2. 祭りの灯火
大人達が祭りの準備をしている間、僕とリシアは森で時間を潰すことにした。
僕は木に登り、リシアは下から心配そうな顔をしながら笑っている。
小川では二人で魚を追いかけ、びしょ濡れになって笑い合う。
これから自分たちの誕生日を祝ってもらうとは思えないくらい、普段と同じような時間が流れている。
「あ!あんなところに鹿の親子がいる!」
リシアが軽く背伸びをしながら、僕の後ろを指差すが、僕は後ろを振り向かない。
「嘘だろ。そんな嘘言ってると大人達に怒られるぞ。」
「嘘じゃなくて冗談でしょ〜!怒らないでよ!」
リシアが顔を覗き込んでくる。
「エイルに嘘つけるわけないじゃん。絶対ばれるもん」
「分かってるのになんでやるんだよ」
「そんな怒んないでよー!」
「別に怒ってない」
リシアがジッと目を見つめてくる。
「あ、嘘ついた。怒ってるの見えてるよ」
見透かされたことが、少しだけ悔しかった。
「…もういい、先に帰る」
僕はリシアに背を向けて一人で歩き出す。
「待ってってー!」
後ろからリシアが笑いながら走って追いかけてくる音が聞こえるが、構わずそのまま村の方向へ歩き出した。
気づけば日は傾き始めていた。
村へ戻ると、昼間とは別の景色が広がっていた。
「お!今日の主役の二人じゃないか!」
「10歳のお誕生日おめでとう!お祭りが楽しみね!」
すれ違う度に村の人達から声をかけられる。皆からここまで注目を浴びることもないから、なんだが気恥しい。
広場には大きな焚き火が組まれ、その周りには色鮮やかな料理が並べられていた。
まだ祭りは始まっていないはずなのに、手の空いた大人たちはすでに酒を飲み始めていた。
村はいつになく明るい雰囲気で包まれている。すでに日も落ちかけており、普段なら村から灯りが減り寂しくなる時間だが、今日だけは別だ。
自分の両親や友人だけでなく、ここに住む全員が祝福してくれる。
「二人とも、今日は本当におめでとう」
そう声をかけてくれたのは村長だった。村長もすでにお酒が入っているのか、顔を赤らめたまま話を続ける。
「二人が産まれたのがついこの間のように感じるよ…。あの日は本当に大変だったが、今となってはいい思い出じゃ」
村長が懐かしみながら語る。
「二人が無事に成長してくれて、儂は自分の孫のことのように嬉しいぞ」
「…ありがとうございます」
なんだか恥ずかしく、僕はそれだけしか言えなかった。
村長はお酒のせいか、いつもより饒舌になっているみたいだ。
「いいか二人とも。10歳は子供と大人の境目じゃ。これからは自分の行いに責任を持たねばならん。」
頬を赤らめたままの村長が、真剣な口調で続ける。
「自分の利益を得るために相手を傷つけるような嘘だけはついてはならん」
それは、物心ついた頃から言われてきた言葉だった。
両親も、村の大人達も、口を揃えて僕たちに言い聞かせてきた言葉。
村長は力強く、僕とリシアの目を交互に見つめる。
「説教くさくなってしまったな。まあ二人は老人の小言なぞなくとも立派な大人になれるじゃろう」
村長が満足そうな表情で僕たちの顔を見ていると、村の大人から声をかけられる。
「村長、そろそろ準備ができそうです」
「そうか、分かった」
村長がこちらに振り向く。
「よし、では主役の二人は中央の…」
────カンカンカンカンッ
村中に響き渡る、聞き慣れない音。
しかし、ただ事ではないことは子供の自分にでもすぐに分かる。
「森の奥から、大量の人影がこちらに向かっているぞー!!」
全員が山を見る。
一本。
二本。
十本。
二十本。
…まだ増える。
数え切れない。
さっきまで聞こえていた笑い声が、ぴたりと止んだ。
高くそびえ立つ山を背に、無数の松明の灯りがゆらゆらと揺れている。
それはまるで、夜の森が燃えながらこちらへ迫ってくるようだった。




