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帰る場所をなくした僕らは、新しい故郷を作る  作者: うみのもずく


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50. 頼もしい背中



「エイル、今日ちょっと森に来ない?」


朝食を終えたところで、キアから突然そう声をかけられた。


「森? 狩りならトアたちと行くんじゃないの?」

「今日は狩りじゃないよ。前からやってたことが、そろそろ見せられそうだから」


キアがこういう言い方をする時は、大抵こちらの知らないところで何かを進めている。


「もしかして、また何か見つけたの?」

「見つけたっていうより、前から知ってた子たちだね。リシアも一緒に来る?」


近くにいたリシアまで誘われ、僕たちは顔を見合わせた。


「行くけど……今度は何を連れてくるつもりなの?」


リシアが半分呆れたように聞くと、キアは少しだけ笑った。


「見れば分かるよ」


どうやら今のところは教えてくれないらしい。

カルウスの時も似たようなことがあった気がする。


僕たちはキアについて森へ向かうことにした。

森へ入ると、二頭のカルウスと二匹のラプルスも自然についてきた。

最近では珍しくない光景だけれど、今日は狩りに行くわけではない。


「この子たちも必要なの?」


僕が尋ねると、キアは歩きながら頷いた。


「必要ってほどじゃないけど、一緒に来た方が向こうも落ち着くと思う。もう何度も会わせてるからね」

「向こうって?」

「もうすぐ分かるよ」


やっぱり教えてくれない。


そのまましばらく森を進んだ。

いつもの狩場とは少し方向が違い、木々の間隔も徐々に広くなっていく。


やがて前を歩いていたキアが速度を落とした。


「この辺から、あんまり大きな声を出さないでね。人には慣れてきてるけど、まだ村の中ほどじゃないから」


その言葉を聞いて、僕とリシアも自然と足音を抑える。


木々の向こうには、同じような大きな影が三つ見えた。

最初は倒木か岩かと思った。

けれど、それがゆっくりと動く。


「……でかいね」


隣でリシアが小さく呟く。

カルウスよりも明らかに大きい。

四本の脚は太く、胴体もずんぐりとしている。

背中は広く、首から肩にかけてもしっかりと厚みがあった。

近くの木に体を擦りつけると、幹の方が揺れている。


「あれがグラウス」


キアがようやく名前を教えてくれた。

僕もその名前なら聞いたことがある。


森に暮らす大型の草食獣で、大人しいことが多い一方、体が大きく力も強い。

不用意に近づいて怒らせれば危険なので、森で見かけても距離を取るのが普通だと聞いたことがある。


「まさか、これも村に連れていくつもり?」


僕が聞くと、キアは当然のように頷いた。


「そのつもり。前にみんなが街へ行く時、カルウスに荷物を載せてたでしょ? あれを見て、この先もっと持っていく物が増えたら大変になると思ったんだ」


そこまで聞いて、ようやく目的が分かった。

前回の交易ではカルウスに荷物を運んでもらった。

あれくらいなら問題なかったけれど、村で売れるものが増えていけば、いつまでも同じようにはいかない。


「それで、街から戻ってからずっとグラウスのところに通ってたの?」


リシアが聞く。


「うん。正確には、みんなが街へ行く前から少しずつ様子は見てたよ。荷物を載せてるのを見て、本格的に慣らしてみようと思った」


僕は思わず笑ってしまった。


「本当にこういう時だけ行動が早いよね」

「動物は急いでも慣れてくれないから。必要になってから始めたら遅いでしょ?」


言われてみれば、その通りだった。

一頭のグラウスがこちらに気づき、ゆっくり顔を上げた。

キアが近づいても逃げる様子はない。

それどころか、慣れた様子で鼻先を近づけてくる。

キアは首の横を軽く撫でながら、僕たちを振り返った。


「この子はかなり慣れたよ。急に近づかなければ、二人もそばまで来て大丈夫」


僕とリシアは少しずつ距離を詰めた。


近づくほど大きさがよく分かる。

目線の高さだけでもかなりあるし、胴体の幅はカルウスとは比べものにならない。

これなら確かに、荷物を載せるには向いていそうだ。


その時、後ろからラプルスが一匹近づいてきた。

グラウスも気づいて顔を向ける。

特に逃げることもなければ、身構える様子もない。

ラプルスの方もグラウスには興味がないらしく、少し離れたところをそのまま通り過ぎていった。


「ラプルスがいても平気なんだね」


リシアが言う。


「もともと相性は悪くないよ」


キアが答える。


「ラプルスくらいの大きさじゃ、グラウスを普通は獲物にしないからね。群れでわざわざ危ない相手を狙う必要もないし、グラウスの方もラプルス程度ならそこまで怖がらない」


そう言いながら、キアはグラウスの脇腹を軽く叩いた。

近くで見ると、皮膚にもかなり厚みがある。


「この子たち、皮膚も頑丈なんだ。もしラプルスがしつこく近づいても、体を振ったり脚で追い払ったりできる」

「最初からそこまで警戒し合う相手じゃなかったってこと?」


僕が尋ねると、キアは首を振った。


「襲い合わなくても、知らない相手がいつも近くを歩いてたら落ち着かないでしょ。村じゃカルウスもラプルスも普通に近くを通るから、先に何度か一緒に過ごさせておいたんだ」


