第27話 「最後の休日」――健一くんと過ごす時間
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
――まえがき――
もし、あなたが古い写真の中にいる青年に――
一目惚れしてしまったら、どうしますか?
しかも、その青年が生きていたのは、今から80年も前。
名前しか知らない。
どんな声なのかも、どんな性格なのかも分からない。
もう二度と会うことなんてできない。
……普通なら、そう思いますよね。
16歳の女子高生、五十嵐ひまりも、最初はそう思っていました。
夏休み。
母親の実家で偶然見つけた、古いアルバム。
そこに写っていたのは、昭和十九年の海軍兵学校の学生たち。
その中にいた、一人の青年――如月健一、18歳。
ひまりは、写真を見た瞬間に恋をしてしまいます。
「……かっこいい」
「どんな人だったんだろう」
「どんな声で話すのかな」
「笑ったら、どんな顔をするんだろう」
写真の中の彼を眺めながら、どんどん想像を膨らませていくひまり。
そして、叶うはずのない願いを口にします。
「夢でもいいから……会ってみたい」
ところが、その夜。
写真が不思議な光を放ち――。
気を失ったひまりが目を覚ますと、そこは昭和十九年。
そして目の前には――。
「大丈夫か?」
写真の中の青年、如月健一が立っていました。
「…………え?」
「どうした?」
「……健一さん?」
「なぜ、俺の名前を知っている?」
こうして始まった、80年の時を越えた二人の恋。
現代の女子高生と、戦時中を生きる海軍兵学校の青年。
スマートフォンも、コンビニも、SNSも知らない健一。
そして、昭和の生活や戦時下の常識をまったく知らないひまり。
二人が一緒にいるだけで、毎日が大騒ぎ。
笑ったり、喧嘩したり、嫉妬したり。
時には胸が締めつけられるほど切ない時間を過ごしながら、二人は少しずつ本当の恋を知っていきます。
しかし――。
二人の間には、決して越えることのできない「時代」という壁がありました。
そして健一は、戦艦大和へ。
「必ず帰ってくる」
「待ってる。絶対に待ってるから」
二人は未来を約束します。
けれど――。
戦争という大きな運命が、二人を引き離してしまいます。
それでも、ひまりの恋は終わりません。
80年の時を越えて、もう一度――。
大好きな人に会うために。
これは、写真から始まった恋が、時代を越えて奇跡を起こす物語。
笑えて、キュンとして、時々泣ける。
そして最後には、きっと笑顔になれる。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
どうぞ、ひまりと健一の80年越しの恋を――最後まで見届けてください。
第27話 「最後の休日」――健一くんと過ごす時間
「ひまり、明日、少しだけ時間が取れそうだ」
「えっ?」
健一からの手紙を読んだひまりは、思わず声を上げた。
「会えるの!?」
短い休暇が許されたらしい。
ひまりは急いで祖母に伝えた。
「ばあば! 明日、健一くんに会える!」
「まあ」
祖母は嬉しそうに笑った。
「よかったわね」
「はい!」
ひまりはその夜、何を着ていくかで悩み続けた。
「これ……?」
鏡の前で服を合わせる。
「いや、こっち?」
何度も着替える。
「……恋人に会うだけなのに、なんでこんなに緊張するのよ!」
そして最後には――。
「よし!」
お気に入りの服を一着選んだ。
---
翌日。
待ち合わせ場所に向かうと――。
「ひまり」
「健一くん!」
健一が立っていた。
久しぶりに見る顔。
「……」
ひまりはしばらく見つめた。
「どうした?」
「……ちょっと痩せました?」
「そうか?」
「うん」
「君が心配しすぎなんだ」
「だって……」
ひまりは健一の顔を見る。
「ちゃんと食べてる?」
「ああ」
「寝てる?」
「寝ている」
「本当に?」
「本当だ」
「怪我は?」
「ない」
「よかった……」
ひまりは胸を撫で下ろした。
---
二人は海辺へ向かった。
以前約束した場所。
「覚えてる?」
「もちろん」
「卒業の日に来たところ」
「ああ」
二人は並んで歩く。
「……なんか、久しぶりですね」
「そうだな」
「手紙ではいっぱい話してるのに」
「実際に会うと、違うな」
「うん」
ひまりは笑った。
「やっぱり、直接会うほうがいい」
健一も笑う。
「俺もそう思う」
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海辺に着くと、ひまりは砂浜に座った。
「健一くん、隣!」
「分かった」
健一が座る。
「ねえ」
「何だ?」
「帰ってきたら、一緒に何したい?」
「そうだな……」
健一は少し考える。
「君のいた時代の話をもっと聞きたい」
「令和の?」
「ああ」
「いいよ!」
ひまりは嬉しそうに話し始めた。
「まず、スマートフォンっていうものがあって――」
「それは前にも聞いた」
「写真もすぐ撮れるし、遠くの人とも話せるし」
「便利だな」
「映画も好きなときに見られるんですよ」
「そんなものがあるのか」
「あります!」
健一は笑う。
「君の時代は面白そうだな」
「健一くんも来てみる?」
「……」
ひまりは冗談のつもりだった。
でも、健一は少し真剣な顔をした。
「行けるなら、行ってみたい」
「……本当?」
「ああ」
「じゃあ、案内する!」
ひまりは嬉しそうに笑った。
「一緒に東京に行って、ショッピングして――」
「東京?」
「はい!」
「人が多そうだな」
「すごいですよ」
「迷子になりそうだ」
「私が手を繋いであげます」
「……」
健一の耳が赤くなる。
「何で照れてるんですか?」
「別に」
「ふふっ」
---
しばらくして。
ひまりは突然、真面目な顔になった。
「健一くん」
「ん?」
「本当に……帰ってきてくださいね」
「ああ」
「絶対ですよ」
「約束しただろう」
「……」
