第6話 令和女子高生、昭和の女の子になる!?
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
――まえがき――
もし、あなたが古い写真の中にいる青年に――
一目惚れしてしまったら、どうしますか?
しかも、その青年が生きていたのは、今から80年も前。
名前しか知らない。
どんな声なのかも、どんな性格なのかも分からない。
もう二度と会うことなんてできない。
……普通なら、そう思いますよね。
16歳の女子高生、五十嵐ひまりも、最初はそう思っていました。
夏休み。
母親の実家で偶然見つけた、古いアルバム。
そこに写っていたのは、昭和十九年の海軍兵学校の学生たち。
その中にいた、一人の青年――如月健一、18歳。
ひまりは、写真を見た瞬間に恋をしてしまいます。
「……かっこいい」
「どんな人だったんだろう」
「どんな声で話すのかな」
「笑ったら、どんな顔をするんだろう」
写真の中の彼を眺めながら、どんどん想像を膨らませていくひまり。
そして、叶うはずのない願いを口にします。
「夢でもいいから……会ってみたい」
ところが、その夜。
写真が不思議な光を放ち――。
気を失ったひまりが目を覚ますと、そこは昭和十九年。
そして目の前には――。
「大丈夫か?」
写真の中の青年、如月健一が立っていました。
「…………え?」
「どうした?」
「……健一さん?」
「なぜ、俺の名前を知っている?」
こうして始まった、80年の時を越えた二人の恋。
現代の女子高生と、戦時中を生きる海軍兵学校の青年。
スマートフォンも、コンビニも、SNSも知らない健一。
そして、昭和の生活や戦時下の常識をまったく知らないひまり。
二人が一緒にいるだけで、毎日が大騒ぎ。
笑ったり、喧嘩したり、嫉妬したり。
時には胸が締めつけられるほど切ない時間を過ごしながら、二人は少しずつ本当の恋を知っていきます。
しかし――。
二人の間には、決して越えることのできない「時代」という壁がありました。
そして健一は、戦艦大和へ。
「必ず帰ってくる」
「待ってる。絶対に待ってるから」
二人は未来を約束します。
けれど――。
戦争という大きな運命が、二人を引き離してしまいます。
それでも、ひまりの恋は終わりません。
80年の時を越えて、もう一度――。
大好きな人に会うために。
これは、写真から始まった恋が、時代を越えて奇跡を起こす物語。
笑えて、キュンとして、時々泣ける。
そして最後には、きっと笑顔になれる。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
どうぞ、ひまりと健一の80年越しの恋を――最後まで見届けてください。
第6話 令和女子高生、昭和の女の子になる!?
翌朝。
「……暑い」
ひまりは布団の中で、もぞもぞと動いた。
「暑い……暑すぎる……」
令和の自宅なら、朝からエアコンをつけているところだ。
しかし――。
「……エアコン、ないんだった」
ひまりはガバッと起き上がった。
「そうだったぁぁぁ!」
ここは昭和十九年。
スマートフォンもない。
コンビニもない。
エアコンもない。
そして――。
「……冷蔵庫も、自由に使えるわけじゃない」
ひまりは部屋を見回した。
「私、どうやって生活すればいいの?」
昨日までは、健一がいてくれたから何とかなった。
でも、今日は朝から姿が見えない。
「健一さん……」
名前を口にしただけで、なぜか胸がドキンとする。
「……って、私何考えてるの!」
ひまりは慌てて頬を叩いた。
「まずは生きていくことを考えなきゃ!」
---
「ひまりさん」
廊下から声がした。
「はい?」
顔を出すと、昨日会った健一の同期生が立っていた。
「如月から聞いている。君のことを少し手伝うように言われている」
「健一さんが?」
「そうだ」
「……優しい」
ひまりは思わず笑った。
「何か言ったか?」
「いえ、何でもありません!」
青年は少し困った顔をした。
「それより、その服装のままでは色々と目立つ」
「制服ですけど?」
「君の時代ではな」
「……あ」
確かに。
ここは昭和十九年。
女子高生の制服を着て歩いていれば、目立つに決まっている。
「どうしよう」
「そこで、これを用意した」
差し出された包み。
「これは?」
「女物の着物だ」
「着物!?」
ひまりは目を丸くした。
「私、着たことないです」
「そうなのか?」
「浴衣ならありますけど……」
「ゆかた?」
「夏祭りとかで着るやつ」
「なるほど」
青年は頷いた。
「とにかく、その制服では目立つ。着替えたほうがいい」
「……分かりました」
---
しばらくして。
「できました!」
ひまりが出てくる。
しかし――。
「…………」
青年が固まった。
「どうですか?」
「……似合っている」
「本当ですか?」
「ああ」
ひまりは嬉しそうに笑う。
しかし、歩き始めた瞬間――。
「……あれ?」
「どうした?」
「歩きにくい!」
「慣れていないからだ」
「こんなの毎日着てたんですか、昔の女の人……」
「そうだろうな」
「すごい……」
ひまりは裾を持ちながら、慎重に歩く。
その姿を見て――。
「……何をしているんだ?」
聞き覚えのある声。
「!」
ひまりが振り向く。
そこには健一が立っていた。
「健一さん!」
ひまりの顔が一瞬で明るくなる。
健一はひまりの姿を見ると、少し目を見開いた。
「……着物」
「どうですか?」
「……似合っている」
「!」
昨日と同じ言葉。
でも――。
健一に言われると、胸が嬉しくなる。
「本当?」
「ああ」
健一は少し照れたように視線を逸らした。
「……いつもの服より、こちらのほうがこの時代には合っている」
「そっちかぁ……」
ひまりが頬を膨らませる。
「褒められたと思ったのに」
「褒めている」
「本当に?」
「本当だ」
「じゃあ、もう一回言ってください」
「……」
健一は困った顔をする。
