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死に戻ったお飾り王妃は、愛を知らない成り上がり国王の最愛になる【全年齢(R15)版】  作者: 針沢ハリー
あなたと一緒に夢をみる

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28.陰謀の首謀者とその行く末



 宴の後、少し時間をおいて、マウリがマリアーナとアルベルトを呼びに来た。


 ベランク王国の王弟に会う準備が整ったのだ。


 ベランクの王弟とは、現在この王宮の牢にいるユリウス王子の叔父にあたる人物である。


 この間の事情はあるにしろ、マリアーナは彼らには礼節にのっとって接するべきだと、アルベルトと話し合っていた。


 ところが、マリアーナたちが応接間に足を踏み入れた途端に、ベランク王国の王弟は「あれはユリウスが勝手に計画したことだ」と、挨拶もせずに言った。


 それに対応するアルベルトは冷静だった。自分の親世代の王弟を前にしても堂々とした態度だ。


「私が革命を起こすのを早めなければ、ここにいる私の妃は、ユリウス王子の妃になっていた。そして、妃は王位継承権を放棄するはずだった。だが、我らが得た情報では、その放棄の書類にわざと不備を残しておく手筈だったとか」


 アルベルトの言葉を聞いた王弟は、目を見開いたあとに、視線を泳がせる。

 それに気づいているはずのアルベルトは、それを表情には一切出さずに続けた。


「そして、いずれそれを持ち出して、第二王女と婚姻を結び王位についていた私を排除し、エイノール王国をベランク王国のものにする計画だったと言う者がいる。その全てを王子が、たった一人で実行できますかな?」


 咳払いをした王弟は、こちらから視線を少しだけずらしながら言った。


「どこからの情報か知らんが、そんな事実はない。貴殿が我が甥の婚約者を強奪したから、愛する者を取り返そうと動いてしまったのかもしれん。若気の至りだ。ユリウスは連れて帰らせてもらう」


 アルベルトは当然それを認めず、ベランクの王弟は「一度国に帰って国王陛下にご相談申し上げる」と言って、あっさりと帰って行った。



「もう帰ってしまわれるのね。もう少し交渉をなさるかと思いましたのに」


「俺が奴らが予想していたよりも内情に詳しかったから、警戒したんだろう」


 それらの情報は、ユリウスと連絡をとっていたブラントや、その仲介者だったアルベルトの部下である、ベランク人の元傭兵の間者たちが得たものだと彼は言う。その間者たちはベランクの軍隊に紛れ込んでいるらしい。


 マリアーナは、おそらくユリウスはこの国に長くは留め置かれないだろうと思った。ベランク王国を刺激するのは避けるに越したことはない。

 おそらく、領土の割譲でも条件に、そう遠くないうちにユリウスの引き渡しで決着がつくのだろう。


 実際のところ、マリアーナはもうユリウス王子の行く末に関心はなかった。


 それよりも、一つ気になることがある。


「革命の決行を、カンナス伯爵の指示から早めていらしたの……?」


「ああ、その話か。それは、そうしないと奴らを出し抜けなかったからな」


「……そうでなければ、私とあなたは敵同士になっていたのね……」


「そうだな。あんたがベランク王国のものになっていたら、真実のエイノールの王位継承権者として、祭り上げられていただろう」


「よかった……」


 マリアーナは心から言った。


 危うくエイノール王国自体がベランク王国に取り込まれてしまうところだった。確実に戦争が起きたはずだ。そして、多くの人々を苦しめることになっただろう。


 アルベルトは隣に腰掛けているマリアーナの手を取って、それを握りしめながら、ぽつりとつぶやいた。


「……ベランクに行った方が、俺みたいな傭兵上がりの男の妻にならずに済んだぞ」


 マリアーナは、彼の生まれも、生き方も、何も否定したくなかった。そうでなければ、今の彼はいなかっただろうから。

 そして、今の彼がいなければ、今の自分もいない。


 マリアーナは微笑んだ。アルベルトが今の彼でいてくれて、本当によかったとしか思えなかったから。


「あなたの妻でいるのに、何か問題があるのかしら?」


「……そうだな。何も問題はない」

 

