第10話 はじめての嫉妬は、女の子から!?
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
――まえがき――
もし、あなたが古い写真の中にいる青年に――
一目惚れしてしまったら、どうしますか?
しかも、その青年が生きていたのは、今から80年も前。
名前しか知らない。
どんな声なのかも、どんな性格なのかも分からない。
もう二度と会うことなんてできない。
……普通なら、そう思いますよね。
16歳の女子高生、五十嵐ひまりも、最初はそう思っていました。
夏休み。
母親の実家で偶然見つけた、古いアルバム。
そこに写っていたのは、昭和十九年の海軍兵学校の学生たち。
その中にいた、一人の青年――如月健一、18歳。
ひまりは、写真を見た瞬間に恋をしてしまいます。
「……かっこいい」
「どんな人だったんだろう」
「どんな声で話すのかな」
「笑ったら、どんな顔をするんだろう」
写真の中の彼を眺めながら、どんどん想像を膨らませていくひまり。
そして、叶うはずのない願いを口にします。
「夢でもいいから……会ってみたい」
ところが、その夜。
写真が不思議な光を放ち――。
気を失ったひまりが目を覚ますと、そこは昭和十九年。
そして目の前には――。
「大丈夫か?」
写真の中の青年、如月健一が立っていました。
「…………え?」
「どうした?」
「……健一さん?」
「なぜ、俺の名前を知っている?」
こうして始まった、80年の時を越えた二人の恋。
現代の女子高生と、戦時中を生きる海軍兵学校の青年。
スマートフォンも、コンビニも、SNSも知らない健一。
そして、昭和の生活や戦時下の常識をまったく知らないひまり。
二人が一緒にいるだけで、毎日が大騒ぎ。
笑ったり、喧嘩したり、嫉妬したり。
時には胸が締めつけられるほど切ない時間を過ごしながら、二人は少しずつ本当の恋を知っていきます。
しかし――。
二人の間には、決して越えることのできない「時代」という壁がありました。
そして健一は、戦艦大和へ。
「必ず帰ってくる」
「待ってる。絶対に待ってるから」
二人は未来を約束します。
けれど――。
戦争という大きな運命が、二人を引き離してしまいます。
それでも、ひまりの恋は終わりません。
80年の時を越えて、もう一度――。
大好きな人に会うために。
これは、写真から始まった恋が、時代を越えて奇跡を起こす物語。
笑えて、キュンとして、時々泣ける。
そして最後には、きっと笑顔になれる。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
どうぞ、ひまりと健一の80年越しの恋を――最後まで見届けてください。
『第10話 はじめての嫉妬は、女の子から!?
「……健一くん、遅いなぁ」
午後。
ひまりは縁側に座りながら、何度も庭のほうを見ていた。
今日は健一と一緒に散歩をする約束をしていた。
昨日、海辺でした「令和の海を一緒に見る」という約束。
その約束を思い出すだけで、ひまりの頬は緩んでしまう。
「……ふふ」
「何を笑っているんだ?」
「きゃっ!」
突然、後ろから声がして、ひまりは飛び上がった。
「健一くん!」
「驚きすぎだ」
「だって急に声かけるから!」
「すまない」
健一は笑った。
「待たせたな」
「ううん。全然!」
ひまりは立ち上がった。
「行きましょう!」
「ああ」
二人が歩き出そうとした――そのとき。
「如月さん!」
女の子の声がした。
「……?」
ひまりが振り返る。
そこには、十代後半くらいの女の子が立っていた。
白いブラウスに、長いスカート。
髪はきちんとまとめられている。
そして――。
健一を見るなり、その女の子の顔がぱっと明るくなった。
「やっぱり、ここにいたんですね」
「君は……」
健一が少し驚く。
「以前、海軍兵学校の近くでお会いした……」
「あ、覚えていてくださったんですね」
女の子は嬉しそうに笑った。
「はい」
ひまりは二人を交互に見る。
「……」
なんだろう。
胸の奥が、モヤッとする。
「こちらは?」
女の子がひまりを見る。
「あ……」
健一が答えるより先に、ひまりが口を開いた。
「五十嵐ひまりです!」