「似合っている」
「えへへ」
ひまりは嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます!」
その笑顔に――。
健一は思わず目を細めた。
---
「ところで」
健一が言った。
「今日は何をする?」
「何をするって?」
「君はこの時代で、何もすることがないだろう」
「そうですね」
「なら、少し町を見てみるか?」
「え?」
ひまりの目が輝いた。
「いいんですか?」
「ああ」
「行きたい!」
ひまりは勢いよく立ち上がった。
「昭和の町、見てみたい!」
「……元気だな」
「だって、せっかく来たんですよ?」
「そうだな」
健一も少し笑った。
---
二人は並んで歩いていた。
ひまりは辺りを見回しながら、何度も声を上げる。
「わぁ……!」
「何度目だ?」
「だって全部珍しいんだもん!」
「そんなにか?」
「はい!」
ひまりは楽しそうだった。
その様子を見ている健一も、自然と笑顔になる。
すると――。
「あ!」
ひまりが突然立ち止まった。
「どうした?」
「あれ!」
ひまりが指差した先には、小さな店があった。
「食べ物?」
「そうです!」
「また食べ物か」
「いいじゃないですか!」
ひまりが笑う。
健一は呆れながらも、一緒に店へ向かった。
「これ、何ですか?」
「饅頭だ」
「食べたい!」
「……分かった」
健一が店の人に声をかける。
ひまりは嬉しそうに待っていた。
そして――。
「はい」
「ありがとうございます!」
ひまりは饅頭を受け取った。
一口食べる。
「……!」
「どうだ?」
「美味しい!」
「そうか」
「健一さんも食べます?」
「俺は――」
ひまりが一つ差し出す。
「はい」
「……」
健一が固まる。
「どうしたんですか?」
「いや……」
「食べない?」
「……もらおう」
健一は饅頭を受け取った。
そして一口。
「……美味しいな」
「でしょ?」
二人は顔を見合わせて笑った。
その光景は――。
まるで普通の恋人同士のようだった。
---
帰り道。
ひまりはふと、健一の隣を歩きながら言った。
「今日、楽しかったです」
「そうか」
「健一さんと一緒だったから」
「……」
健一は黙る。
「どうしました?」
「いや……」
少し間を置いて。
「俺も、楽しかった」
「……!」
ひまりの顔が赤くなる。
「本当?」
「ああ」
「じゃあ、また一緒に行きましょうね」
「……そうだな」
二人は並んで歩く。
ひまりは、そっと健一を見る。
健一も、ほんの一瞬だけひまりを見る。
目が合う。
「……」
「……」
二人とも、なぜか同時に目を逸らした。
ひまりは心の中で叫んでいた。
――やばい。
――これ、絶対好きになってる。
そして健一もまた、胸の中で思っていた。
――この子といると、不思議と心が軽くなる。
まだ誰も、その気持ちに気がつけてはいなかった。
けれど――。
二人の恋は、確実に始まっていた。
――第6話・終――
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
――あとがき――
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』はいかがでしたでしょうか?
この物語は、令和を生きる16歳の女子高生・五十嵐ひまりが、古いアルバムの中に写っていた青年・如月健一に一目惚れするところから始まりました。
「写真の中の人に恋をする」
普通なら、絶対に叶わない恋です。
けれど、ひまりの「会いたい」という強い想いが時を越え、二人は昭和十九年で出会います。
最初は、現代っ子のひまりと、真面目で少し不器用な健一。
時代も違えば、生活も価値観も違う二人でした。
それでも、一緒に過ごす時間が増えるにつれて、少しずつ惹かれ合い、恋人になっていきました。
二人の恋を描くうえで大切にしたかったのは、戦争そのものではなく、その時代の中でも誰かを好きになり、笑い、未来を夢見た若者たちの気持ちです。
健一にも、ひまりと一緒に過ごしたい未来がありました。
ひまりにも、健一と一緒に見たい未来がありました。
「また海を見よう」
「必ず帰る」
そんな普通の約束が、戦争によってどれほど大切なものだったのか。
だからこそ、二人が離ればなれになる場面は、物語の中でも特に大切にしました。
そして最後は――。
80年前には叶わなかった二人の約束を、令和の時代でもう一度。
健一の生まれ変わりとひまりが再会することで、二人の恋にもう一度、未来を与えました。
80年前にできなかったこと。
一緒に映画を見ること。
令和の街を歩くこと。
スマートフォンを見ること。
そして、何より――。
誰にも引き裂かれることなく、好きな人の隣にいること。
今度こそ、二人にはそんな普通の幸せを手にしてほしい。
そんな願いを込めています。
もし、物語を読み終えたあとに、
「ひまりと健一、この先どうなるんだろう?」
「令和で二人はどんな恋愛をするんだろう?」
そんなふうに想像していただけたなら、とても嬉しいです。
写真の中の一人の青年に一目惚れした少女。
そして、80年という長い時間を越えて、もう一度巡り合った二人。
恋は、時代が変わっても消えない。
そんな奇跡を、二人から感じてもらえたら嬉しいです。
最後まで、ひまりと健一の恋に付き合ってくださり、本当にありがとうございました。
またどこかで、二人に会える日が来るかもしれません。
そのときはきっと――。
「健一くん、令和へようこそ!」
「……ひまり。まずはスマートフォンの使い方を教えてくれ」
「そこから!?」
そんな二人の声が聞こえてきそうです。
それでは――。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
これにて、二人の最初の物語は幕を閉じます。
最後まで読んでくださったあなたへ。
本当に、ありがとうございました。




