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死に戻ったお飾り王妃は、愛を知らない成り上がり国王の最愛になる【全年齢(R15)版】  作者: 針沢ハリー
あなたと一緒に夢をみる

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29.交わしたかった言葉(終)



 エイノール王国は寒い冬を迎えていた。


 せっかくの花畑も色が乏しい。本当はどの季節でも花々を楽しめるように、いろいろな種類の花を植えるつもりだった。ところが冬にも咲く花は植えられなかった。

 それは、マリアーナの妊娠が分かったからだ。


 重たい物を持ったり、深くしゃがむのはアルベルトや侍女長のヘンナたちから禁止されてしまった。

 庭師たちが代わりに植えようかと提案してくれたけれど、マリアーナは先の楽しみとして取っておきたかった。


 初めは塔に囚われていた妹や弟のために始めたものの、土をいじったり花を育てるのは楽しかった。これからも、あの花畑は広げられるだけ広げようと思っている。


 しかし、そんなわけで、マリアーナは図書館での作業を手伝うくらいしかすることが無くなってしまった。

 ところがここにも人員が増えたので、マリアーナの仕事は基本的にない。結局はおしゃべりをして本を選んで読むだけになってしまっている。


 そんな不満を抱えたマリアーナとは正反対に、同僚が増えたルスコは満足そうだ。

 でも、アークラたちには時々あの時の文句を言う。よほど根に持っているのだろう。


「この人たち、私が気絶する演技が下手だからって、一緒に戦いの場に連れて行ったんですよ! 剣も使えないのに! 挙げ句の果てには、いざとなったら盾になって王妃様を守れって! それって死ねってことですよね!?」


「無事でよかったわ。でも、あの時のあなたは本当に演技がお上手だったわよね。すっかり信じてしまったもの」


 マリアーナが、これでこの話は終わりにして欲しいと思いながらそう言うと、ルスコは急に顔を輝かせた。


「まあ、私の演技も捨てたものではないでしょう。そうそう。庶民の間では、祭りの時に素人が劇をやることがあるんですよ。貴族でも、慈善活動がどうのと、そういった劇をする人がいますよね」


「ええ。私は観るだけだったけれど、していらしたわね」


「そういった催しを、今後は増やしていってもいいかもしれませんね。今度相談してみましょう」


 誰に言うのがいいか、とつぶやくルスコを見ながら、今日一緒に来てくれていたエンシオが嫌そうな顔をし、アークラは笑っていた。

 



