第5話 令和女子高生、初めての昭和ごはん!?
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
――まえがき――
もし、あなたが古い写真の中にいる青年に――
一目惚れしてしまったら、どうしますか?
しかも、その青年が生きていたのは、今から80年も前。
名前しか知らない。
どんな声なのかも、どんな性格なのかも分からない。
もう二度と会うことなんてできない。
……普通なら、そう思いますよね。
16歳の女子高生、五十嵐ひまりも、最初はそう思っていました。
夏休み。
母親の実家で偶然見つけた、古いアルバム。
そこに写っていたのは、昭和十九年の海軍兵学校の学生たち。
その中にいた、一人の青年――如月健一、18歳。
ひまりは、写真を見た瞬間に恋をしてしまいます。
「……かっこいい」
「どんな人だったんだろう」
「どんな声で話すのかな」
「笑ったら、どんな顔をするんだろう」
写真の中の彼を眺めながら、どんどん想像を膨らませていくひまり。
そして、叶うはずのない願いを口にします。
「夢でもいいから……会ってみたい」
ところが、その夜。
写真が不思議な光を放ち――。
気を失ったひまりが目を覚ますと、そこは昭和十九年。
そして目の前には――。
「大丈夫か?」
写真の中の青年、如月健一が立っていました。
「…………え?」
「どうした?」
「……健一さん?」
「なぜ、俺の名前を知っている?」
こうして始まった、80年の時を越えた二人の恋。
現代の女子高生と、戦時中を生きる海軍兵学校の青年。
スマートフォンも、コンビニも、SNSも知らない健一。
そして、昭和の生活や戦時下の常識をまったく知らないひまり。
二人が一緒にいるだけで、毎日が大騒ぎ。
笑ったり、喧嘩したり、嫉妬したり。
時には胸が締めつけられるほど切ない時間を過ごしながら、二人は少しずつ本当の恋を知っていきます。
しかし――。
二人の間には、決して越えることのできない「時代」という壁がありました。
そして健一は、戦艦大和へ。
「必ず帰ってくる」
「待ってる。絶対に待ってるから」
二人は未来を約束します。
けれど――。
戦争という大きな運命が、二人を引き離してしまいます。
それでも、ひまりの恋は終わりません。
80年の時を越えて、もう一度――。
大好きな人に会うために。
これは、写真から始まった恋が、時代を越えて奇跡を起こす物語。
笑えて、キュンとして、時々泣ける。
そして最後には、きっと笑顔になれる。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
どうぞ、ひまりと健一の80年越しの恋を――最後まで見届けてください。
第5話 令和女子高生、初めての昭和ごはん!?
「……お腹すいた」
ひまりのお腹が、ぐぅ~っと鳴った。
「…………」
隣にいた健一が、ひまりを見る。
「…………」
ひまりは顔を真っ赤にして、お腹を押さえた。
「……今の、聞かなかったことにしてください」
「無理だな」
「ですよね……」
健一は小さく笑った。
「そういえば、君は昨日から何も食べていないと言っていたな」
「はい……」
「それなら、何か食べないと」
「食べたい!」
ひまりの目が輝く。
「何がありますか?」
「食堂へ行けば、何かあるだろう」
「食堂!」
ひまりは立ち上がった。
「行きましょう!」
「……元気になったな」
「ご飯は大事ですから!」
「君は食べ物の話になると急に元気になるな」
「だってお腹すいてるんだもん!」
健一は呆れながらも、ひまりを連れて歩き出した。
---
食堂へ向かう途中。
ひまりは周囲をキョロキョロと見回していた。
「すごい……」
「何がだ?」
「本当に80年前なんだ……」
「またその話か」
「だって、見たことないものばっかりなんだもん」
道を歩く人。
建物。
看板。
何もかもが令和とは違う。
そして何より――。
「静かですね」
「そうか?」
「私の時代って、どこに行っても車とか電車とか、いろんな音がするから」
「そうなのか」
「はい」
