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帰る場所をなくした僕らは、新しい故郷を作る  作者: うみのもずく


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29. 海の生き物



翌朝。


ガドさんは朝食を終えると、すぐに昨日作った織り道具を外へ持ち出した。


「また直すんですか?」

「ああ。昨日使ってみて、少し気になるところがあった」

「もう使えたんだから、そのままでもいいんじゃない?」


リシアが言うと、ガドさんは首を振った。


「使えるのと、使いやすいのは別だ」


そう言いながら、枠の角を少し削っていく。

ミレアさんも隣で確認していた。


「ここが少し引っかかっていました」

「なら、もう少し落とすか」

「はい、お願いします」


二人で話しながら調整していく。

昨日よりずっと手慣れて見えた。


「今日はもう一枚作るんですよね?」


ミレアさんが頷く。


「昨日と同じようにできるか、確かめてみたいです」


新しい袋には、まだ糸が残っている。

昨夜も少し作ったらしい。


「僕たちは何か手伝えますか?」

「今日は大丈夫ですよ」


ミレアさんが笑う。


「昨日よりも勝手は分かっていますから」

「じゃあ、僕たちは畑を見てこようか」


ちょうど収穫できそうな野菜も増えてきている。

ナギさんたちにも少し持っていくことにした。

畑からいくつか野菜を採り、籠に入れる。

僕とリシアはそのまま海辺へ向かった。


今日は風も弱く、海は穏やかだった。


遠くでは、ナギさんたちが浅瀬に網を仕掛けている。


「ナギさん」

「おう。今日は二人だけか?」


声をかけると、ナギさんがこちらを見る。


「ミレアさんは布を作ってます」

「布?」

「この前話した糸で、試しに作ってるんです」

「へえ」


ナギさんはよく分からなそうな顔をしたあと、僕たちの持っている籠へ目を向けた。


「それは?」

「野菜です。少し採れたので」

「また貰っていいのか?」

「もちろんです」


僕が籠を渡す。

ナギさんは中を覗き込んだ。


「助かる。こっちは魚ばっかりだからな」

「魚も美味しいじゃない」


リシアが言う。


「毎日食ってれば飽きるってもんだ」


ナギさんは笑った。


しばらく話していると、沖の方で水面が大きく揺れた。


「……?」


僕はそちらを見る。

何かが海面から姿を出した。


大きい。

魚とは違う丸みのある頭。

滑らかな身体。

背中には小さなひれが見える。


すぐに水の中へ沈んだ。


「今の、何ですか?」


僕が聞くと、ナギさんが海を見る。


「ああ、ルメウスだな」

「ルメウス?」

「知らないのか?」

「ええ、初めて見ました」


少しすると、さっきとは別の場所でまた水面が割れた。


今度は二頭。


さらにその後ろにもいる。

何頭かの群れらしい。


青灰色の身体が水面に現れては消えていく。


「大きいね」


リシアが目を細める。


「魚なんですか?」

「いや、魚とはちょっと違う」


ナギさんが答える。


「息をするために時々上がってくる」

「じゃあ、ずっと海の中にはいられないんですね」

「そうだな」


ルメウスたちは一定の方向へ泳いでいる。

時々、何頭かが同じ場所へ集まり、水面が騒がしくなる。


「何してるんでしょう」

「魚を追ってるんだろ。小さい魚の群れを見つけると、ああやって追い回すことがある」

「もしかして、食べるんですか?」

「ああ、食うぞ」


ナギさんにとっては当たり前のことらしい。

僕たちにとっては、初めて見る生き物だった。


「危なくないんですか?」


リシアが聞く。


「こっちから無理に近づかなきゃ大丈夫だ」

「人を襲ったりは?」

「うーん、俺は聞いたことないな」


ナギさんは少し考える。


「まあ、でかいから近くで暴れたら危ないだろうがな」


それくらいの距離感らしい。

僕たちはしばらく海を眺めた。

ルメウスの群れは何度か水面へ姿を見せたあと、少しずつ沖へ移動していった。


最後には背中も見えなくなる。


「海にも、まだ知らない生き物がたくさんいるんだね」

「この前は森でカルウスを見たばかりなのに」

「俺たちからしたら、カルウスの方が珍しいけどな」


ナギさんが言った。


「たまに森の近くまで来るのは見るけど、海には来ないからな」

「そりゃそうですよ」


ナギさんと談笑し野菜を渡したあと、僕たちは少しだけ漁を手伝ってから家へ戻った。


途中でリシアが言う。


「ルメウス、変な生き物だったね」

「うん。でもナギさんたちにとっては普通なんだろうね」

「そう考えると、私たちって本当に何も知らないんだね」

「この辺りに来てから、知らないことばかりだよ」


森や海。

そこに暮らす人たち。


僕たちはまだ、ほんの一部しか知らない。

でも、それを少しずつ知っていくのは嫌ではなかった。





家へ戻ると、ミレアさんが織り道具の前に座っていた。


「ただいま戻りました」

「おかえりなさい、もう少しで完成しますよ」


昨日よりペースが早い。

ガドさんが少し直したおかげなのか、それともミレアさんが慣れたのか。


糸を通す動きも昨日より滑らかだった。


「使いやすくなりました?」


僕が聞く。


「はい。とっても」

「そうだろ」


少し離れたところで木を削っていたガドさんが言った。


「なんでガドさんが得意そうなんですか」


リシアが笑う。


「俺が直したからな」

「それはそうだけど」


ミレアさんも笑った。

僕たちはそのまま、二枚目の布ができるのを待った。




しばらくして。


「できました」


ミレアさんが道具から布を外す。

昨日作ったものと、ほとんど同じ大きさ。

最初の布を部屋から持ってきて、横へ並べる。


僕たちは二枚を見比べた。


色。

薄さ。

表面の滑らかさ。


大きな違いはない。


「同じですね」


僕が言う。

リシアも両方を触ってみる。


「うん。私には違い分からない」

「私もです」


ミレアさんが答える。

ガドさんも端を触って確かめた。


「強さも似たようなもんだろうな」


今度は勝手に引っ張ろうとはしなかった。

昨日止められたことを覚えているらしい。


「じゃあ、一枚目だけ偶然だったわけじゃないんだね」


リシアが言った。


「そうみたいですね」


ミレアさんは二枚の布を何度も見比べている。


少し嬉しそうだった。

僕も改めて触ってみる。

やっぱり綺麗だ。

薄くて、滑らかで、それに丈夫。


「これ、他の人が見たらどう思うんでしょう」


何気なく思ったことを口にすると、ミレアさんは真剣な表情で布を見つめる。


「……そうですね。もう少し作ったら、また以前みたいに町に持っていってみてもいいかもしれませんね」


考えたあと、もう一度触れる。


「糸は足りますか?」

「少し足りないかもしれないので、今夜はすこし多めに糸を作ろうと思います」

「無理はしないでくださいね」

「ええ、もちろんです」


ミレアさんが笑った。

その横で、ガドさんが織り道具を持ち上げる。


「次はもう少し大きくしてもいいかもしれんな」


ミレアさんがすぐに振り返る。


「いきなり大きくしなくていいですよ」

「少しくらいならいいだろ」

「まずは今ので慣れてからです」

「……そうか」


ガドさんは少し残念そうに織り道具を戻した。



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