 そんな暇を持て余していたマリアーナは、ある日、とても大切な客人を王宮に迎えた。

 あの革命の日に結婚式を挙げていた、元侍女のセシリアが足を運んでくれたのだ。

 彼女の夫のクスター・サイシオ子爵は相変わらずアルベルトの元で働いている。


 事前に聞いていたけれど、セシリアも妊娠中だ。マリアーナよりもお腹が大きい。彼女の子どもが先に生まれてくるはずだ。


 そんなセシリアには、無事でよかったと泣かれてしまった。

 夫には、ずっとマリアーナと会わせて欲しいと言っていたけれど、叶わなかったそうだ。でも、あの時の状況ではそうするしかなかったと思う。

 サイシオ子爵は自分の妻を守っただけだ。旧王家というだけで、関わるべきではないと、今でも思っている人たちはいるはずだ。


 でも、セシリアがそんなふうに思ってくれているとは知らなかった。マリアーナは、少女だった頃を一緒に過ごした彼女と抱き合って少し泣いた。


 そして、産月が近づいてきているセシリアに無理はさせられないため、再会を約束して、応接間の外まで彼女を見送った。


 セシリアは夫の腕を取り、幸せそうに微笑んでいた。



 ◆



 マリアーナはアルベルトに連れられて、少し前まで大勢の貴族やマリアーナの家族が囚われていた塔に向かっていた。

 三つある塔のうち、一番大きいものの屋上から見られる景色が素晴らしいのだと聞いて、何気なく「行ってみたい」と言ったらアルベルトが翌日には時間を作ってくれたのだ。


「前を歩け。落ちてきたら受け止めてやる」


「大丈夫でしょう。まだ歩きづらいと言うほどではありませんもの」


 マリアーナは階段を一段一段踏みしめながら進む。

 以前に来た時とは、まるで気分が違う。あの時は目隠しをされていた。不安で仕方がなかった。

 でも今は、すぐ後ろにアルベルトがいてくれるから、何も怖いことはない。


 やがて階段が途切れ、ホールのような場所に出た。

 扉を開けてもらって外に出ると、そこには、王宮やその周りの林や森、庭園、そして、そのさらに向こうの街を含む景色が広がっていた。

 澄みわたった青空が天高くどこまでも続いている。


 マリアーナはこの王宮で生まれ育ったのに、こんなに素敵な場所があるだなんて知らなかった。


 屋上は凹凸になった石の壁で囲まれていた。壁の凹んだ場所に近づいて、そこからアルベルトと二人でその景色を見る。


 マリアーナは分厚い上着を着ているのに、さらにアルベルトの上着にも包まれている。

 後ろから彼に抱きしめられているのだが、なぜか上着を開いた彼に、その中に閉じ込められて、自由に動けなくされてしまったのだ。


 アルベルトが腕をまっすぐ伸ばして地平線の向こうを指差す。


「この向こうにはベランク王国がある」


 彼はその場で、腕の中にいるマリアーナごと、くるくると一周回る間に、周辺国の名前を全て挙げていった。

 このエイノール王国が内陸の、周囲を多くの国に囲まれた国だというのがよく分かる。


 マリアーナも、彼の上着から腕を出して、ある方角を指差した。


「ご存知? あちらにずっと行くと、その先には海があって、海を渡ると、その向こうにはベランクよりももっと大きな国があるのですって」


「ほう。面白そうだな。行ってみたいか?」


 あまりに現実味がなくて、マリアーナはクスクスと笑う。


「私たちが海まで行くのには他国を通らなければいけないわ。海にたどり着けるかも分からないと思いますけど」


「夢は見たっていいだろう?」


 彼は少年のような顔で言う。


「孤児同然の傭兵が、国王になったんだぞ? 実現が不可能なことなんて、この世にはないと思わないか?」


「ええ……。そうね」


 マリアーナが出していた腕は話している間に、また彼の上着の中にしまわれてしまっていた。

 マリアーナは彼の行動に微笑みながら、自分も彼と同じ夢を見たいと思った。


「そうね。きっと実現できるわ」


 そう言って彼と微笑み合う。

 後ろから抱きしめられているので、振り返ってばかりで少し首が痛いと訴えたら、前から抱きしめられて、口づけられる。

 でも、二人とも毛皮でできた大きな帽子を被っていたので、それがぶつかってしまった。


 ずれた帽子を直してもらっていると、扉の方からマウリに呼ばれる。そろそろ戻る時間だ。


 マリアーナの体が冷えるのを心配したアルベルトが、あらかじめ時間が来たら知らせるように彼に言っていたのだ。

 もう戻ろうと歩き出したマリアーナに、彼は言った。


「ベランクは海に面しているな」


「え……?」


 彼は不敵な笑みを浮かべていた。無邪気そうなのに、野心的なその顔に胸が高鳴る。


「まさか……。ベランク王国を……?」


「そうすれば海に行けるぞ」


「……さも、今思いついたかのようにおっしゃるけど、まさか、ずっと前から……?」


「何の話だ」


「だとしたら、急にベランク語の読み書きを教えろと言った意味が分かるわ……」


 彼は入り口に向かって歩きながら、前を向いて微笑んでいる。


 マリアーナは彼の夢の大きさに少し呆れた。でも彼ならやり遂げるかもしれないとも思う。

 そんな夢を見られたら、きっと楽しいのだろう。


「いつか海を見ましょうね」


「海の向こうにも行きたい」


「ええ。それも素敵だわ」


 マリアーナは階段を下りる間も彼と夢を語り合った。

 実現可能な夢も、どうなるか分からない夢も、全てに価値がある気がする。


「一緒に行ける場所には、私も絶対に連れて行ってくださいませね?」


「連れて行く。どこへでも。戦場にもだ」


 マリアーナはまた笑ってしまった。彼が冗談を言っているのかと思ったからだ。

 でも、その表情はとても真っ直ぐで、そして、優しげに微笑んでいた。


 マリアーナはその顔を見て、何があってもこの先の人生は彼と同じ、壮大な夢を見てみようと心に決めた。

