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帰る場所をなくした僕らは、新しい故郷を作る  作者: うみのもずく


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25/68

25. 群れ



翌朝。


昨日と同じように目を覚ますと、すでに外から薪を割る音が聞こえていた。


僕は急いで外へ出る。

案の定、ガドさんが薪を割っていた。


「……おはようございます」

「おう」

「今日こそは僕の方が早いと思ったんですけど」

「残念だったな」


空はまだ朝焼けが残っている。

これでもかなり早く起きたつもりだった。


「何時から起きてるんですか?」

「さあな」

「絶対教える気ないですよね」


ガドさんは答えず、そのまま次の薪へ斧を振り下ろした。

後ろから出てきたリシアが、その様子を見て笑う。


「明日はもっと早く起きないとね」

「これ以上早くしたら夜だよ」

「だったら諦めればいいじゃない」

「…それはなんか悔しい」


そんな話をしていると、ミレアさんも家から出てきた。


「おはようございます」

「おはようございます」


ミレアさんは少し眠そうに目元を擦っている。

昨日の夜も、しばらく糸を作っていたらしい。

家の中に置かれた新しい袋には、毎晩少しずつ糸が増えている。


まだ前のものと比べ直したりはしていない。

もう少し貯まってから見てみようと話したからだ。


「今日はどうします?」


リシアが聞く。

畑への水やりはガドさんがほとんど終わらせてしまっている。

魚も昨日捕ったものが少し残っていた。


「薪も増やしておきたいですし、森を少し見て回りませんか?」


僕が言うと、ミレアさんが頷いた。


「いいと思います。食べられるものも探しておきたいですね」


そうして朝食を済ませたあと、僕たちは四人で森へ向かった。


海辺から少し離れるだけで、空気はずいぶん変わる。

潮の匂いが薄くなり、代わりに土と木の匂いが強くなる。

鳥の声も多い。


僕たちは使えそうな枝を拾いながら、いつもより少し奥へ進んでいった。


「これなら薪にできますね」


僕が枯れ枝を持ち上げる。


「細いな」


ガドさんが言う。


「火を起こす時には使えますよ」

「もっと太いのを持っていけばいいだろ」

「全部ガドさん基準にしないでください」


少し先では、ミレアさんとリシアが地面の草を見ていた。


「これは?」


リシアが尋ねる。


「それは食べられません」

「じゃあこっちは?」

「それも駄目です」

「……難しいね」

「私も全部分かるわけじゃないですよ」


ミレアさんは苦笑した。


アルネア人の集落も森の中にあったから、僕たちよりは植物に詳しい。

それでも、場所が変われば見慣れないものも多いらしい。


「これなら大丈夫だと思います」


ミレアさんが指差した先には、小さな赤い実がいくつか生っていた。


「以前住んでいた森にも、よく似たものがありました。ただ……」


ミレアさんは一つ摘み取って眺める。


「今日は持って帰るだけにしましょう」

「賛成」


よく分からないものを無理に食べる必要はない。

僕たちは実を少しだけ籠へ入れた。




さらに森を進んでいると、ガドさんが突然足を止めた。


「どうしました?」

「……静かにしろ」


僕たちも立ち止まる。


何かいるのだろうか。

耳を澄ませる。


木々の向こうから、かすかに枝が折れる音が聞こえた。

それと、地面を蹴るような低い音。


「動物でしょうか」


ミレアさんが小声で言った。


「たぶんな」


ガドさんが近くの木の間を見る。

僕たちはしばらくその場で待った。


すると。


少し離れた木々の隙間を、大きな影が横切った。


「……え?」


思わず声が漏れる。


一頭だけではない。

続いて二頭。

三頭。

さらにその後ろにもいる。


木々の向こうを、見たことのない生き物の群れがゆっくりと進んでいた。


二本の太い脚。

長い尾。

身体は大きく、背中には短い羽毛のようなものが密に生えている。

首はそれほど長くない。

背丈はガドさんよりずっと高い。

羽毛に覆われた前脚が、歩くたびにわずかに揺れていた。


「……何ですか、あれ」


僕が呟く。

ミレアさんが目を細める。


「あれ……カルウスだと思います」