「五十嵐さん?」
「はい!」
「如月さんとは……?」
「……」
ひまりは一瞬考える。
「お友達です!」
「……」
健一がひまりを見る。
なぜか、その言葉が少し気になった。
女の子はにっこり笑った。
「そうなんですね」
「はい!」
ひまりも笑う。
でも――。
なんだか笑顔がぎこちない。
---
「如月さん」
女の子は健一に向き直った。
「先日のこと、本当にありがとうございました」
「いや。あれくらい構わない」
「でも、おかげで助かりました」
「そうか」
二人が話している。
ひまりは横で黙っている。
「……」
健一が何かを言うたびに、その女の子が嬉しそうに笑う。
「……」
ひまりの頬が少し膨らむ。
――何、この気持ち。
別にいいじゃん。
健一くんに女の子の知り合いがいたって。
私だって、健一くんの同期の人と話したし。
なのに――。
「……嫌だな」
小さな声が漏れた。
「何が?」
「ひゃっ!」
健一がこちらを見ていた。
「何でもない!」
「そうか?」
「はい!」
「……?」
健一は不思議そうにひまりを見る。
---
しばらくして、女の子は帰っていった。
「では、また」
「気をつけて」
健一が見送る。
ひまりは無言。
「……」
「ひまり?」
「何ですか?」
「どうした?」
「何が?」
「さっきから機嫌が悪そうだ」
「悪くないです」
「そうか?」
「悪くないです!」
「……」
健一はひまりの顔を覗き込む。
「本当に?」
「本当です!」
ひまりはぷいっと顔を背けた。
健一は困ったように笑った。
「分かった」
「……」
二人は歩き始めた。
しかし、ひまりは明らかに元気がない。
「……」
健一は横目でひまりを見る。
そして――。
「もしかして」
「?」
「さっきの女の子のことが気になるのか?」
「……!」
ひまりの足が止まった。
「ち、違います!」
「そうか?」
「違います!」
「なら、どうしてそんな顔をする?」
「……」
ひまりは答えられない。
「……だって」
「うん」
「健一くんが……」
「俺が?」
「……女の子と楽しそうに話してたから」
言った瞬間、ひまりの顔が真っ赤になる。
「……」
健一も黙る。
「……もしかして」
健一の声が少し柔らかくなる。
「君、嫉妬しているのか?」
「……っ!」
「図星か?」
「ち、違います!」
「違うのか?」
「……ちょっとだけ」
ひまりは小さな声で認めた。
「……ちょっとだけです」
健一はしばらく黙っていた。
そして――。
「……そうか」
なぜか嬉しそうに笑った。
「何で笑うんですか!」
「いや」
「笑わないでください!」
「すまない」
「……」
ひまりは恥ずかしくて顔を上げられない。
すると健一が言った。
「俺は、あの子に特別な気持ちはない」
「……え?」
「ただの知り合いだ」
「本当に?」
「ああ」
ひまりはそっと健一を見る。
「……よかった」
「何が?」
「……何でもないです」
「そうか」
健一は歩きながら、ふと口元を緩めた。
---
少し歩いたところで。
「ひまり」
「はい?」
「さっき君は、俺とあの子が楽しそうに話していたと言ったな」
「……はい」
「俺も一つ聞いていいか?」
「何ですか?」
「君は、俺が他の女の子と話すのが嫌なのか?」
「……」
ひまりは立ち止まった。
「……嫌です」
「そうか」
「だって……」
ひまりは顔を赤くしながら言う。
「私は健一くんのこと……」
そこまで言って、止まった。
「……」
健一も待っている。
「……好きだから」
ひまりは俯いた。
「……」
沈黙。
ひまりは心臓が壊れそうだった。
――言っちゃった。
――ついに言っちゃった。
「……ごめんなさい」
「なぜ謝る?」
「だって、急に……」
健一は少し考えた。
そして――。
「俺も」
「え?」
「君が他の男と楽しそうに話していると、少し気になる」
ひまりが顔を上げる。
「……それって」
「……」
健一は少し照れたように目を逸らした。
「君が俺を好きだと言うなら……」
「はい」
「俺も、君を特別に思っている」
「……!」
ひまりの目が大きくなる。
「本当?」
「ああ」
「本当に?」
「ああ」
「じゃあ……」
ひまりの顔に、満面の笑顔が浮かぶ。
「私たち、両思い?」
