」
だが、状況が状況だ。かなり栞凛の体力が持たない状態。
保健室までは半分の階段を下ればあとは直線だ。
「わかった」
仕方なく背中を開けることにした。そこには、栞凛が乗ってくる。
僕が思っていた以上に軽かった。なんとなく体重も想像ができたが、言わないでおく。
「重い、でしょ? これでも、49kgだから」
耳元から声が聞こえる。そこに、温かいような吐息も混ざっていた。
「(体重、言うのか。珍しい)」
個人的に、女性はみんな体重を言うのを恥ずかしがると思っている。それは偏見なのだろうか。
「持った、だけで、重さ、わかる、でしょ?」
まあ否定はしない。大体こんなもんだろうなあぐらいの想定しかできないが。
「ここ、緊張、する」
栞凛のその言葉通りだ。背中で感じる栞凛の鼓動が、だんだん早くなっているような気がする。
ここというのは、僕の背中のことだろう。
「保健室、にいて、ほしい、な」
僕はその言葉に、首が起き上がりそうになった。
危ない、と引っ込める。栞凛の頭とぶつかるところだった。
「どうせ、熱、だから。たまには、サボっても、いいんじゃ、ない?」
サボる、というのは授業のことだろう。
2時間目からは普通の授業だからだ。
「サボるためなら、戻る。理由ちゃんと言って」
自分でも思う。僕は空気を察しない人間だと。
「いい、から、いて、ほしいの」
そうこう話していると、保健室についた。
「そろそろ、立って」
さすがに腰がきつくなってきたところだった。ここれおろせる。――と僕は錯覚していた。
「やだ。ここに、いる」
明らかにさっきよりも腕の力が強くなっている。
「だって、ここ、落ち着く」
なにが落ち着くのか。僕の背中にそんな心を落ち着かせる要素なんてないのだが?
「落ち着く? そんなわけ」
「だって、落ち着く、もん」
そのとき、扉が開いた。
「あら、まあ」
保健室の前でごちゃごちゃ話していたからだろう。さすがに注意しようと出てきたらこんな光景なら、誰もが驚くだろう。
「おいで」
優しい笑顔で手招きする保健室の先生に、僕は悪意を感じた。
まあどうせ離せることには変わりない、とそのまま中に入った。
「さすがに降りて。僕戻らなきゃ」
「いいのよ」
栞凛が答える前に、なぜか保健室の先生が答えている。
先生が言うなら、いいのか? そんなわけはないと思う。
「熱かな? 体温測ろうか」
さすがに体温を測るときは降ろすことができた。
そこで逃げようとしていた僕がバカだった。
「渡瀬、大丈夫か?」
僕が急いで教室に戻ろうとすると、目の前には担任が現れた。
「徳村はもう戻るのか? もう少し付き添ってやれよ」
この場にいる、誰1人として、僕が教室に戻ることへの賛成がほとんどない。
僕は、しばらくはここにいなきゃと、意気込むことにした。