「知ってるんですか?」

「見たことはあります。私たちの集落の近くにも、たまに群れが来ていました」


カルウス。

初めて聞く名前だった。


群れの中には大きな個体もいれば、それより少し小さなものもいる。

一番後ろの個体は、まだ幼いのだろうか。

他の個体の半分ほどの背丈しかないカルウスが、一生懸命ついて歩いていた。


「大きいね……」


リシアが小さく言う。


「襲ってきたりしませんよね?」


僕が尋ねると、ミレアさんは少し考えた。


「草や葉を食べる生き物だったはずです。でも、近づきすぎると危ないって聞いていました」

「そりゃそうだろ」


ガドさんが言う。


「あの脚で蹴られたら無事じゃ済まん」


確かに、遠くから見ているだけでも、かなり力が強そうだった。


僕たちはそのまま動かず、群れが通り過ぎるのを待った。


カルウスたちはこちらに気づいているようだった。

何頭かが時々顔をこちらへ向ける。

でも近づいてくることはない。

一定の距離を保ったまま、ゆっくり森の奥へ消えていった。


しばらくして、また鳥の声が戻ってくる。


「……すごかったね」


リシアが言う。

僕はカルウスたちが消えていった方向を見る。


「この森、あんな大きな生き物もいるんですね」

「この辺りは広いですから」


ミレアさんが答える。


「私も知らない生き物はたくさんいると思います」


海についても同じだった。

ナギさんたちは僕たちよりずっと詳しいけれど、それでも海のすべてを知っているわけではない。


森もそうなのだろう。

僕たちはまだ、この土地のほんの一部しか知らない。


「捕まえれば運搬に使えそうだな」


ガドさんが言った。

僕とリシアが同時に振り返る。


「え、捕まえるんですか?」

「言ってみただけだ」

「絶対無理ですよ」

「あれを捕まえる前に私たちが蹴り飛ばされるよ」


リシアがそう言うと、ガドさんは腕を組んだ。すこしだけ悔しそうな顔をしている。


僕たちは笑いながら散策を再開した。






森を歩いているうちに、籠の中には色々なものが集まった。


薪。

見覚えのある木の実。

それから、使えそうな蔓。


今日はそれだけでも十分だった。




帰り道。


僕たちはさっきカルウスを見た場所を避け、少し遠回りして海辺へ戻った。


「ナギさんもカルウスを知ってるかな?」


リシアが言う。


「聞いてみようか」

「海の人でも知ってるんでしょうか」

「森の近くにも来てるし、見たことくらいあるんじゃない?」


ミレアさんが籠を抱え直す。


「私は、こんなに近くで見たのは久しぶりでした」

「アルネア人は捕まえたりしなかったんですか?」

「するわけないじゃないですか」


ミレアさんは即答した。


「あんな大きいもの、どうやって捕まえるんですか」

「…ですよね」


前を歩いていたガドさんも、僕たちの話を聞いて少しだけ肩を落とす。

ガドさんが本気で捕まえたかったんだなと思うと、少しだけ面白くて笑ってしまった。






家へ戻ると、ガドさんは拾ってきた薪を分け始めた。


僕とリシアは籠の中身を確認する。

ミレアさんは持ち帰った植物を一つずつ見ながら、食べられるものと分からないものを分けていた。


日が傾く頃には、いつものように夕食の準備が始まった。


特別なことは何もない。


それでも、今日見たカルウスの姿はしばらく頭から離れなかった。


あんな生き物が、この森のどこかで普通に暮らしている。

僕たちが知らないだけで、この土地にはまだ色々なものがあるのだろう。





夕食のあと。


ミレアさんは自分の小さな部屋へ入り、いつものように糸を作り始めた。


僕は少しだけ新しい袋を覗く。

前よりも、糸が増えている。


「もう少しかかりそうですね」

「はい。でも、急ぐことでもありませんから」


ミレアさんはそう言って笑った。


「そのうち、また比べてみましょう」

「そうしましょう」


僕は部屋を出た。

外ではガドさんが、今日持ち帰った太い枝を明日の薪にするつもりなのか、すでに斧を手にしていた。


「ガドさん、もう夜ですよ」

「まだ少し明るい」

「明日でいいじゃないですか」

「明日やるなら今やっても同じだろ」

「…同じじゃないと思います」


家の中から、リシアの笑い声が聞こえた。



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