 非力で何の才能もない自分だけど、それでも一歩ずつ進んでいけばいい。置いていかれそうになったら、少し急がなくてはいけないだろうけど。


 スカートが邪魔で、階段を下りるのに少し遅れてしまったマリアーナの前にアルベルトの手が差し出された。

 彼はこちらの様子を気にしていてくれて、待っていてくれた。

 マリアーナは、急ぐのをやめて、彼と手をしっかりと握り合ったのだった。



 塔の外には、一緒に塔から出たマウリ以外の三人の姿があった。


 アークラが「雪が降りそうなので、そろそろお戻りになるように伝えにきたのですが」と、早く王宮内の暖かい部屋へ戻ろうと言って歩き出す。

 マリアーナはそれを聞いて心が躍った。


「雪が降ったら素敵だわ。昔から、部屋の中から見るだけで……。ずっと触ってみたかったの」


「だめだ。今回も部屋の中から見てくれ」


「本当に……? でも、子どもの頃から、ずっと、雪に触ってみたいと思っていて……」


「体が心配だ……」


 そう言ったアルベルトが立ち止まって、マリアーナはまた抱きしめられてしまう。

 四人以外にも人がいる通路でのことで、マリアーナは少し恥ずかしかった。


 すると、マウリの叫び声が辺りに響いた。


「あ~~! 暑い暑い! 暑苦しい! そんなに雪に触りたきゃ、アルベルトが室内に持ってってやればいいだろ!?」


「なるほど……。マウリ、珍しく頭が冴えているな? そうしよう。今回はそれで我慢してくれ、マリアーナ」


「珍しくはねーだろ! むかつくな! 言いつけてやる」


 マウリが誰に何を言いつけるのか不思議に思っていると、彼は微笑みを浮かべていたエンシオに向かって言った。


「おい、エンシオ。アルベルトのやつ、戦場へも王妃様を連れて行くとか言ってたぞ!」


 それを聞いたエンシオの笑いが瞬時に消える。


「……は? あんな間抜けに刺されかけといて、何言ってんの? 言ったよね。そのお姫様がいると、あんたはおかしくなるって」


 その横ではブラントが大きく頷いている。「夜に一人で馬で駆け出したりね」と、マリアーナにも思い当たる発言をする。


 エンシオの怒りは治らないようで、どこ吹く風と涼しい顔をしたアルベルトに向かって言う。


「気が散るんだって分かってんだから、王宮に置いて行った方がいいんだよ! だいたい迷惑だろ。素人に野営をさせるとか、しんどいだけだろうが!」


 確かにマリアーナも、生活面はともかく、戦う兵士たちの邪魔はしたくない。アルベルトを見上げながら、彼に言う。


「アルベルト。そういった時は、お役にも立てませんし、私は王宮におります。お帰りを待っていますから」


「それはだめだ。大切なものは身につけておかないと……」


「え……?」


 彼に抱きしめられたまま、彼の言う意味を完全にはつかみかねて、周りに助けを求めようとした。

 でも、周りの四人の視線はアルベルトに集中している。何とも言えない笑顔だ。


「あの、どういう意味か……」


「あんたの代わりはいないから。失くしたら困るものは近くにおいておく」


 マリアーナは顔から火が出るかと思った。

 彼が傭兵時代の癖だと言って、やり取りしていた手紙すら持ち歩いていたのを思い出してしまったのだ。


「あの、持ち運べる物と、人間の私とでは大きさが違って……。同じように考えるのはよくないと思うのですけれど」


 アルベルトにはそれで納得して、「戦場には連れて行かない」と言って欲しかったのに、微笑むだけで何も言ってくれない。



 エンシオは「馬鹿じゃないの?」と呆れ声で、マウリは「しばらく放っておくぞ」と言って歩き出す。


 ブラントもそれに続いて「今は何を言っても無駄だね」と言い、アークラは「まあ、よかったですよ。アルベルトが愛する人を見つけられたんだから」と、マリアーナが恥ずかしくなることを口にしながら、ゆっくりと歩き出した。


 マリアーナはアルベルトに抱きしめられたまま、去って行く四人の背中を見ていた。



 アークラはああ言ったけれど、アルベルトからもはっきりと言われたことはないし、自分からも、「愛している」と言えたことがない。


 試しに「……愛してくださっているの……?」と聞いてみるけれど、アルベルトは何も言わない。

 でも構わない。そういう人だと知っているし、大切に思ってくれているのは分かっている。


 でも、マリアーナは自分からは伝えておこうと思った。彼にはきちんと知っておいて欲しかった。


「私は愛しています。あなたのことを。誰よりも」


 彼の体が揺れて、抱きしめられる腕に力が入ったのが分かった。それと同時に、彼がゆっくりと体を離した。


「帽子を取ってくれ……」


「え、あ、はい?」


 マリアーナは戸惑いながら、帽子を手に持った。その途端に口づけられる。

 帽子を落としてしまって、それが床を転がっていく。


 そして、額に彼の額が押し付けられる。彼の目元は薄く色づいていた。


「俺も、愛してる……」


「……はい……」


 そんな、彼からは聞けないだろうと思っていた言葉に、胸が苦しくなって、目頭が勝手に熱くなる。


 みっともなく泣いてしまわないように、にじんだ涙を拭こうとしていたのに、彼に口づけられて、結局、涙をこぼしてしまった。



 二人はしばらくの間、たまに人通りのある通路で、何度も口づけを交わし合ったのだった。




                 終



最後までお読みいただき、ありがとうございます!


このお話の主人公たちは、なかなか素直になれない方々でしたが、最後まで見守ってくださった皆様には、感謝の気持ちでいっぱいでございます。


もしよろしければ、☆をポチッとしていただけますと、作者が喜びすぎて踊ります。

(もちろん、辛口評価でも、全く問題ございません!)


お付き合いいただき、本当にありがとうございました!


針沢

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