第8話 健一さん、嫉妬する!?
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
――まえがき――
もし、あなたが古い写真の中にいる青年に――
一目惚れしてしまったら、どうしますか?
しかも、その青年が生きていたのは、今から80年も前。
名前しか知らない。
どんな声なのかも、どんな性格なのかも分からない。
もう二度と会うことなんてできない。
……普通なら、そう思いますよね。
16歳の女子高生、五十嵐ひまりも、最初はそう思っていました。
夏休み。
母親の実家で偶然見つけた、古いアルバム。
そこに写っていたのは、昭和十九年の海軍兵学校の学生たち。
その中にいた、一人の青年――如月健一、18歳。
ひまりは、写真を見た瞬間に恋をしてしまいます。
「……かっこいい」
「どんな人だったんだろう」
「どんな声で話すのかな」
「笑ったら、どんな顔をするんだろう」
写真の中の彼を眺めながら、どんどん想像を膨らませていくひまり。
そして、叶うはずのない願いを口にします。
「夢でもいいから……会ってみたい」
ところが、その夜。
写真が不思議な光を放ち――。
気を失ったひまりが目を覚ますと、そこは昭和十九年。
そして目の前には――。
「大丈夫か?」
写真の中の青年、如月健一が立っていました。
「…………え?」
「どうした?」
「……健一さん?」
「なぜ、俺の名前を知っている?」
こうして始まった、80年の時を越えた二人の恋。
現代の女子高生と、戦時中を生きる海軍兵学校の青年。
スマートフォンも、コンビニも、SNSも知らない健一。
そして、昭和の生活や戦時下の常識をまったく知らないひまり。
二人が一緒にいるだけで、毎日が大騒ぎ。
笑ったり、喧嘩したり、嫉妬したり。
時には胸が締めつけられるほど切ない時間を過ごしながら、二人は少しずつ本当の恋を知っていきます。
しかし――。
二人の間には、決して越えることのできない「時代」という壁がありました。
そして健一は、戦艦大和へ。
「必ず帰ってくる」
「待ってる。絶対に待ってるから」
二人は未来を約束します。
けれど――。
戦争という大きな運命が、二人を引き離してしまいます。
それでも、ひまりの恋は終わりません。
80年の時を越えて、もう一度――。
大好きな人に会うために。
これは、写真から始まった恋が、時代を越えて奇跡を起こす物語。
笑えて、キュンとして、時々泣ける。
そして最後には、きっと笑顔になれる。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
どうぞ、ひまりと健一の80年越しの恋を――最後まで見届けてください。
『第8話 健一さん、嫉妬する!?
「ひまり、今日はここで待っていてくれ」
朝。
健一はそう言うと、出かける準備を始めた。
「どこに行くんですか?」
「少し用事がある」
「私も行っていい?」
「今日はやめておいたほうがいい」
「どうして?」
「男ばかりの場所だからな」
「……」
ひまりは頬を膨らませた。
「私だって別に、男の人がいるところくらい平気ですよ」
「そういう問題ではない」
「じゃあ、どういう問題?」
「君が目立つ」
「……あ」
昨日までとは違い、今日は少しだけ洋服に近い服を借りていた。
それでも、令和の女子高生らしさは隠せない。
「分かりました」
ひまりは渋々頷いた。
「ちゃんと待ってます」
「ありがとう」
健一が歩き出す。
「健一さん!」
「何だ?」
「早く帰ってきてくださいね」
健一は一瞬だけ振り返った。
「ああ」
その顔が少し嬉しそうに見えた。
---
健一がいなくなってから。
「……暇」
ひまりは縁側で頬杖をついていた。
「スマホがあればなぁ」
写真も撮れる。
動画も見られる。
友達とも話せる。
でも――。
「……健一さんの写真、撮りたい」
ひまりは小さく笑った。
「令和に持って帰れたらいいのに」
そう呟いたところで、昨日のことを思い出す。
――夢でもいいから会いたい。
そう願ったら、本当に会えた。
