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『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』  作者: 雨宮ぐみ


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9/30

第9話 はじめての約束

『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』


――まえがき――


もし、あなたが古い写真の中にいる青年に――


一目惚れしてしまったら、どうしますか?


しかも、その青年が生きていたのは、今から80年も前。


名前しか知らない。


どんな声なのかも、どんな性格なのかも分からない。


もう二度と会うことなんてできない。


……普通なら、そう思いますよね。


16歳の女子高生、五十嵐ひまりも、最初はそう思っていました。


夏休み。


母親の実家で偶然見つけた、古いアルバム。


そこに写っていたのは、昭和十九年の海軍兵学校の学生たち。


その中にいた、一人の青年――如月健一、18歳。


ひまりは、写真を見た瞬間に恋をしてしまいます。


「……かっこいい」


「どんな人だったんだろう」


「どんな声で話すのかな」


「笑ったら、どんな顔をするんだろう」


写真の中の彼を眺めながら、どんどん想像を膨らませていくひまり。


そして、叶うはずのない願いを口にします。


「夢でもいいから……会ってみたい」


ところが、その夜。


写真が不思議な光を放ち――。


気を失ったひまりが目を覚ますと、そこは昭和十九年。


そして目の前には――。


「大丈夫か?」


写真の中の青年、如月健一が立っていました。


「…………え?」


「どうした?」


「……健一さん?」


「なぜ、俺の名前を知っている?」


こうして始まった、80年の時を越えた二人の恋。


現代の女子高生と、戦時中を生きる海軍兵学校の青年。


スマートフォンも、コンビニも、SNSも知らない健一。


そして、昭和の生活や戦時下の常識をまったく知らないひまり。


二人が一緒にいるだけで、毎日が大騒ぎ。


笑ったり、喧嘩したり、嫉妬したり。


時には胸が締めつけられるほど切ない時間を過ごしながら、二人は少しずつ本当の恋を知っていきます。


しかし――。


二人の間には、決して越えることのできない「時代」という壁がありました。


そして健一は、戦艦大和へ。


「必ず帰ってくる」


「待ってる。絶対に待ってるから」


二人は未来を約束します。


けれど――。


戦争という大きな運命が、二人を引き離してしまいます。


それでも、ひまりの恋は終わりません。


80年の時を越えて、もう一度――。


大好きな人に会うために。


これは、写真から始まった恋が、時代を越えて奇跡を起こす物語。


笑えて、キュンとして、時々泣ける。


そして最後には、きっと笑顔になれる。


『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』


どうぞ、ひまりと健一の80年越しの恋を――最後まで見届けてください。

第9話 はじめての約束


「健一くん!」


朝。


ひまりは廊下を走っていた。


「健一くん、どこですかー?」


「……朝から騒がしいな」


「!」


振り向くと、健一がいた。


「おはようございます!」


「ああ。おはよう」


「今日はどこか行くんですか?」


「午後から訓練がある」


「じゃあ、それまで暇?」


「……そうだな」


ひまりの目が輝いた。


「じゃあ、遊びましょう!」


「またか」


「だって暇なんだもん!」


「君は本当に暇が嫌いだな」


「令和では、暇だったらスマホを見るんです!」


「その『すまほ』がないから暇なんだろう?」


「そうなんです!」


健一は苦笑した。


「では、何をする?」


「えっと……」


ひまりは考える。


「鬼ごっこ!」


「……子供か」


「じゃあ、かくれんぼ!」


「もっと子供だな」


「じゃあ……」


ひまりは周囲を見る。


「散歩!」


「それならいい」


「やった!」


---


二人は兵学校の周辺を歩いていた。


ひまりは隣を歩く健一をちらちら見ている。


「……」


「何だ?」


「何でもありません」


「さっきから何度も俺を見るが」


「見てません」


「見ているだろう」


「……見てました」


健一が笑う。


「どうして?」


「……」


ひまりは少し考えてから答えた。


「なんか、嬉しくて」


「何が?」


「健一くんと一緒に歩いてること」


健一の足が、ほんの一瞬止まった。


「……そうか」


「はい」


ひまりも笑った。


---


しばらくすると、海が見える場所に出た。


「わぁ……!」


ひまりは目を輝かせた。


「海!」


「昨日も見ただろう」


「でも、何度見ても綺麗!」


ひまりは海の近くまで駆けていく。


「健一くん、こっち!」


「危ないぞ」


「大丈夫!」


「転ぶなよ」


「子供じゃないんだから!」


そう言った直後――。


「きゃっ!」


足元の石につまずいた。


「危ない!」


健一が咄嗟に腕を掴んだ。


ひまりの身体が、健一の胸元にぶつかる。


「……!」


「……!」


二人とも固まった。


近い。


顔が近い。


ひまりには、健一の鼓動まで聞こえそうだった。


「……大丈夫か?」


「……はい」


「怪我は?」


「ないです」


「そうか」


健一はゆっくり手を離した。


ひまりの顔は真っ赤だった。


「……」


健一も少し気まずそうに視線を逸らす。


「だから、無茶をするなと言っただろう」


「ご、ごめんなさい……」


「……だが」


健一がひまりを見る。


「怪我がなくてよかった」


「……」


その優しい表情に、ひまりの胸がまた高鳴った。


---


