第11話 そんな嬉しいか?
ポツポツと傘が雨を弾く音が聞こえる。
そして僕のとなりには渾身の笑顔であろう栞凛がいる。
その栞凛はなぜか顔が赤くなっている。なぜだろうか。
「相合い傘じゃん! やばすぎ!」
この狭い傘の中に、男女2人が一緒に入ろうもんなら、周りからどう思われようが仕方ない。
これもすべて、折りたたみ傘を忘れた僕が悪いのだが。
「別に走って帰るけど。濡れてもいいし」
「風邪引いちゃうかもしれないじゃん?」
と、そういう理由で抜け出せなくなっている。僕は今すぐにでも走り出したい。
幸い周りには人影はなく、ホッとしている。
「あと、約束も果たしてもらわないと行けないからね!」
「約束? した?」
まったく記憶にない。いつこいつと約束したか、本当に覚えていない。
「したじゃん! 連絡先、教えてって」
「え、いつ?」
僕が覚えていないだけかもしれない。ただし、本当に確証がもてない。
「昨日だよ昨日! ほら、塾のときに」
やばい、本当に思い出せない。記憶からすっぽり抜け落ちている。
「別に僕の連絡先を知ったとて、なんの得にもならないけど」
「なるの! ほら、誰かの得にはなるの!」
これで得になる人物なんてどこにもいない。僕が損するぐらいだ。
「誰かって、その誰かがわからないと」
「いいの! とにかく、得になるの!」
僕の家につくのは、まだだろうか。もうすぐ、であってほしい。
さっきから栞凛の肩がぶつかってきて痛いまである。一応、入れてもらってる身ではあるから、文句は言わないことにする。
******
「ふぅ。やっとついた」
本当はもっと短いはずだが、体感3時間ぐらいだった。
「あー、ついちゃった。意外と短かったね」
なぜそんなに残念がるのだろうか。
「じゃあ、お邪魔しまー⋯⋯」
「いやいやいやいや。なんで入ろうとしてるの?」
今回は即座に手が出た。問答無用で家に入ろうとするからだ。
「え? 別によくない?」
「だめに決まってるでしょ」
こいつ、マナーというものを知らない。関わりが浅いのに、なぜ勝手に人のプライベート空間に足を踏み入れようとしているのか。
「だって、誰もいないでしょ?」
いないのは確かだ。今は誰もいない。今は。
「いないよ? けどね?」
「えー、仕方ないなあ。待っててあげるよ」
その言葉を信用したわけではない。なんなら疑いの目で見てる。
「とってくるから、ここで待っててよ?」
「うん!」
元気のいい返事だ。逆に疑いたくなるまである。
もちろん、僕の疑いは正解だったのだが。
「それ、完全な不法侵入」
案の定、中に入ってきた栞凛がいる。
「早く、帰って」
「連絡先くれるまで帰らないもんね!」
栞凛はぷいっと僕から顔をそむけた。
勝手にリビングのソファでくつろいでいる。よく人の家でこんなにくつろげるものだ。
「はいはい、あげるから。早く帰って」
「え!? くれるの!? ありがと!」
僕はスマホを取り出した。
「ふんふーん!」
なぜ嬉しそうなのか、わからないが、帰ってくれるならいいか。
「あ、そうだ。クラスのさ、グループがあるんだけど、入りたい?」
「いい。入らない」
即答した。どうせうるさいだけだと思う。
「入らないの? ならいいけど」
そう言うと、栞凛は立ち上がった。
「じゃあ、帰るね!」
なぜかウキウキの足取りで家を出ていく栞凛がいた。
「なんだあいつ。まあいいか」