ひまりは少し寂しそうに笑った。
「……でも、この静かな感じも好きかも」
健一はそんなひまりを横目で見た。
「君は、未来のことを話すときは楽しそうだな」
「え?」
「さっきから、ずっと目が輝いている」
「そうですか?」
「ああ」
ひまりは少し考える。
「……健一さんは、令和に行ってみたいですか?」
「俺が?」
「はい」
「そうだな……」
健一は空を見上げた。
「どんなところなのか、少し興味はある」
「じゃあ、案内してあげます!」
「君が?」
「はい!」
ひまりは胸を張った。
「東京とか、大阪とか、京都とか!」
「随分たくさんあるんだな」
「ありますよ!」
「食べ物も?」
「もちろん!」
「どんなものだ?」
「えっと……」
ひまりは指を折りながら考える。
「ハンバーガー!」
「……?」
「パスタ!」
「……?」
「パンケーキ!」
「……?」
「クレープ!」
「……」
健一が困った顔をする。
「君は食べ物の話ばかりだな」
「だって美味しいんですよ!」
「そうか」
健一が笑う。
「では、いつか食べてみたいな」
「……」
ひまりは一瞬、黙った。
「……いつか」
その言葉が、なぜか胸に残った。
---
食堂に到着すると、ひまりは目を丸くした。
「わぁ……!」
そこには大勢の学生たちがいた。
「ここでみんな食べるんですか?」
「ああ」
「なんか学校みたい!」
「学校だからな」
「そうでした」
ひまりは笑った。
健一が食事を受け取り、ひまりにも用意してくれる。
「はい」
「ありがとうございます!」
ひまりは席についた。
目の前に並んだ食事を見る。
「……」
「どうした?」
「これが昭和のご飯……」
「そうだ」
ひまりは少し緊張しながら箸を持った。
「いただきます!」
一口。
「……!」
ひまりの目が大きくなる。
「美味しい!」
「そうか?」
「はい!」
もう一口。
「美味しい!」
そしてまた一口。
「健一さん!」
「何だ?」
「これ、めちゃくちゃ美味しいです!」
「それは良かった」
健一は笑った。
ひまりは夢中で食べ続ける。
「……」
健一がじっと見る。
「?」
「君は、食べるのが早いな」
「お腹空いてたので!」
「そうか」
「はい!」
ひまりはご飯を食べながら笑った。
その姿を見ていた健一は――。
なぜか、胸の奥が少し温かくなるのを感じていた。
---
「ごちそうさまでした!」
食事を終えたひまりは、満足そうにお腹をさする。
「美味しかったぁ……」
「それならよかった」
「健一さん、本当にありがとうございます」
「礼などいらない」
「でも……」
ひまりは健一を見る。
「私、健一さんがいなかったらどうなってたか分からないです」
「……」
「突然、知らない時代に来ちゃって」
ひまりの表情が少し曇る。
「怖かったし……」
健一は黙って聞いていた。
「でも、健一さんが助けてくれたから」
「……」
「ちょっと安心しました」
健一はしばらく考えたあと、静かに言った。
「なら、しばらく俺を頼ればいい」
「え?」
「君は何も分からないんだろう?」
「はい」
「だったら、一人で無理をする必要はない」
ひまりは目を丸くした。
「……いいんですか?」
「ああ」
「迷惑じゃない?」
「迷惑なら、そう言う」
「……」
ひまりの顔に笑顔が戻る。
「じゃあ……よろしくお願いします!」
ひまりは深々と頭を下げた。
健一は少し驚きながら――。
「こちらこそ」
と答えた。
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その日の夕方。
ひまりは再び縁側に座っていた。
夕焼けが空を赤く染めている。
「綺麗……」
隣に健一が座った。
「気に入ったか?」
「はい」
ひまりは空を見ながら答える。
「令和とは全然違うけど……」
「うん」
「なんだか、落ち着きます」
「そうか」
しばらく二人は黙っていた。
蝉の声だけが聞こえる。
やがて、ひまりが口を開いた。
「健一さん」
「何だ?」
「私……いつか令和に帰れるのかな」
健一は答えなかった。
「……分からない」
「ですよね」
「だが――」
