52. 売れるもの、求められるもの
街の門へ近づくと、兵士の一人がこちらを見てすぐに眉を上げた。
「また来たのか。今度はグラウスまで連れてきたんだな」
前回と同じ兵士だ。
僕たちの顔だけでなく、リーヴァ村のことも覚えているらしい。
「荷物が増えたので、手伝ってもらってるんです」
僕が答えると、兵士は二頭のグラウスを眺めた。
「手伝ってもらってる、か。荷物を乗せて山を越えてきたのか?」
「ああ、遅いけど乗り心地は悪くないぞ」
ナギさんがグラウスの背中から答える。
兵士は少し笑ったあと、荷物の方へ目を向けた。
前回より量が増えていることには気づいたようだったが、中身をひと通り確認すると、それ以上細かく聞いてくることはなかった。
「動物は前と同じ場所な。グラウスはでかいから、他の馬から少し離しておいてくれ」
「分かりました」
門の外でカルウスとグラウスを休ませ、必要な荷物だけを下ろす。
荷物の確認もすぐに終わり、僕たちはグラウスたちをいつもの場所へ連れていった。
最初に向かったのは、前回ミレアさんの布を買ってくれた店だった。
扉を開けると、店主は僕たちの顔を見てすぐに立ち上がった。
「やっと来たか」
思いがけない言葉に足が止まる。
「今日も布を持ってきたんだろ?」
僕が荷物を下ろすと、店主はすぐに台の上を空けた。
今回は二枚ある。
前回とほぼ同じ大きさで、どちらもミレアさんが仕上がりを確認してから持たせてくれたものだ。
店主は一枚目を広げ、指先で織り目をなぞったあと、もう一枚も確認する。
「前と同じ出来だな。二枚とも買おう。今回も布一枚で金貨四枚でどうだ?」
「お願いします」
リシアが隣で木の板を取り出して記録する。
店主は銀貨を数えながら続ける。
「前に置いたやつがすぐに売れたんだよ。買った客も気に入ったらしくて、また入ったら残しておいてくれって頼まれてるんだ」
「そうだったんですね。これはミレアさんにちゃんと伝えないとね」
リシアが僕の腕を軽くつつく。
店主が笑いながら銀貨八枚をリシアへ渡した。
布をしまい終えたあとも、店主の視線は僕たちの服へ向いている。
「そういや、服の方を売る予定はまだないのか?」
「今のところはないですね」
僕が答えると、店主は惜しそうにしながらも、それ以上は勧めてこなかった。
「まあ、布が入るだけでも十分だ。次も来たら寄ってくれ」
次に魚を買ってくれた店へ向かうと、主人はナギさんの顔を見るなり声をかけてきた。
「お、魚の兄ちゃん。今日は前のやつあるか?」
「どの魚だ?」
「身が柔らかくて、炙ると脂が出るやつだよ。あれはよく売れた」
ナギさんが嬉しそうに荷物を下ろす。
「あるぞ。それと、今日は少し干し方を変えたのも持ってきた。こっちはそのまま食っても塩辛くなりすぎない」
「新しいやつか。見せてみろ」
そこからは、ほとんどナギさんと主人の二人だけで話が進んだ。
魚を一つずつ広げ、匂いや身の固さを確認する。
新しく持ってきたものも買ってもらい、前回評判の良かった魚もそのまま引き取ってもらえた。
「全部で銀貨三枚と銅貨二枚だな」
主人が硬貨を並べ、横でリシアが金額を書き留める。
店を出たあとも、ナギさんはどこか機嫌が良かった。
「この前の魚、ちゃんと売れたんだな」
「嬉しそうですね」
「そりゃ嬉しいだろ。美味いからまた欲しいって言われたんだから」
ナギさんは上機嫌なまま次の荷物を持ち直し、次のお店に向かう。
干し肉は銀貨二枚と銅貨四枚。
農作物は銅貨八枚になった。
野菜を売った店を出たところで、リシアが板を見ながら首を傾げる。
「野菜の値段は前回とほとんど変わらないね」
「街の近くでも採れるものばっかりだしね」
「フィアにも一応値段のことは伝えておこっか」
そのまま次の店へ向かう。
思っていたより早く、持ってきたものは減っていった。
昼を少し過ぎた頃には、ほとんどの商品を売り終えていた。
リシアは人通りの少ない場所まで移動すると、木の板を見ながら指で数字を追っていく。
「布が銀貨八枚。魚が銀貨三枚と銅貨二枚。干し肉が銀貨二枚と銅貨四枚。それから野菜が銅貨八枚」
少し考えてから、硬貨の袋を持ち上げる。
「銀貨十四枚と銅貨四枚だね」
「前よりかなり売れたな」
ナギさんが袋を見る。
「グラウス二頭分も持ってきましたしね」
「あの子たちには帰りも働いてもらうことになるよ」
リシアが板の端に書いてある別の項目を見る。
