第11話 恋人……ってことでいいんだよね?
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
――まえがき――
もし、あなたが古い写真の中にいる青年に――
一目惚れしてしまったら、どうしますか?
しかも、その青年が生きていたのは、今から80年も前。
名前しか知らない。
どんな声なのかも、どんな性格なのかも分からない。
もう二度と会うことなんてできない。
……普通なら、そう思いますよね。
16歳の女子高生、五十嵐ひまりも、最初はそう思っていました。
夏休み。
母親の実家で偶然見つけた、古いアルバム。
そこに写っていたのは、昭和十九年の海軍兵学校の学生たち。
その中にいた、一人の青年――如月健一、18歳。
ひまりは、写真を見た瞬間に恋をしてしまいます。
「……かっこいい」
「どんな人だったんだろう」
「どんな声で話すのかな」
「笑ったら、どんな顔をするんだろう」
写真の中の彼を眺めながら、どんどん想像を膨らませていくひまり。
そして、叶うはずのない願いを口にします。
「夢でもいいから……会ってみたい」
ところが、その夜。
写真が不思議な光を放ち――。
気を失ったひまりが目を覚ますと、そこは昭和十九年。
そして目の前には――。
「大丈夫か?」
写真の中の青年、如月健一が立っていました。
「…………え?」
「どうした?」
「……健一さん?」
「なぜ、俺の名前を知っている?」
こうして始まった、80年の時を越えた二人の恋。
現代の女子高生と、戦時中を生きる海軍兵学校の青年。
スマートフォンも、コンビニも、SNSも知らない健一。
そして、昭和の生活や戦時下の常識をまったく知らないひまり。
二人が一緒にいるだけで、毎日が大騒ぎ。
笑ったり、喧嘩したり、嫉妬したり。
時には胸が締めつけられるほど切ない時間を過ごしながら、二人は少しずつ本当の恋を知っていきます。
しかし――。
二人の間には、決して越えることのできない「時代」という壁がありました。
そして健一は、戦艦大和へ。
「必ず帰ってくる」
「待ってる。絶対に待ってるから」
二人は未来を約束します。
けれど――。
戦争という大きな運命が、二人を引き離してしまいます。
それでも、ひまりの恋は終わりません。
80年の時を越えて、もう一度――。
大好きな人に会うために。
これは、写真から始まった恋が、時代を越えて奇跡を起こす物語。
笑えて、キュンとして、時々泣ける。
そして最後には、きっと笑顔になれる。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
どうぞ、ひまりと健一の80年越しの恋を――最後まで見届けてください。
第11話 恋人……ってことでいいんだよね?
翌朝。
ひまりは鏡の前で、何度も自分の顔を見ていた。
「……ニヤニヤしてる」
昨日のことを思い出す。
――俺も、君を特別に思っている。
「……!」
思い出しただけで、顔が熱くなる。
「やばい……」
ひまりは両手で頬を押さえた。
「これって……ほぼ告白だよね?」
正式に「付き合おう」と言われたわけではない。
でも――。
「私、健一くんのこと好きで……」
「俺も、君を特別に思っている」
どう考えても、両思い。
「……恋人?」
その言葉を口にしただけで、ひまりの心臓が跳ねた。
「今日、聞いてみよう……」
そう決意した瞬間。
「ひまり」
「きゃっ!」
廊下から健一の声がした。
「起きているか?」
「お、起きてます!」
慌てて髪を整える。
「すぐ行きます!」
---
「おはようございます!」
「おはよう」
いつもの健一。
いつもの軍服姿。
なのに――。
昨日までとは、何かが違って見える。
「……」
ひまりは健一を見つめる。
「どうした?」
「なんでもないです」
「そうか?」
「はい」
ひまりはニコニコする。
健一が少し困った顔をした。
「……朝から機嫌がいいな」
「だって、昨日――」
「昨日?」
「……何でもない!」
「?」
健一は首を傾げた。
ひまりは心の中で叫ぶ。
――意識してるの、私だけ!?