なるほど。


仲良くさせるためというより、互いに「いつもの相手」だと覚えてもらったらしい。


「カルウスとはどうなの?」

「そっちはもっと早かったよ。どっちも草や木の実を食べるし、変にちょっかいを出さないから」


ちょうど一頭のカルウスがグラウスの横へ歩いていき、その近くに生えていた葉を食べ始める。

グラウスも気にせず、同じ場所の草を食べていた。

さらに少し離れたところではラプルスが伏せている。


こうして見ていると、もう森の中では何度も同じ時間を過ごしてきたのだと分かった。


「ここまでやってたなら、先に教えてくれてもよかったんじゃない?」


リシアが笑うと、キアは少し困ったような顔をした。


「途中でこの子たちが嫌がったら、村には連れていけなかったからね。大丈夫そうって分かるまでは言わない方がいいと思ったんだ」


相変わらず慎重なのか大胆なのか分からない。

でも、生き物のことになるとキアなりにかなり先まで考えているらしい。


僕たちはしばらくグラウスの近くで過ごした。

キアに教えてもらいながら触れてみると、見た目通り皮膚はかなり分厚そうだった。

カルウスの羽毛に触れた時とは全く感触が違う。


「これだけ大きいなら、かなり荷物を運べそうだね」


リシアが背中を見上げる。


「どのくらい載せられるの?」

「まだ限界まで試したことはないよ。最初から重いものを載せて嫌がられたら困るから、少しずつ増やしてるところ」


キアはそう前置きしてから、グラウスの背中を示した。


「でも、カルウスよりずっと重いものを運べるのは間違いないよ。体も荷物を背負ったまま歩くのに向いてる」

「じゃあ、街行きはかなり楽になるかな?」


僕が聞くと、キアは少し考えてから答えた。


「運ぶ量だけ考えればね。でも、カルウスみたいに速くはないよ」

「どれくらい違うの?」

「カルウスだけなら、朝早く出ればその日の夜遅くか深夜くらいには街の近くまで行けると思う。でもグラウスに荷物を載せて進むなら、一日は無理だね。途中でちゃんと休ませながらなら、二日くらいは見た方がいいと思う」


思っていた以上に差がある。


「荷物をいっぱい運べる代わりに遅いんだ」

「そう。グラウスは走って移動するための子じゃないから」


キアがカルウスを見る。


「あっちは人を乗せて森を速く進むのが得意。こっちは重いものを持って、ゆっくり長く歩くのが得意。同じ使い方をしない方がいいと思う」


次の交易は、前回とはずいぶん違った形になりそうだ。




この日、キアは三頭いるグラウスのうち二頭を村へ連れて帰ることにした。


「三頭とも連れていかないの?」

「もう一頭はまだ俺以外の人が近づくと離れたがるんだ。急がなくても二頭いれば十分だよ」


嫌がるものまで無理に連れてくるつもりはないらしい。


村へ向かう時には、カルウスが普段通り先を歩き、その後ろをグラウスがゆっくりついてきた。

ラプルスも周囲を行き来している。

グラウスがラプルスを気にすることはほとんどなく、たまに近くを横切られて顔を向ける程度だった。


一度だけラプルスが興味を持ったのかグラウスの脚元へ近づきすぎたけれど、グラウスが脚を踏み鳴らすとすぐに距離を取った。


キアはその様子を見ても止めなかった。


「今くらいなら大丈夫。ああやって、お互いにどこまで近づいていいか探ってる途中だから」


動物同士にもそれぞれの距離感があるらしい。

しばらくするとラプルスも気にしなくなり、またカルウスの近くを歩き始めた。



村へ戻ると、大きなグラウスはすぐに人を集めた。


カルウスが初めて来た時ほど騒ぎにはならなかったものの、さすがにこの大きさは目立つ。

フィアやルダだけでなく、仕事をしていたドゥルガ人たちまで手を止めて見ている。


「また新顔が増えたねえ」


セナがグラウスを見上げながら笑う。


「ラプルスたちの次はグラウスかい?」

「うん。荷物を運んでもらおうと思ってるんだ。前に街へ行った時より、次は持っていく物が増えそうだから」

「これなら何回も往復しなくても済みそうだね」


ルダはグラウスの体を少し離れたところから眺め、脚や背中を確認していた。


「確かに荷運びには向いてそうだな。だが、鞍や荷を固定する道具はカルウスと同じじゃ駄目だろ」


すると今度は、話を聞いていたガドさんがグラウスの背中を見る。


「形を見せろ。荷を載せるなら作る」


キアが嬉しそうにガドさんの方を向いた。

どうやら今度は荷物を載せるための道具まで必要になりそうだ。



素早く人を運ぶカルウスと、大量の荷物を運ぶグラウス。さらに狩りを助けるラプルスもいる。


同じ森で暮らしていた生き物たちが、少しずつリーヴァ村の暮らしにも加わり始めていた。

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