「……不思議」
ひまりは自分の胸元に手を当てる。
「私、本当に健一さんのこと好きになってるのかな……」
写真を見て一目惚れした。
でも今は――。
写真ではなく、本人が好き。
そう思うと、顔が熱くなる。
「……会いたいな」
まだ少ししか離れていないのに。
そんな自分がおかしくて、ひまりは笑った。
---
昼過ぎ。
「ひまりさん!」
声をかけられて振り返る。
昨日の健一の同期生だった。
「一人か?」
「はい」
「如月は?」
「用事で出かけました」
「そうか」
青年はひまりの隣に腰を下ろした。
「暇そうだな」
「めちゃくちゃ暇です」
「そうだろうな」
青年が笑う。
「なら、少し話でもするか」
「いいんですか?」
「ああ」
ひまりは嬉しそうに頷いた。
「じゃあ、健一さんのこと教えてください!」
「……如月の?」
「はい!」
青年は苦笑した。
「ずいぶん気になるんだな」
「だって好き……」
ひまりは言いかけて、慌てて口を押さえた。
「……」
「今、好きと言ったか?」
「言ってません!」
「言っただろう」
「聞かなかったことにしてください!」
青年は声を上げて笑った。
「なるほどな」
「何がですか?」
「いや。あいつも大変だ」
「え?」
「何でもない」
---
「健一は昔から真面目な奴だ」
青年は話し始めた。
「勉強もできるし、訓練も真面目にやる」
「やっぱり!」
「ただ――」
「ただ?」
「意外と負けず嫌いだ」
「えっ、そうなんですか?」
「ああ」
「全然そんな感じしない」
「そう見えるだけだ」
ひまりは笑った。
「なんか可愛いですね」
「可愛い?」
「はい」
「本人に言ったら怒るぞ」
「じゃあ、秘密にします」
二人は笑った。
そのとき――。
「……何をしている?」
低い声がした。
「!」
ひまりが振り返る。
そこには、戻ってきた健一が立っていた。
「健一さん!」
ひまりが立ち上がる。
「おかえりなさい!」
「ああ」
健一はひまりを見る。
それから――。
隣にいる同期生を見る。
「……何を話していた?」
「如月の昔話だ」
「そうか」
「お前のことを、ひまりさんに色々教えてやっていたんだ」
「……余計なことを」
「何だよ」
健一は少し不機嫌そうだった。
ひまりは首を傾げる。
「健一さん、どうしたんですか?」
「別に」
「怒ってる?」
「怒っていない」
「じゃあ、なんでそんな顔?」
「……」
健一は答えない。
すると同期生がニヤリと笑った。
「もしかして、俺とひまりさんが二人で話していたのが気に入らないのか?」
「なっ……!」
健一の顔が赤くなる。
「そんなわけないだろう!」
「じゃあ、何だ?」
「……」
健一は黙り込む。
ひまりも健一を見る。
「……健一さん?」
「……知らん」
「知らんって……」
健一はそのまま歩き出した。
「ちょっと、待ってください!」
ひまりも慌てて後を追う。
---
「健一さん!」
少し離れたところで、ひまりが追いついた。
「本当にどうしたんですか?」
「……何でもない」
「絶対何かあります」
「ない」
「じゃあ、どうして怒ったんですか?」
「怒っていない」
「でも、怖い顔してました」
「……」
健一は足を止めた。
「……君が、あいつと楽しそうに話していたから」
「え?」
「……」
健一は自分でも驚いているようだった。
「それが……少し気になっただけだ」
「……」
ひまりは目を丸くする。
そして――。
頬が緩んだ。
「……もしかして」
「何だ?」
「嫉妬しました?」
「!」
健一の顔が一気に赤くなる。
「違う!」
「でも今……」
「違う!」
「ふふっ」
ひまりは嬉しそうに笑った。
「健一さん、可愛い」
「……君は本当に」
健一はため息をつく。
「人をからかうのが好きだな」
「だって、健一さんが嫉妬してくれたの、嬉しいんだもん」
「……」
その言葉に、健一は黙った。
「私、健一さんしか見てないですよ」
「……」
「だから、そんな顔しなくても大丈夫」
健一はひまりを見る。
しばらくして――。
「……そうか」
小さな声だった。