二人は海辺に座った。


「健一くん」


「何だ?」


「海、好きなんですよね?」


「ああ」


「どうして?」


健一はしばらく海を見つめた。


「海は、どこまでも続いているだろう?」


「はい」


「だから好きなんだ」


「……」


「遠くへ行っても、海はどこかで繋がっている」


健一は静かに言った。


「不思議だと思わないか?」


ひまりはその言葉を聞いて、胸の奥が少し切なくなった。


「……うん」


「君の時代の海も、ここから繋がっているのかな」


「もちろん」


ひまりは笑った。


「同じ海ですよ」


「そうか」


「じゃあ、約束しません?」


「約束?」


「はい」


ひまりは小指を差し出した。


「いつか、令和の海を一緒に見に行く」


健一は小指を見つめる。


「……これは?」


「指切りです」


「指切り?」


「約束するときに、こうするんです」


ひまりは自分の小指を健一の前に差し出す。


「ほら」


健一は少し戸惑いながら、小指を絡めた。


「こうか?」


「そう!」


ひまりは嬉しそうに笑う。


「約束ですよ」


「ああ」


「絶対ですよ?」


「分かった」


「絶対、忘れないでくださいね」


「忘れない」


その言葉を聞いて、ひまりは笑った。


「……じゃあ、約束成立!」


二人の小指が、そっと離れる。


---


その帰り道。


「健一くん」


「何だ?」


「今日、楽しかったです」


「俺もだ」


「本当?」


「ああ」


「じゃあ、また一緒に散歩しましょうね」


「そうだな」


ひまりは嬉しそうに歩く。


すると――。


「ひまり」


「はい?」


「君は……」


健一が少し迷う。


「未来へ帰りたいんだろう?」


「……はい」


「そうか」


「でも」


ひまりは健一を見る。


「帰るまでの間は、健一くんと一緒にいたいです」


健一は何も言わなかった。


ただ、少しだけ笑った。


「……そうだな」


その日の夕方。


健一は一人で海を見ていた。


指切りをした小指を、何となく見つめる。


「……令和の海、か」


その未来が本当に存在するのか。


自分がそこへ行けるのか。


今の健一には分からない。


それでも――。


ひまりと交わした約束だけは、不思議と心に残っていた。


一方、ひまりも部屋で自分の小指を眺めていた。


「……約束しちゃった」


顔が自然に緩む。


「健一くんと……」


胸がドキドキする。


そして、ひまりはまだ気づいていなかった。


自分が口にした、


「令和の海を一緒に見に行く」


という約束が――。


二人にとって、どれほど大切な意味を持つことになるのか。


――第9話・終――

『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』


――あとがき――


最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。


『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』はいかがでしたでしょうか?


この物語は、令和を生きる16歳の女子高生・五十嵐ひまりが、古いアルバムの中に写っていた青年・如月健一に一目惚れするところから始まりました。


「写真の中の人に恋をする」


普通なら、絶対に叶わない恋です。


けれど、ひまりの「会いたい」という強い想いが時を越え、二人は昭和十九年で出会います。


最初は、現代っ子のひまりと、真面目で少し不器用な健一。


時代も違えば、生活も価値観も違う二人でした。


それでも、一緒に過ごす時間が増えるにつれて、少しずつ惹かれ合い、恋人になっていきました。


二人の恋を描くうえで大切にしたかったのは、戦争そのものではなく、その時代の中でも誰かを好きになり、笑い、未来を夢見た若者たちの気持ちです。


健一にも、ひまりと一緒に過ごしたい未来がありました。


ひまりにも、健一と一緒に見たい未来がありました。


「また海を見よう」


「必ず帰る」


そんな普通の約束が、戦争によってどれほど大切なものだったのか。


だからこそ、二人が離ればなれになる場面は、物語の中でも特に大切にしました。


そして最後は――。


80年前には叶わなかった二人の約束を、令和の時代でもう一度。


健一の生まれ変わりとひまりが再会することで、二人の恋にもう一度、未来を与えました。


80年前にできなかったこと。


一緒に映画を見ること。


令和の街を歩くこと。


スマートフォンを見ること。


そして、何より――。


誰にも引き裂かれることなく、好きな人の隣にいること。


今度こそ、二人にはそんな普通の幸せを手にしてほしい。


そんな願いを込めています。


もし、物語を読み終えたあとに、


「ひまりと健一、この先どうなるんだろう?」


「令和で二人はどんな恋愛をするんだろう?」


そんなふうに想像していただけたなら、とても嬉しいです。


写真の中の一人の青年に一目惚れした少女。


そして、80年という長い時間を越えて、もう一度巡り合った二人。


恋は、時代が変わっても消えない。


そんな奇跡を、二人から感じてもらえたら嬉しいです。


最後まで、ひまりと健一の恋に付き合ってくださり、本当にありがとうございました。


またどこかで、二人に会える日が来るかもしれません。


そのときはきっと――。


「健一くん、令和へようこそ!」


「……ひまり。まずはスマートフォンの使い方を教えてくれ」


「そこから!?」


そんな二人の声が聞こえてきそうです。


それでは――。


『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』


これにて、二人の最初の物語は幕を閉じます。


最後まで読んでくださったあなたへ。


本当に、ありがとうございました。

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