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帰る場所をなくした僕らは、新しい故郷を作る  作者: うみのもずく


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6. 初めての街



朝日が森を照らし始めていた。

夜通し歩き続けた僕とリシアは、ようやく足を止める。


もう悲鳴は聞こえない。

聞こえるのは鳥のさえずりと、風に揺れる木々の音だけだった。


「……静かだね」

リシアがぽつりと呟く。


僕は答えられなかった。

村のみんなは、もういない。

そう考えるだけで胸が締めつけられる。


「……行こう」


ガルドから渡された袋を結び直し、再び歩き始めた。




しばらく歩くと、木々が途切れた。

その先に広がっていた景色に、僕たちは思わず足を止める。


石造りの家。

何本もの煙突から立ち上る白い煙。

行き交う荷車。

村とは比べものにならないほど多くの人。


「……これが、街……」


リシアも息を呑んでいた。

僕たちの知っている世界とは、まるで違う。





街の入口には槍を持った兵士が二人立っていた。

思わず足が止まる。


「エイル……」


リシアが不安そうに袖を掴む。


僕はガルドから受け取ったマントを羽織り直した。

胸元には見慣れない刺繍。

ヴァルディア王国軍の紋章らしい。


兵士の一人がこちらを見る。

心臓が嫌になるほど大きく鳴る。


「……ん?」


兵士は僕たちを数秒眺めると、隣の兵士へ小さく声をかけた。


「隊の保護児か?」

「さあな」


もう一人は肩をすくめる。


「何か事情があるんだろ。今は忙しい」


それだけだった。


二人はそれ以上何も言わず、別の荷馬車の確認へ向かっていく。


僕たちは顔を見合わせ、小さく息を吐いた。





街へ入る。

魚を焼く匂い。

焼きたてのパンの香り。

聞いたことのない呼び込みの声。


あまりの賑わいに目が回りそうだった。


その時。


ぐぅ……


僕のお腹が鳴る。

昨日から何も食べていない。

リシアも同じだった。


僕は袋を開く。

中には丸く平たい金属が何枚か入っている。


「これで買えばいいんだよね……」


恐る恐るパン屋へ近づく。


「すみません」


店主が振り返り、笑顔で答える。


「いらっしゃい」


僕は袋から一枚取り出し、差し出した。

店主は金属を見ると少し笑った。


「坊や、それは銀貨だ。」

「……ぎん、か?」

「パン二つなら銅貨二枚で十分だよ。」


店主は僕の手から銀貨を受け取ることなく、小さな銅色の金属を一枚取り出して見せた。


「これが銅貨。銀貨はその十倍の価値がある。」


僕とリシアは顔を見合わせる。

金属にも種類がある。価値が違う。

そんなことさえ、僕たちは知らなかった。


店主は苦笑しながらパンを二つ紙に包む。


「ほら。最初は誰だって分からないさ」


僕は銀貨をしまい直し、教えてもらった銅貨で代金を払った。




広場の隅でパンを分け合う。

温かい。

柔らかい。


けれど、昨日の夜から何も食べていなかったせいか、味をゆっくり感じる余裕なんてなかった。


夢中でパンを口に運んでいると――



その時だった。


近くを歩く男たちの会話が耳に入る。


「聞いたか? 昨日亜人の集落が襲われたらしい。」

「また奴隷商人か?」

「いや、王国軍らしい。」

「そりゃ珍しいな、亜人たちが何かやらかしたのか?」



僕の手が止まる。

リシアも顔を上げた。


「……亜人」


昨日、ガルドが口にした言葉。


あれは——

僕たちのことだ。



僕の背中を冷たい汗が伝う。


もし、今も王国軍が僕たちを探していたら。

もし、あの兵士たちが僕たちのいる場所まで追ってきたら。

…ここも安全ではないのかもしれない。



僕はリシアの手を握った。


「……行こう」


僕たちはパンを急いで食べ終えると、誰にも気づかれないよう、人混みの中へ紛れ込んでいった。



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