けれど、その表情は明らかに安心していた。
「はい」
ひまりも笑う。
二人は再び並んで歩き始めた。
しばらくして。
「……ひまり」
「はい?」
健一が初めて、自然にひまりの名前を呼んだ。
「これからは、俺がいないときも一人で無茶をするな」
「……!」
ひまりは足を止めた。
「今……」
「何だ?」
「名前……」
「……」
健一も気づいたらしい。
「……嫌だったか?」
「ううん!」
ひまりは首を大きく振った。
「嬉しいです」
健一は少し照れたように笑った。
「……そうか」
ひまりも嬉しそうに笑う。
「じゃあ、私も健一って呼んでいい?」
「……それは駄目だ」
「なんで!?」
「呼び捨ては馴れ馴れしい」
「じゃあ、健一くん!」
「……」
「健一くん!」
「……好きにしろ」
「やった!」
ひまりは笑った。
健一も、つられるように笑った。
その日――。
二人の距離は、また一歩近づいた。
そしてひまりはまだ知らなかった。
健一の中に芽生え始めたこの感情が――。
いつか、二人を結びつける大切な想いになることを。
――第8話・終――
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
――あとがき――
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』はいかがでしたでしょうか?
この物語は、令和を生きる16歳の女子高生・五十嵐ひまりが、古いアルバムの中に写っていた青年・如月健一に一目惚れするところから始まりました。
「写真の中の人に恋をする」
普通なら、絶対に叶わない恋です。
けれど、ひまりの「会いたい」という強い想いが時を越え、二人は昭和十九年で出会います。
最初は、現代っ子のひまりと、真面目で少し不器用な健一。
時代も違えば、生活も価値観も違う二人でした。
それでも、一緒に過ごす時間が増えるにつれて、少しずつ惹かれ合い、恋人になっていきました。
二人の恋を描くうえで大切にしたかったのは、戦争そのものではなく、その時代の中でも誰かを好きになり、笑い、未来を夢見た若者たちの気持ちです。
健一にも、ひまりと一緒に過ごしたい未来がありました。
ひまりにも、健一と一緒に見たい未来がありました。
「また海を見よう」
「必ず帰る」
そんな普通の約束が、戦争によってどれほど大切なものだったのか。
だからこそ、二人が離ればなれになる場面は、物語の中でも特に大切にしました。
そして最後は――。
80年前には叶わなかった二人の約束を、令和の時代でもう一度。
健一の生まれ変わりとひまりが再会することで、二人の恋にもう一度、未来を与えました。
80年前にできなかったこと。
一緒に映画を見ること。
令和の街を歩くこと。
スマートフォンを見ること。
そして、何より――。
誰にも引き裂かれることなく、好きな人の隣にいること。
今度こそ、二人にはそんな普通の幸せを手にしてほしい。
そんな願いを込めています。
もし、物語を読み終えたあとに、
「ひまりと健一、この先どうなるんだろう?」
「令和で二人はどんな恋愛をするんだろう?」
そんなふうに想像していただけたなら、とても嬉しいです。
写真の中の一人の青年に一目惚れした少女。
そして、80年という長い時間を越えて、もう一度巡り合った二人。
恋は、時代が変わっても消えない。
そんな奇跡を、二人から感じてもらえたら嬉しいです。
最後まで、ひまりと健一の恋に付き合ってくださり、本当にありがとうございました。
またどこかで、二人に会える日が来るかもしれません。
そのときはきっと――。
「健一くん、令和へようこそ!」
「……ひまり。まずはスマートフォンの使い方を教えてくれ」
「そこから!?」
そんな二人の声が聞こえてきそうです。
それでは――。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
これにて、二人の最初の物語は幕を閉じます。
最後まで読んでくださったあなたへ。
本当に、ありがとうございました。