---
朝食を終えたあと。
健一は出かける準備をしていた。
「今日は訓練ですか?」
「ああ」
「何時くらいに帰ってきます?」
「夕方には戻る」
「分かりました」
「……待っているのか?」
「え?」
健一は少し照れながら言った。
「俺が帰ってくるのを」
ひまりの胸がドキンと鳴る。
「……待ちます」
「そうか」
「絶対待ちます」
「分かった」
健一は笑った。
そして、玄関へ向かう。
「あ!」
ひまりが呼び止める。
「何だ?」
「……気をつけてくださいね」
健一は少し驚いた顔をした。
「ありがとう」
「……いってらっしゃい」
「ああ。行ってくる」
その言葉が、ひまりの胸に残った。
「……行ってらっしゃい、か」
令和では当たり前だった言葉。
でも今は――。
健一が帰ってくることを願う言葉になっていた。
---
夕方。
「遅いな……」
ひまりは縁側で待っていた。
「まだかな」
空が少しずつ夕焼け色になっていく。
「……健一くん」
すると――。
「ひまり」
「!」
振り返る。
健一が立っていた。
「おかえりなさい!」
「ああ」
「疲れました?」
「少しな」
「大丈夫?」
「大丈夫だ」
健一が腰を下ろす。
ひまりも隣に座った。
「……」
「……」
何となく沈黙が続く。
ひまりはちらちら健一を見る。
そして――。
意を決した。
「あの……」
「何だ?」
「昨日のことなんですけど」
「昨日?」
「……私たちって」
ひまりは顔を真っ赤にしながら言う。
「恋人……ってことでいいんですよね?」
「…………」
健一が固まった。
「……」
ひまりも固まる。
「えっと……」
「……」
「違いました?」
「いや」
健一は慌てて首を振る。
「違うわけではない」
「じゃあ……」
「……」
健一はしばらく考えた。
そして、ひまりを真っ直ぐ見つめる。
「俺は、君が好きだ」
「……!」
真正面から言われた。
ひまりの顔が一気に赤くなる。
「だから……」
健一も少し照れている。
「俺たちは……恋人でいいと思う」
「……!」
ひまりの目が輝く。
「本当?」
「ああ」
「本当に恋人?」
「ああ」
「私と健一くんが?」
「そうだ」
「……やったぁ!」
ひまりは思わず立ち上がった。
「私、初めて彼氏できた!」
「声が大きい」
「だって嬉しいんだもん!」
ひまりは満面の笑顔。
「健一くんが私の彼氏!」
「……そうだな」
健一も笑った。
---
「じゃあ……」
ひまりは少し恥ずかしそうに言った。
「恋人になった記念に、何かしたい」
「何を?」
「令和なら、デート!」
「でーと?」
「恋人同士で一緒に出かけるんです」
「なるほど」
健一は考える。
「それなら――」
「はい!」
「明日、時間を作ろう」
「本当!?」
「ああ」
「どこに行くんですか?」
「まだ決めていない」
「じゃあ、私が決めてもいい?」
「もちろん」
ひまりは嬉しそうに笑う。
「じゃあ、明日は初デートです!」
「……初デート」
健一がその言葉を繰り返す。
そして――。
「分かった」
少し照れながら頷いた。
---
その夜。
ひまりは布団の中で、一人で大騒ぎしていた。
「どうしよう!」
「明日、健一くんと初デート!」
「何着ていこう!?」
令和の服は、ここでは目立つ。
借りた着物も悪くない。
「でも……」
ひまりは布団に顔を埋める。
「彼氏と初デートなんて、令和でもしたことないのに……」
しかも相手は――。
「80年前の軍服男子……!」
ひまりは枕を抱きしめた。
「……好き」
小さく呟く。
その頃。
健一もまた、部屋で一人考えていた。
「……明日は初デートか」
恋人になった実感が、まだ少し不思議だった。
けれど――。
「楽しみだな」
健一は自然に笑っていた。
そして翌日。
二人にとって初めての「恋人としてのお出かけ」が始まる。
ひまりが令和の恋愛知識を総動員して挑む――。
昭和十九年・初デート。
果たして、二人はどんな一日を過ごすのか?
――第11話・終――
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
――あとがき――
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』はいかがでしたでしょうか?
この物語は、令和を生きる16歳の女子高生・五十嵐ひまりが、古いアルバムの中に写っていた青年・如月健一に一目惚れするところから始まりました。
「写真の中の人に恋をする」
普通なら、絶対に叶わない恋です。
けれど、ひまりの「会いたい」という強い想いが時を越え、二人は昭和十九年で出会います。
最初は、現代っ子のひまりと、真面目で少し不器用な健一。
時代も違えば、生活も価値観も違う二人でした。
それでも、一緒に過ごす時間が増えるにつれて、少しずつ惹かれ合い、恋人になっていきました。
二人の恋を描くうえで大切にしたかったのは、戦争そのものではなく、その時代の中でも誰かを好きになり、笑い、未来を夢見た若者たちの気持ちです。
健一にも、ひまりと一緒に過ごしたい未来がありました。
ひまりにも、健一と一緒に見たい未来がありました。
「また海を見よう」
「必ず帰る」
そんな普通の約束が、戦争によってどれほど大切なものだったのか。
だからこそ、二人が離ればなれになる場面は、物語の中でも特に大切にしました。
そして最後は――。
80年前には叶わなかった二人の約束を、令和の時代でもう一度。
健一の生まれ変わりとひまりが再会することで、二人の恋にもう一度、未来を与えました。
80年前にできなかったこと。
一緒に映画を見ること。
令和の街を歩くこと。
スマートフォンを見ること。
そして、何より――。
誰にも引き裂かれることなく、好きな人の隣にいること。
今度こそ、二人にはそんな普通の幸せを手にしてほしい。
そんな願いを込めています。
もし、物語を読み終えたあとに、
「ひまりと健一、この先どうなるんだろう?」
「令和で二人はどんな恋愛をするんだろう?」
そんなふうに想像していただけたなら、とても嬉しいです。
写真の中の一人の青年に一目惚れした少女。
そして、80年という長い時間を越えて、もう一度巡り合った二人。
恋は、時代が変わっても消えない。
そんな奇跡を、二人から感じてもらえたら嬉しいです。
最後まで、ひまりと健一の恋に付き合ってくださり、本当にありがとうございました。
またどこかで、二人に会える日が来るかもしれません。
そのときはきっと――。
「健一くん、令和へようこそ!」
「……ひまり。まずはスマートフォンの使い方を教えてくれ」
「そこから!?」
そんな二人の声が聞こえてきそうです。
それでは――。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
これにて、二人の最初の物語は幕を閉じます。
最後まで読んでくださったあなたへ。
本当に、ありがとうございました。