健一はひまりを見る。
「それまでは、俺がそばにいる」
「……!」
ひまりの胸が跳ねた。
「本当?」
「ああ」
「約束?」
「約束だ」
ひまりは嬉しそうに笑った。
「……ありがとうございます」
そして、そっと健一の隣に座り直す。
二人の肩が――。
ほんの少しだけ近づいた。
「……」
健一は何も言わなかった。
ひまりも何も言わなかった。
けれど二人とも――。
相手の存在を、いつもより強く意識していた。
その夜。
ひまりは布団の中で、今日一日のことを思い出していた。
「……健一さん」
写真の中で見つけた青年。
会ってみたいと願った青年。
その人が、今は自分のすぐそばにいる。
「……夢みたい」
ひまりは枕を抱きしめる。
そして、顔を真っ赤にしながら呟いた。
「……もっと、健一さんのこと知りたいな」
一方、その頃。
健一も自分の部屋で、ひまりのことを考えていた。
「……未来から来た少女、か」
なぜか、あの笑顔が頭から離れない。
「……不思議な子だ」
健一は小さく笑った。
二人の距離は――。
少しずつ。
確実に近づいていた。
――第5話・終――
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
――あとがき――
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』はいかがでしたでしょうか?
この物語は、令和を生きる16歳の女子高生・五十嵐ひまりが、古いアルバムの中に写っていた青年・如月健一に一目惚れするところから始まりました。
「写真の中の人に恋をする」
普通なら、絶対に叶わない恋です。
けれど、ひまりの「会いたい」という強い想いが時を越え、二人は昭和十九年で出会います。
最初は、現代っ子のひまりと、真面目で少し不器用な健一。
時代も違えば、生活も価値観も違う二人でした。
それでも、一緒に過ごす時間が増えるにつれて、少しずつ惹かれ合い、恋人になっていきました。
二人の恋を描くうえで大切にしたかったのは、戦争そのものではなく、その時代の中でも誰かを好きになり、笑い、未来を夢見た若者たちの気持ちです。
健一にも、ひまりと一緒に過ごしたい未来がありました。
ひまりにも、健一と一緒に見たい未来がありました。
「また海を見よう」
「必ず帰る」
そんな普通の約束が、戦争によってどれほど大切なものだったのか。
だからこそ、二人が離ればなれになる場面は、物語の中でも特に大切にしました。
そして最後は――。
80年前には叶わなかった二人の約束を、令和の時代でもう一度。
健一の生まれ変わりとひまりが再会することで、二人の恋にもう一度、未来を与えました。
80年前にできなかったこと。
一緒に映画を見ること。
令和の街を歩くこと。
スマートフォンを見ること。
そして、何より――。
誰にも引き裂かれることなく、好きな人の隣にいること。
今度こそ、二人にはそんな普通の幸せを手にしてほしい。
そんな願いを込めています。
もし、物語を読み終えたあとに、
「ひまりと健一、この先どうなるんだろう?」
「令和で二人はどんな恋愛をするんだろう?」
そんなふうに想像していただけたなら、とても嬉しいです。
写真の中の一人の青年に一目惚れした少女。
そして、80年という長い時間を越えて、もう一度巡り合った二人。
恋は、時代が変わっても消えない。
そんな奇跡を、二人から感じてもらえたら嬉しいです。
最後まで、ひまりと健一の恋に付き合ってくださり、本当にありがとうございました。
またどこかで、二人に会える日が来るかもしれません。
そのときはきっと――。
「健一くん、令和へようこそ!」
「……ひまり。まずはスマートフォンの使い方を教えてくれ」
「そこから!?」
そんな二人の声が聞こえてきそうです。
それでは――。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
これにて、二人の最初の物語は幕を閉じます。
最後まで読んでくださったあなたへ。
本当に、ありがとうございました。