 アルベルトも微笑み返してくれた。そうして、マリアーナは愛する夫と心から笑い合った。


 

 これは、誰にも言えないことだったけれど、マリアーナがそんなふうに、何の憂いもなく笑えるようになったのには理由があった。


 あの恐ろしい記憶の中で、マリアーナ殺しを命じた張本人だったカンナス伯爵と、彼の命令を実行した人たちが、あの事件の後どうなったのかをアルベルトに聞いたからだ。


 それは、アルベルトの計画通りに事が運んで、伯爵やユリウス王子を捕らえるのに成功した日から、数日後のことだった。

 マリアーナは彼の執務室の近くにある居間で彼に聞いた。アルベルトは、聞かなければ教えてくれない気がしたのだ。


「どうしても教えていただきたいの。今、カンナス伯爵はどうされているのかしら」


 アルベルトは真っ直ぐに窓の外を見ていた。彼そのままの立ち姿で、こちらを向かずに言った。


「墓の中だ。酒を飲みすぎていたからな。夢に酔って、自分の力も他人の力も見誤ってしまうくらいには」


「他の、伯爵の部下は……?」


「主人について行ったよ」


 そう言った彼は、とても穏やかな顔をしていた。


 マリアーナは、アルベルトがエイノール王国の本当の国王になったのだと、その顔を見て思った。



 そして、ずっと疑問だったことをアルベルトに聞くことにした。前の生でマリアーナはカンナス伯爵の部下に殺された。その理由が知りたかった。


「おかしいと思われるかもしれないけれど、もう一つお聞きしてもいいかしら」


「なんだ?」


「カンナス伯爵は、仮に、私が結婚当初あなたに従順でなかったら、私を殺したかしら」


 アルベルトは不思議そうに眉を寄せて考えている。なぜそんなことを聞くのかと思っているのだろう。


「……あの男は、女をいたぶるのに快感を覚えるような男だった。寝所にはべった女が口答えをしようものなら、殺すこともあった。生意気だと思われれば、ただでは済まない。特に女は」


 その言葉にマリアーナは、あの時の恐怖を思い出す。


 「マリアーナ? 顔が青いぞ」


 そう言って、アルベルトはマリアーナを抱きしめてくれる。「なぜそんな、起こらなかったことを気にする?」と聞かれるけれど、答えられない。


 でも、マリアーナが黙って彼に抱きつくと、その力強い腕が抱きしめ返してくれた。


 そして、その日から、マリアーナはあの記憶に怯えずに済むようになったのだった。



 ◆



 寝室のベッドの上で、アルベルトはマリアーナの短剣をしげしげと見つめていた。

 この短剣は、しばらく前に彼から返してもらったので、今はマリアーナが持ち歩いている。


 どうしたのかと思って聞くと、アルベルトはマリアーナのために新しい短剣を作らせようと考えているらしい。これは、やはりマリアーナには似合わないからだと彼は言う。


「剣身だけをあの鍛冶屋に作らせて、鞘と柄の飾りは別の職人に注文する。これは地味すぎるだろう?」


 マリアーナは急いで彼の手からそれを取り戻した。


「私はこれを気に入っていますから」


「だが、地味だ」


「でも、あなたに初めていただいた物だもの」


 そう言うとアルベルトは黙って横を向く。耳の上の方が赤くなっているけれど、それは見なかったことにしてあげた。


「あの小刀もあなたが渡すように指示なさったのでしょう?」


「……何も教えてやれなかったから。せめて身を守る物をと思って」


「信じてくださったのね」


「何の話だ?」


「だって、私があれであなたを襲う可能性だってありましたもの」


 彼は自分の行動の意味に気づいていなかったようだ。驚いて目を瞬かせているのがおかしい。


「それは……。意識してはいなかった」


 憮然とした声色でそう言いながらも、また横を向く彼が愛おしくなって頬をなでると、その手を握られてしまった。こちらは向かないままだ。何か考え込んでいるらしい。


 