村を出る前に、みんなに買ってきて欲しいものを確認してきた。
塩や調味料に、針や細かな道具。
ガドさんたちから頼まれた金属製の工具や部品もある。
フィアからは、見たことのない種があれば少し欲しいと言われていた。
「まず香辛料かな。前回より多めに頼まれてる」
「じゃあ先に行こうか」
売る物がなくなった袋を畳み、今度は買い物のために街を歩き始めた。
必要なものを揃えていくと、思った以上に荷物が増えた。
塩の袋に、いくつかの香辛料や調味料。
工具は小さくても重いし、種はそれほど嵩張らないが、潰れやすいものは別に包む必要がある。
店を出るたびにリシアが支払った額を記録し、ナギさんと僕で荷物をまとめていく。
「これ全部グラウスに載るかな」
僕が積み上がった荷物を見ると、ナギさんが笑った。
「行きと同じくらい荷物があるな」
「そうですね。帰ったらグラウスたちはゆっくり休ませてあげないとですね」
最後に頼まれていたものを揃え、リシアが財布の中を確認する。
「銀貨九枚と銅貨八枚残ったよ」
「お、結構残ったね」
「帰ったら前回の分と合わせて数えなきゃね」
リシアはそう言って袋の口をしっかり閉じた。
街を出る頃には、日が少し傾き始めていた。
門の外へ戻ると、カルウスとグラウスは落ち着いて待っていた。
二頭のグラウスへ買った物を積み直していると、門にいた兵士が近くまでやってくる。
「帰りも大荷物だな。それだけ積んでも平気なのか?」
兵士がグラウスの背中を見る。
「ええ、もう少し余裕もあるみたいです」
「そうか。頼りがいがあるな」
兵士は僕たちの荷物へもう一度目を向けた。
「次も来るんだろ?」
「はい。またしばらくしたらお邪魔しようと思います」
「そうか。リーヴァ村だったな」
その名前が普通に出てきたことに、少しだけ口元が緩んだ。
「はい。またお願いします」
兵士は軽く手を上げて持ち場へ戻っていった。
帰りも同じ場所で一晩休み、翌日の夕方にはリーヴァ村へ戻ることができた。
村の入口が見えてくると、こちらに気づいた何人かが手を振っている。
グラウスが村へ入る頃には、荷物を下ろすために人が集まってきた。
「おかえりなさい」
ミレアさんが真っ先にこちらへ来る。
「二枚とも売れましたよ。一枚銀貨四枚で、前と同じでした」
「よかった……」
ミレアさんがほっとしたように笑う。
「前回の布を買った人が、次もまた欲しいとお店に頼んでるそうですよ」
一瞬、ミレアさんの表情が止まった。
「……本当ですか?」
「はい。入荷するのを待ってるって店主が言ってましたよ」
ミレアさんは自分の指先を見たあと、少し照れたように笑った。
「それは……嬉しいですね。どんな方が買ってくださったのかも聞いてみたいです」
「じゃあ次に行った時、聞けそうなら聞いてみます」
「お願いします」
近くにいたグレナさんも話を聞いていたらしく、ミレアさんの肩を軽く叩く。
「よかったじゃない。次も頑張らなきゃね」
ミレアさんは嬉しそうに頷いた。
その横では、フィアたちが街で買ってきた種の方へ集まっている。
「これが向こうで売ってた新しい種?」
フィアは袋を一つ受け取り、中を覗き込んだ。
「そうみたい。名前は聞いてきたけど、育て方の詳しいことまでは分からなかったよ」
「色々と試してみるから大丈夫。こっちの土に合うかもしれないし」
買ってきた荷物は次々と運ばれていった。
塩は保存食を作る場所へ。
工具はガドさんたちのところへ。
調味料は食事に使う分としてまとめられる。
売った物とは違う荷物が、村の中へ散っていく。
人が少なくなったところで、僕とリシアは倉庫へ向かう。
ガドさんが作った木箱を開け、前に残していた硬貨を取り出す。
今回持ち帰った分を合わせると、銀貨十四枚と銅貨八枚になった。
リシアは一度だけ数え直し、記録用の板にも残してから箱へ戻した。
蓋を閉じたところで、倉庫の外からフィアの声が聞こえた。
「リシアー! 種のことで聞きたいんだけど!」
「今行く!」
リシアは木箱を元の場所へ戻すと、すぐに外へ出ていった。
外では、買ってきたものを囲んであちこちから声が上がっていた。
ミレアさんは布の話をグレナさんとしていて、ナギさんは魚を干す場所へ向かっている。
二頭のグラウスは荷物を下ろし終え、少し離れたところでのんびり草を食べていた。
僕はその横を通りながら、フィアたちのいる方へ向かった。




