1. 10歳の誕生日
満月が昇る静かな夜。
小さな集落の家々から灯りが漏れている。
「産まれたぞ!」
小さな集落中に知らせが走る。
「男の子と女の子だ!」
人々が歓声をあげる。
この集落で子どもが生まれることは滅多にない。
一人生まれれば一年中語り草になる。
それなのに今夜は、二人。
双子ではない。
二人の母親が、同じ夜、ほとんど同じ時刻に産気づいたのだ。
「随分と珍しい場面に立ち会えたものだ。」
壁際に佇む男が呟く。
その男は周りの者たちと比べても 一回り以上背が高く、真っ先に目を引くのは、その頭部だった。
赤髪の間から伸びる二本の角。
荒々しく見える角だが、その顔に浮かぶ穏やかな笑みが、不思議と威圧感を和らげていた。
「えぇ。私も長いこと生きてきましたが、こんな事は初めてです。」
赤髪の男の横で、一人の銀色の髪をした老人が答える。
「これでまた、賑やかになるな。」
「そうですな。何かと世知辛い世の中ですが、この子達のおかげで未来に光を感じられますな。」
「ふふっ、まったくその通りだな。」
壁際に寄りかかっていた赤髪の男が、ゆっくりと子供たちに近づく。
目を閉じたまま産声をあげている二人の赤子を力強く見つめながら、男は呟く。
「────10年後にまた会えるのが楽しみだ、セリオンの子らよー」
───10年後───
「エイル!おきて!」
外からリシアの声が聞こえる。
とっくに目は覚めてるし、朝食だって食べ終わっていた。
「もうとっくに起きてるよ」
軽口を叩くように外の声に返事をする。
「珍しいね、早起きなんて」
家の中に入ってきながら少女が揶揄うように言う。
「これだけ大人たちが騒がしかったら嫌でも目が覚めるよ」
本当はもう少しだけ寝ていようかと思ったが、外から聞こえる大人達の声で目が覚めてしまった。
「今回は今までのよりも大変そうだね」
「そりゃそうだよ。主役が二人もいるんだから」
今日は僕とリシアの生誕祭だ。
この集落では10歳ごとに誕生日を祝う習慣がある。もちろん家族には毎年祝ってもらっていたが、今回は集落全体でのお祭りだ。
基本的には誰か一人が祝われることが多いが、今回は僕とリシアの二人が主役だ。
「お父さん達もすごく張り切ってたね」
「張り切りすぎて、腰を痛めないといいけど」
僕とリシアは大人達が忙しなく走っている姿を横目に、家の前で座って話していた。
「いつ頃から始まるんだろう?」
「お父さんは夕方から始めるって言ってたよ」
「それだとしばらく暇になるな」
このまま何もせず大人達の姿を眺めていても良かったが、なにも手伝わないことに対して何となく居心地が悪い。
「ここに居てもすることもないし、うちにあがっていく?」
「それもそうね。お邪魔しようかな」
扉を開けて家に戻ると、リシアが話し始める。
「エイルはさ」
リシアが少し不安そうな声で問いかけてくる。
「この村のこと、好き?」
あまりに急だったので、少し無言になり考え込む。
「…好きだけど」
「じゃあ、ずっとここにいる?」
僕は即答できず、一瞬言葉が詰まる。
「…わからない」
リシアに動揺を悟られまいと、顔を窓の方に向けながら続ける。
「別にこの村が嫌いで出ていきたい訳じゃないよ。でも、ただなんとなく、村の外がどうなっているのか気になるってだけ」
「ふーん」
リシアが何か言いたそうな顔をしていると、家の扉が開く音が聞こえてくる。
「あら、リシアちゃんきてたの。いらっしゃい」
「おばさん、こんにちは!」
額から汗が滴っている父さんと母さんが帰ってきた。
「今日は二人のために頑張っちゃうから、楽しみにしててね」
「祭りが始まるまで遊びに行ってもいいが、日が暮れる前に必ず帰ってくるんだぞ。主役がいないと始まらないからな」
「「はーい」」
このまま家にいても良かったが、祭りが始まるまでまだ時間がかかりそうだし二人で森に遊びに行くことにした。
森に二人で向かう道中、さっきのリシアとの会話が頭の隅でよぎる。
この森の先には、高く険しい山脈がそびえたっている。
あの山の向こうにはなにがあるのか
まだ、誰からも教えてもらったことは無かった。