 そんな彼を待つ間、マリアーナも考えに沈んだ。

 自分の命が一度失われたのに、いつの間にか同じ人生を生きていて、その問題の出来事の何年も前にその時の経験を思い出すなんて、とてもおかしな話だと思う。

 そんな出来事は物語の中でしか見聞きしない。


 でも、そんな物語の中に、大きな未練を残して死んだ者が過去に生き返って、人生をやり直すというものがあった。

 だからマリアーナは今まで、この国や家族を救うために、自分は生き直す機会を得たのだと思っていた。あまりにも無念な死に方だったから。


 そして、マリアーナの無念は晴らされた。

 では、これからの人生は何のためにあるのだろうか。

 


 マリアーナは、彼に握られている手の温もりを感じながら、ふと思った。

 これからもアルベルトと生きていけるのなら、むしろそのためにこの世に戻ってきたのではないかと。

 彼を知り、彼を愛することができるのは、生き直せたからだ。


 マリアーナは腰を浮かせて彼の頬に口づけた。


「なんだ、急に……」


 彼は赤みがさしているように見える顔でこちらを振り返ると、短剣を上手にソファに放り投げて、両手でマリアーナの肩をつかんだ。そして、彼の唇が下りてくる。


 触れ合うだけの口づけをした後、彼はマリアーナの首元に口づける。彼はいつもそうする。

 そして、不意に言った。


「香水は何を使っているんだ?」


 今度はマリアーナが首をかしげる番だった。香水は使っていない。強い匂いが苦手なのだ。他人がつけているものが香ってくるくらいならばいいけれど、自分で使う気にはならない。

 マリアーナがそう説明すると、アルベルトはいつも驚いた時にするように、目を瞬く。


「何か匂いがしますか?」


「ああ……花の香りがする……」


「あら。花の世話ばかりしていたから、匂いが移ってしまったのかしら? でも、庭師といても、そんな匂いは感じませんけど」


「違う……。初めからだ……。あんたは、いつもその匂いで俺を誘ってくる」


「なっ、そ、そんなことはしていませんっ!」


 マリアーナはそんなことを言われて怒っているのに、彼は楽しそうに微笑んでいた。


 その穏やかな顔を見ていると、マリアーナはずっと前から知りたかったことを、どうしても今、彼の口から聞きたくなってしまった。


「私とは、添い遂げるおつもりだったの?」


「……何のことだ?」


「結婚した後、私に用がなくなったら殺すつもりだったのかとお聞きしているわ」


「必要であれば。だが、血が流れれば憎しみが生まれる。それに……」


 彼はぽつりと「殺すどころか切り捨てることさえできなかっただろう」と言った。


「あんたはよく分からない人だった。短剣の、護身術の稽古をつけていた時から、なぜそんなに必死なのか気になって、何を考えているのか知りたいとは思っていた。拒まれるだろうから、時間をかけてでも……」


 マリアーナは少し驚いた。中途半端に終わってしまって、何の成果もなかったと思っていた彼との短い関わりが、彼にそんな印象を与えているとは思わなかったのだ。

 何もできなかったと悔しく思っていた日々にも意味はあったらしい。


「では、まだまだお互いのことを知り合えますかしら。何か話してくださらない? あなたの一番初めの記憶は何?」


「一番初め……? それは……そうだな……」


 マリアーナは彼の腕の中で飽きずに彼の話を聞いたし、彼もマリアーナの話を聞いてくれた。

 全然違うお互いの人生を。


 でもそれは、それほど重要ではないとマリアーナは思っていた。まだ二人には未来があって、その歩く先はきっと似たものになるだろうから。



つづく……

(次回が終話となります。)

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