第26話 「大和からの手紙」――ひまりの知らない戦い
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
――まえがき――
もし、あなたが古い写真の中にいる青年に――
一目惚れしてしまったら、どうしますか?
しかも、その青年が生きていたのは、今から80年も前。
名前しか知らない。
どんな声なのかも、どんな性格なのかも分からない。
もう二度と会うことなんてできない。
……普通なら、そう思いますよね。
16歳の女子高生、五十嵐ひまりも、最初はそう思っていました。
夏休み。
母親の実家で偶然見つけた、古いアルバム。
そこに写っていたのは、昭和十九年の海軍兵学校の学生たち。
その中にいた、一人の青年――如月健一、18歳。
ひまりは、写真を見た瞬間に恋をしてしまいます。
「……かっこいい」
「どんな人だったんだろう」
「どんな声で話すのかな」
「笑ったら、どんな顔をするんだろう」
写真の中の彼を眺めながら、どんどん想像を膨らませていくひまり。
そして、叶うはずのない願いを口にします。
「夢でもいいから……会ってみたい」
ところが、その夜。
写真が不思議な光を放ち――。
気を失ったひまりが目を覚ますと、そこは昭和十九年。
そして目の前には――。
「大丈夫か?」
写真の中の青年、如月健一が立っていました。
「…………え?」
「どうした?」
「……健一さん?」
「なぜ、俺の名前を知っている?」
こうして始まった、80年の時を越えた二人の恋。
現代の女子高生と、戦時中を生きる海軍兵学校の青年。
スマートフォンも、コンビニも、SNSも知らない健一。
そして、昭和の生活や戦時下の常識をまったく知らないひまり。
二人が一緒にいるだけで、毎日が大騒ぎ。
笑ったり、喧嘩したり、嫉妬したり。
時には胸が締めつけられるほど切ない時間を過ごしながら、二人は少しずつ本当の恋を知っていきます。
しかし――。
二人の間には、決して越えることのできない「時代」という壁がありました。
そして健一は、戦艦大和へ。
「必ず帰ってくる」
「待ってる。絶対に待ってるから」
二人は未来を約束します。
けれど――。
戦争という大きな運命が、二人を引き離してしまいます。
それでも、ひまりの恋は終わりません。
80年の時を越えて、もう一度――。
大好きな人に会うために。
これは、写真から始まった恋が、時代を越えて奇跡を起こす物語。
笑えて、キュンとして、時々泣ける。
そして最後には、きっと笑顔になれる。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
どうぞ、ひまりと健一の80年越しの恋を――最後まで見届けてください。
第26話 「大和からの手紙」――ひまりの知らない戦い
「……遅い」
ひまりは縁側で郵便を待っていた。
健一からの手紙が届かなくなって、もう何日も経っている。
最初は「忙しいだけ」と思っていた。
けれど――。
日が経つほど、不安は大きくなっていった。
「健一くん……」
胸元には、いつものように健一からもらったボタン。
ひまりはそれを握りしめる。
「大丈夫だよね……?」
そのとき。
「ひまり!」
祖母の声がした。
「郵便が来たよ」
「!」
ひまりは立ち上がった。
「健一くんから!?」
玄関へ走る。
けれど――。
郵便物の中に、見慣れた封筒はなかった。
「……違う」
ひまりの肩が落ちる。
「今日は来てないみたい」
「そう……」
祖母は少し心配そうにひまりを見る。
「そんなに待っている人なの?」
「……はい」
ひまりは小さく答えた。
「すごく大切な人なんです」
---
その日の夜。
ひまりは一人で机に向かっていた。
「……よし」
便箋を取り出す。
『健一くんへ。
最近、手紙が来ないので心配しています。
忙しいのかな?
ちゃんとご飯を食べていますか?
ちゃんと寝ていますか?
無理していませんか?