健一は少し恥ずかしそうに笑った。
「……そういうことになるのかもしれないな」
「やったぁ!」
ひまりが思わず両手を上げる。
「健一くん、大好き!」
「……声が大きい」
「だって嬉しいんだもん!」
健一は困ったように笑った。
けれど――。
その顔は、嬉しそうだった。
---
その日の帰り道。
ひまりは健一の隣を歩きながら、何度も笑っていた。
「……どうした?」
「嬉しいんです」
「何度目だ、それは」
「だって、健一くんも私のこと特別って思ってくれてるんですよね?」
「ああ」
「えへへ」
ひまりは嬉しそうに笑う。
そして――。
そっと健一の袖をつまんだ。
「……?」
「このくらいなら、いいですか?」
「何が?」
「一緒に歩くとき」
ひまりは恥ずかしそうに笑う。
健一は一瞬考えて――。
「ああ」
そう答えた。
ひまりは嬉しそうに、健一の袖を握った。
二人の距離は、今までよりずっと近くなった。
まだ正式に「恋人」と呼ぶには少し照れくさい。
けれど――。
二人の心は、確かに繋がり始めていた。
そして、ひまりは知らない。
この先、健一と過ごす一日一日が――。
いつか、かけがえのない思い出になっていくことを。
――第10話・終――
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
――あとがき――
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』はいかがでしたでしょうか?
この物語は、令和を生きる16歳の女子高生・五十嵐ひまりが、古いアルバムの中に写っていた青年・如月健一に一目惚れするところから始まりました。
「写真の中の人に恋をする」
普通なら、絶対に叶わない恋です。
けれど、ひまりの「会いたい」という強い想いが時を越え、二人は昭和十九年で出会います。
最初は、現代っ子のひまりと、真面目で少し不器用な健一。
時代も違えば、生活も価値観も違う二人でした。
それでも、一緒に過ごす時間が増えるにつれて、少しずつ惹かれ合い、恋人になっていきました。
二人の恋を描くうえで大切にしたかったのは、戦争そのものではなく、その時代の中でも誰かを好きになり、笑い、未来を夢見た若者たちの気持ちです。
健一にも、ひまりと一緒に過ごしたい未来がありました。
ひまりにも、健一と一緒に見たい未来がありました。
「また海を見よう」
「必ず帰る」
そんな普通の約束が、戦争によってどれほど大切なものだったのか。
だからこそ、二人が離ればなれになる場面は、物語の中でも特に大切にしました。
そして最後は――。
80年前には叶わなかった二人の約束を、令和の時代でもう一度。
健一の生まれ変わりとひまりが再会することで、二人の恋にもう一度、未来を与えました。
80年前にできなかったこと。
一緒に映画を見ること。
令和の街を歩くこと。
スマートフォンを見ること。
そして、何より――。
誰にも引き裂かれることなく、好きな人の隣にいること。
今度こそ、二人にはそんな普通の幸せを手にしてほしい。
そんな願いを込めています。
もし、物語を読み終えたあとに、
「ひまりと健一、この先どうなるんだろう?」
「令和で二人はどんな恋愛をするんだろう?」
そんなふうに想像していただけたなら、とても嬉しいです。
写真の中の一人の青年に一目惚れした少女。
そして、80年という長い時間を越えて、もう一度巡り合った二人。
恋は、時代が変わっても消えない。
そんな奇跡を、二人から感じてもらえたら嬉しいです。
最後まで、ひまりと健一の恋に付き合ってくださり、本当にありがとうございました。
またどこかで、二人に会える日が来るかもしれません。
そのときはきっと――。
「健一くん、令和へようこそ!」
「……ひまり。まずはスマートフォンの使い方を教えてくれ」
「そこから!?」
そんな二人の声が聞こえてきそうです。
それでは――。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
これにて、二人の最初の物語は幕を閉じます。
最後まで読んでくださったあなたへ。
本当に、ありがとうございました。




