51. 街までの道程
グラウスが村へ来た翌日から、ガドさんたちはさっそく荷物を載せるための道具を作り始めた。
以前カルウス用に作ったものを参考にしながら、グラウスの大きな背中に合わせて幅を広げ、重さが一か所に集中しないよう形を変えていく。
「ここだけで支えたら痛そうですね」
グラウスの背中を見ながらキアが言うと、ガドさんは作りかけの枠を少し動かした。
「なら、もっと広く受けられるようにするか」
「荷物が重くなるなら、歩いてる途中でずれない方が大事だね。きつく締めすぎても駄目だろうし」
隣ではグレナさんが留め具を調整している。
キアも実際にグラウスへ触れながら、どこなら負担が少なそうかを確かめていた。
ギランさんは少し離れたところからその様子を眺め、出来上がりかけた枠を持ち上げる。
「しかし、でかい獣が来るたびに作る物まででかくなるな。次は家くらいでかいやつを連れてくるんじゃないだろうな?」
「そんな生き物がいたらぜひ一度見てみたいなあ」
「お前なら本当に探しに行きそうだな」
キアが真面目な顔で答えたので、ギランさんは苦笑した。
そんなやり取りをしながら、グラウスに荷物を載せるための道具は少しずつ形になっていった。
それから数日。
最初は軽い荷物だけを載せ、村の周囲を歩かせるところから始めた。
キアによれば、グラウスは背中に何かを載せられること自体にはそれほど抵抗がないらしい。でも、重さが偏ったり荷物が揺れたりすると気になるようで、そのたびにガドさんたちが留め方を直していた。
何度か試すうちに大きな問題もなくなり、二頭ともかなりの量を載せて歩けるようになった。
そして、次に街へ向かう日が決まった。
出発前日の倉庫には、前回とは比べものにならない量の品物が並んでいた。
干し肉や干した魚に加えて、フィアたちが用意した農作物もある。
ミレアさんの布も前回より増え、ナギさんが試していた新しい干し方の魚も何種類か用意されていた。
リシアは一つずつ確認しながら、持っていく量を木の板へ記していく。
倉庫の前では二頭のグラウスが立っている。
その背中には、すでに荷物を載せるための枠が取り付けられていた。
「全部載るかな?」
リシアが少し心配そうに言ったけれど、実際に荷物を運び出してみると、その心配はすぐになくなった。
ガドさんたちが作った枠の左右へ荷物を分け、重さが偏らないよう順番に固定していく。
キアがグラウスの様子を確認する。
「まだ余裕ありそう。でも今回はこれくらいにしておこう」
「こんなに載せても、まだ余裕があるんだ」
僕は思わず聞き返した。
「運べるからって、いきなり限界まで載せる必要はないよ。街までちゃんと歩けることを確認する方が優先だから」
もう一頭にも荷物を分け終えると、まだ多少の余裕が残っていた。
リシアは二頭を見比べながら笑う。
「これなら、しばらくは荷物が増えても大丈夫そうだね」
「前にも言ったけど、カルウスみたいに素早くは進めないからね。そこだけは覚悟して」
今回は僕とリシア、それからナギさんが街へ向かうことになった。
ミレアさんは村に残り、次の服や布を作る予定らしい。
今回はカルウスを一頭連れていく。
グラウス二頭に荷物とリシアたちを任せ、僕の移動にはカルウスを使う。
「じゃあ、お願いします」
ミレアさんが自分で織った布を僕に手渡す。
「もし店の人に改善案など言われたら、ちゃんと覚えてきてくださいね」
「そこはリシアが全部記録してくれると思いますよ」
「エイルもちゃんと覚えてよね」
すぐ隣から言われ、僕は笑いながら布を荷物の中へ収めた。
翌朝、まだ空が明るくなりきる前に村を出た。
先頭を歩くのはカルウス。
その後ろを、荷物を背負った二頭のグラウスがゆっくりとついてくる。
最初のうちは、思っていたより順調だった。
かなりの荷物を載せているのに、多少の斜面ならほとんど速度を変えずに登っていく。足取りはかなり安定している。
「カルウスよりゆっくりだが、頼もしいな」
ナギさんがグラウスの背中を優しく撫でる。
しかし、昼を過ぎた頃、一つ困ったことが起きた。
前方の木々の間が、少し狭くなっていた。
カルウスなら何の問題もなく通り抜けられるが、グラウスは難しそうだ。
大きな体だけならまだ通れそうだったが、左右に荷物を載せたことで、張り出した枝に荷が引っかかりそうになっている。
「この道はそのまま行かせない方がよさそうですね」
僕が声をかけると、ナギさんもグラウスから降りる。
枝を持ち上げたり、引っかかりそうなものをどけたりして、どうにか二頭を通す。
通り終えるまでには、それなりに時間がかかってしまった。
「荷物を載せた時の幅までは考えてませんでしたね」
僕は枝を払いながら言う。
「この先もこいつらには狭い場所が結構ありそうだぞ」
確かに、これまで使ってきた道はグラウスほど大きな動物が、さらに荷物まで載せて歩くことは想定されていなかった。
「この辺りだけなら、邪魔な枝を払えば何とかなりそうだね」
リシアが周囲を見ながら言う。
「でも毎回ここを通るなら道を少し整備してもいいかも。荷物が引っかかって落ちたら大変だし」
「帰ったらみんなに相談してみようか」
道路を作るほどではなくても、邪魔な枝を払ったり、大きな倒木をどけたりするだけでずいぶん変わるはずだ。
村と街を往復する回数が増えれば、こういう場所も少しずつ見つかっていくのだろう。
夕方になっても、街には着かなかった。
水場の近くに適当な場所を見つけ、早めに休むことにした。
グラウスも体を休められるよう荷物の一部を外す。
ナギさんが火の準備をしながら、まだ元気そうに草を食べているグラウスを見る。
「時間はかかるけど、これだけ運べるなら悪くないな。二回三回と往復するよりは、こっちの方がよっぽど楽だ」
リシアは今日の移動時間まで板に簡単に記録していた。
街との交易を続けるなら、これからは商品を作るだけでなく運び方も考える必要がありそうだ。
翌朝は、日が昇る少し前から動き始めた。
前日に比べてグラウスへ荷物を載せる作業にも慣れ、出発までそれほど時間はかからなかった。
山を越えて街道へ出る頃には昼を過ぎていた。
そこまで来れば道も広くなる。
森の中で何度か枝に気をつけたのが嘘のように、グラウスも歩きやすそうだった。
ただ、大きな荷物を背負った二頭のグラウスはよく目立った。
道ですれ違う人たちが次々にこちらを見る。
カルウスに乗っているだけでも以前は珍しがられたのに、今度はその後ろから大量の荷物を載せたグラウスまで歩いている。
「また目立ってるね」
リシアが苦笑する。
「前よりひどい気がする」
「そのうち見慣れるだろ。毎回これで来るなら、向こうも嫌でも慣れるさ」
周りの視線が気になりながら、僕たちは道を歩き続けた。
夕方が近づく頃、ようやく見覚えのある街の壁が見えてきた。
前より時間はかかったが、運んできた量は比べものにならない。
二頭のグラウスが背負っている荷物を見ながら、僕は前回より少し違った気持ちで街の門へ向かった。