ひまりは健一の手を握った。
「私、待ってるから」
健一も、その手を握り返す。
「俺も、君のところへ帰る」
「……うん」
二人はしばらく手を繋いだまま、海を見ていた。
---
「そうだ!」
ひまりが突然立ち上がる。
「何だ?」
「今日は最後の休日かもしれないから、やりたいこと全部やりましょう!」
「全部?」
「はい!」
「何をする?」
「まず――」
ひまりは指を一本立てる。
「甘いもの!」
「またか」
「いいじゃないですか!」
二人は笑いながら町へ向かった。
甘いものを食べて。
話をして。
小さな店を覗いて。
くだらないことで笑って。
まるで普通の恋人同士の休日だった。
「……楽しい」
ひまりが呟く。
「俺もだ」
健一が答える。
---
夕方。
帰る時間が近づいてきた。
「……もう時間?」
「ああ」
ひまりの表情が曇る。
「嫌だな」
「俺もだ」
「もっと一緒にいたい」
「……」
健一は少し迷ってから、ひまりの手を握った。
「ひまり」
「はい」
「今日のことを覚えていてくれ」
「……?」
「俺も絶対に忘れない」
「もちろん」
「たとえ、これから忙しくなっても」
「うん」
「たとえ、しばらく会えなくなっても」
「……」
ひまりは胸騒ぎを覚えた。
「……健一くん?」
「大丈夫だ」
健一は笑う。
「俺は帰ってくる」
「……うん」
---
別れ際。
健一は懐から何かを取り出した。
「これを」
「何?」
小さな紙包みだった。
ひまりが開く。
「……!」
中には、押し花になった四つ葉のクローバー。
「これ……」
「君からもらったものだ」
「うん」
「ずっと持っていた」
「……」
「でも、今度は君に返す」
ひまりの目に涙が浮かぶ。
「どうして?」
「俺が帰るまで、君が持っていてくれ」
「……分かった」
ひまりは大切に受け取った。
「絶対返してくださいね」
「約束する」
「絶対ですよ」
「ああ」
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その夜。
ひまりは四つ葉のクローバーを枕元に置いた。
「……健一くん」
胸元のボタンと並べる。
「早く帰ってきてね」
一方――。
健一は大和へ戻る道を歩いていた。
その表情には、いつもの穏やかな笑顔があった。
しかし。
港に戻ると、艦内の空気が明らかに違っていた。
「如月」
「はい」
「明日、出航だ」
「……!」
健一の表情が変わる。
「行き先は?」
告げられた任務。
健一は静かに頷いた。
「……了解しました」
そしてその夜。
健一は最後に一度だけ、ひまりからもらった手紙を開いた。
『帰ってきたら、また一緒に海を見ましょう』
健一はその文字を指でなぞる。
「……必ず」
小さく呟く。
「必ず帰る」
しかし――。
翌朝。
戦艦大和は、ひまりの知らない場所へ向けて出航する。
そしてそれは――。
二人が最後に会った日になることを、まだ誰も知らなかった。
――第27話・終――
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
――あとがき――
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』はいかがでしたでしょうか?
この物語は、令和を生きる16歳の女子高生・五十嵐ひまりが、古いアルバムの中に写っていた青年・如月健一に一目惚れするところから始まりました。
「写真の中の人に恋をする」
普通なら、絶対に叶わない恋です。
けれど、ひまりの「会いたい」という強い想いが時を越え、二人は昭和十九年で出会います。
最初は、現代っ子のひまりと、真面目で少し不器用な健一。
時代も違えば、生活も価値観も違う二人でした。
それでも、一緒に過ごす時間が増えるにつれて、少しずつ惹かれ合い、恋人になっていきました。
二人の恋を描くうえで大切にしたかったのは、戦争そのものではなく、その時代の中でも誰かを好きになり、笑い、未来を夢見た若者たちの気持ちです。
健一にも、ひまりと一緒に過ごしたい未来がありました。
ひまりにも、健一と一緒に見たい未来がありました。
「また海を見よう」
「必ず帰る」
そんな普通の約束が、戦争によってどれほど大切なものだったのか。
だからこそ、二人が離ればなれになる場面は、物語の中でも特に大切にしました。
そして最後は――。
80年前には叶わなかった二人の約束を、令和の時代でもう一度。
健一の生まれ変わりとひまりが再会することで、二人の恋にもう一度、未来を与えました。
80年前にできなかったこと。
一緒に映画を見ること。
令和の街を歩くこと。
スマートフォンを見ること。
そして、何より――。
誰にも引き裂かれることなく、好きな人の隣にいること。
今度こそ、二人にはそんな普通の幸せを手にしてほしい。
そんな願いを込めています。
もし、物語を読み終えたあとに、
「ひまりと健一、この先どうなるんだろう?」
「令和で二人はどんな恋愛をするんだろう?」
そんなふうに想像していただけたなら、とても嬉しいです。
写真の中の一人の青年に一目惚れした少女。
そして、80年という長い時間を越えて、もう一度巡り合った二人。
恋は、時代が変わっても消えない。
そんな奇跡を、二人から感じてもらえたら嬉しいです。
最後まで、ひまりと健一の恋に付き合ってくださり、本当にありがとうございました。
またどこかで、二人に会える日が来るかもしれません。
そのときはきっと――。
「健一くん、令和へようこそ!」
「……ひまり。まずはスマートフォンの使い方を教えてくれ」
「そこから!?」
そんな二人の声が聞こえてきそうです。
それでは――。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
これにて、二人の最初の物語は幕を閉じます。
最後まで読んでくださったあなたへ。
本当に、ありがとうございました。