私は元気です。
……たぶん。
でも、健一くんから手紙が来ないと、やっぱり寂しいです。
だから――。
時間ができたら、一言だけでもいいから書いてください。
待っています。
ひまりより』
書き終えて、ひまりはペンを置いた。
「……届くよね」
封筒を胸に抱える。
「ちゃんと、健一くんのところまで」
---
その頃――。
戦艦大和。
艦内には、以前とは違う緊張感が漂っていた。
健一は持ち場で黙々と作業をしていた。
「如月」
「はい」
「少し休め」
「大丈夫です」
「顔に出てるぞ」
「……」
健一は苦笑した。
「ひまりから、手紙が来ているはずなんです」
「まだ届いてないのか?」
「ああ」
健一は懐に手を入れる。
そこには、これまでひまりから届いた手紙が大切にしまわれていた。
「心配しているだろうな」
「お前も心配してるんだろ?」
「……ああ」
健一は海を見る。
「会いたい」
その一言だけが、ぽつりと漏れた。
---
数日後。
ようやく郵便が届いた。
「如月!」
「……!」
健一が振り返る。
「手紙だ」
「誰からですか?」
「五十嵐ひまり」
その名前を聞いた瞬間。
健一の顔が明るくなった。
「……ありがとう」
手紙を受け取る。
その場ですぐに封を開ける。
『健一くんへ。
最近、手紙が来ないので心配しています。』
「……」
健一は一行ずつ読む。
そして――。
『待っています。』
その言葉を見つめた。
「……ひまり」
胸が熱くなる。
「俺も待ってる」
思わず呟いた。
---
健一は返事を書き始めた。
『ひまりへ。
心配させてすまない。
俺は元気だ。
少し忙しくて、なかなか手紙を書く時間が取れなかった。
でも、君からの手紙はちゃんと届いた。
何度も読み返した。
君が待っていてくれると思うと、どんなことでも頑張れる気がする。
だから――。
ひまりも元気でいてくれ。
そして、俺が帰ったら……』
そこで健一はペンを止めた。
「……」
しばらく考えてから、続きを書く。
『また二人で海を見よう。
今度は、もっと長い時間一緒にいたい。
君に話したいこともある。
帰ったら、ちゃんと伝える。
健一』
---
一方。
ひまりの家。
「……来た!」
郵便受けから手紙を取り出したひまりは、急いで部屋へ戻った。
「健一くん!」
封を開ける。
「……」
読み進めるほど、顔が緩んでいく。
「元気なんだ……」
胸を撫で下ろす。
「よかった……」
そして最後の文章。
『君に話したいこともある。帰ったら、ちゃんと伝える。』
「……?」
ひまりは首を傾げる。
「話したいこと?」
急に胸がドキドキしてきた。
「何だろう……」
ひまりの頭に、いろいろな想像が浮かぶ。
「もしかして……」
顔が赤くなる。
「……プロポーズ?」
「いやいやいや!」
自分でツッコむ。
「まだ16歳だよ、私!」
けれど。
「……でも」
ひまりは手紙を抱きしめる。
「ちょっとだけ……期待してもいいかな」
---
その夜。
ひまりは健一の写真を机に置いた。
「健一くん」
写真の中の青年に話しかける。
「帰ってきたら、何を話してくれるの?」
当然、写真は答えない。
「……早く会いたいな」
ひまりは写真をそっと撫でた。
すると――。
「……?」
写真の端が、ほんの一瞬だけ光った。
「え?」
ひまりが目を凝らす。
しかし、もう光は消えていた。
「また……?」
以前にも同じことがあった。
タイムスリップする前。
そして、あの不思議な夢。
「……何なんだろう」
ひまりは写真を見つめる。
---
その頃。
戦艦大和。
健一もまた、夜空を見上げていた。
「……ひまり」
同じ夜。
遠く離れた二人は、それぞれ同じ月を見ていた。
そして二人はまだ知らない。
この手紙が――。
二人の間で交わされる、最後の穏やかな手紙になるかもしれないことを。
戦況は、少しずつ悪化していた。
大和にも、大きな任務が近づいている。
そして――。
健一の運命を大きく変える命令が、まもなく下されようとしていた。
――第26話・終――
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
――あとがき――
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』はいかがでしたでしょうか?
この物語は、令和を生きる16歳の女子高生・五十嵐ひまりが、古いアルバムの中に写っていた青年・如月健一に一目惚れするところから始まりました。
「写真の中の人に恋をする」
普通なら、絶対に叶わない恋です。
けれど、ひまりの「会いたい」という強い想いが時を越え、二人は昭和十九年で出会います。
最初は、現代っ子のひまりと、真面目で少し不器用な健一。
時代も違えば、生活も価値観も違う二人でした。
それでも、一緒に過ごす時間が増えるにつれて、少しずつ惹かれ合い、恋人になっていきました。
二人の恋を描くうえで大切にしたかったのは、戦争そのものではなく、その時代の中でも誰かを好きになり、笑い、未来を夢見た若者たちの気持ちです。
健一にも、ひまりと一緒に過ごしたい未来がありました。
ひまりにも、健一と一緒に見たい未来がありました。
「また海を見よう」
「必ず帰る」
そんな普通の約束が、戦争によってどれほど大切なものだったのか。
だからこそ、二人が離ればなれになる場面は、物語の中でも特に大切にしました。
そして最後は――。
80年前には叶わなかった二人の約束を、令和の時代でもう一度。
健一の生まれ変わりとひまりが再会することで、二人の恋にもう一度、未来を与えました。
80年前にできなかったこと。
一緒に映画を見ること。
令和の街を歩くこと。
スマートフォンを見ること。
そして、何より――。
誰にも引き裂かれることなく、好きな人の隣にいること。
今度こそ、二人にはそんな普通の幸せを手にしてほしい。
そんな願いを込めています。
もし、物語を読み終えたあとに、
「ひまりと健一、この先どうなるんだろう?」
「令和で二人はどんな恋愛をするんだろう?」
そんなふうに想像していただけたなら、とても嬉しいです。
写真の中の一人の青年に一目惚れした少女。
そして、80年という長い時間を越えて、もう一度巡り合った二人。
恋は、時代が変わっても消えない。
そんな奇跡を、二人から感じてもらえたら嬉しいです。
最後まで、ひまりと健一の恋に付き合ってくださり、本当にありがとうございました。
またどこかで、二人に会える日が来るかもしれません。
そのときはきっと――。
「健一くん、令和へようこそ!」
「……ひまり。まずはスマートフォンの使い方を教えてくれ」
「そこから!?」
そんな二人の声が聞こえてきそうです。
それでは――。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
これにて、二人の最初の物語は幕を閉じます。
最後まで読んでくださったあなたへ。
本当に、ありがとうございました。




