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『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』  作者: 雨宮ぐみ


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第24話 手紙が来ない……「健一くん、どうして?」

『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』


――まえがき――


もし、あなたが古い写真の中にいる青年に――


一目惚れしてしまったら、どうしますか?


しかも、その青年が生きていたのは、今から80年も前。


名前しか知らない。


どんな声なのかも、どんな性格なのかも分からない。


もう二度と会うことなんてできない。


……普通なら、そう思いますよね。


16歳の女子高生、五十嵐ひまりも、最初はそう思っていました。


夏休み。


母親の実家で偶然見つけた、古いアルバム。


そこに写っていたのは、昭和十九年の海軍兵学校の学生たち。


その中にいた、一人の青年――如月健一、18歳。


ひまりは、写真を見た瞬間に恋をしてしまいます。


「……かっこいい」


「どんな人だったんだろう」


「どんな声で話すのかな」


「笑ったら、どんな顔をするんだろう」


写真の中の彼を眺めながら、どんどん想像を膨らませていくひまり。


そして、叶うはずのない願いを口にします。


「夢でもいいから……会ってみたい」


ところが、その夜。


写真が不思議な光を放ち――。


気を失ったひまりが目を覚ますと、そこは昭和十九年。


そして目の前には――。


「大丈夫か?」


写真の中の青年、如月健一が立っていました。


「…………え?」


「どうした?」


「……健一さん?」


「なぜ、俺の名前を知っている?」


こうして始まった、80年の時を越えた二人の恋。


現代の女子高生と、戦時中を生きる海軍兵学校の青年。


スマートフォンも、コンビニも、SNSも知らない健一。


そして、昭和の生活や戦時下の常識をまったく知らないひまり。


二人が一緒にいるだけで、毎日が大騒ぎ。


笑ったり、喧嘩したり、嫉妬したり。


時には胸が締めつけられるほど切ない時間を過ごしながら、二人は少しずつ本当の恋を知っていきます。


しかし――。


二人の間には、決して越えることのできない「時代」という壁がありました。


そして健一は、戦艦大和へ。


「必ず帰ってくる」


「待ってる。絶対に待ってるから」


二人は未来を約束します。


けれど――。


戦争という大きな運命が、二人を引き離してしまいます。


それでも、ひまりの恋は終わりません。


80年の時を越えて、もう一度――。


大好きな人に会うために。


これは、写真から始まった恋が、時代を越えて奇跡を起こす物語。


笑えて、キュンとして、時々泣ける。


そして最後には、きっと笑顔になれる。


『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』


どうぞ、ひまりと健一の80年越しの恋を――最後まで見届けてください。

第24話 手紙が来ない……「健一くん、どうして?」


「……今日も、来ない」


朝。


ひまりは郵便が届く時間になると、玄関へ向かった。


郵便屋さんの姿が見えるたびに、胸が高鳴る。


けれど――。


「……違う」


今日も、健一からの手紙はなかった。


「なんで……?」


ひまりは封筒の入っていない手を見つめる。


大和に乗ってから、健一は何度か手紙をくれていた。


短いものもあった。


「元気だ」


「今日は海が穏やかだった」


「ひまりも身体に気をつけろ」


そんな何気ない言葉でも、ひまりにとっては宝物だった。


なのに――。


突然、途切れた。


「……」


嫌な予感がする。


でも、ひまりは首を横に振った。


「駄目駄目」


自分に言い聞かせる。


「きっと忙しいだけ」


戦艦に乗っているのだから、毎日手紙を書けるわけじゃない。


それくらい分かっている。


「……そうだよね」



---


昼過ぎ。


ひまりは一人で縁側に座っていた。


膝の上には、健一からの手紙。


今までにもらったものを、全部大切にしまってある。


「……これ、何回読んだんだろう」


最初の手紙を開く。


『ひまりは元気にしているだろうか』


「元気だよ」


ひまりは小さく返事をする。


「でも……健一くんがいないから、ちょっと寂しい」


次の手紙。


『帰ったら、また海を見に行こう』


「うん」


涙が一粒、落ちる。


「約束したもんね」


ひまりは胸元から、健一のボタンを取り出した。


「これも、ちゃんと持ってるよ」


指先でそっと撫でる。


「だから……健一くんも、四つ葉ちゃんと持っててね」



---


その夜。


ひまりは夢を見た。


暗い海。


風が強く吹いている。


遠くに、巨大な船が浮かんでいた。


「……大和?」


ひまりは夢の中で呟いた。


すると――。


船の上に、健一が立っている。


「健一くん!」


ひまりは駆け出した。


「健一くん!」


健一がこちらを振り返る。


「ひまり!」


「健一くん!」


手を伸ばす。


あと少し。


あと少しで届く――。


その瞬間。


大きな音が響いた。


「……!」


海が激しく揺れる。


健一の姿が遠ざかっていく。


「待って!」


ひまりは必死に手を伸ばす。


「健一くん!」


健一も何か叫んでいる。


けれど、声が聞こえない。


「嫌!」


ひまりは走る。


「行かないで!」


そして――。


目の前が真っ白になった。



---


「……っ!」


ひまりは飛び起きた。


「はぁ……はぁ……」


全身に汗をかいている。


「夢……?」


胸が激しく鼓動している。


「……怖かった」


ひまりは胸元を押さえる。


けれど――。


枕元に置いていた健一のボタンを見ると、少しだけ安心した。


「大丈夫……」


ボタンを握りしめる。


「健一くんは帰ってくる」


そう信じるしかなかった。



---


翌日。


ひまりは祖母と一緒に畑へ出ていた。


「ひまり、少し休んだら?」


「大丈夫」


「昨日、あまり眠れなかったんでしょう?」


「……ちょっと夢を見ただけ」


「どんな夢?」


ひまりは迷った。


「……健一くんが出てきた」


祖母は少し微笑んだ。


「そう」


「でも、途中でいなくなっちゃって……」


「心配しているから、そんな夢を見たのかもしれないね」


「……そうですよね」


ひまりは頷いた。


けれど――。


なぜか、ただの夢とは思えなかった。



---


その日の夕方。


家の前に、一人の男が立っていた。


「……?」


ひまりが振り返る。


見慣れない軍服姿の男性だった。


男性は祖母に何か尋ねている。


「五十嵐さんのお宅はこちらでしょうか」


「はい、そうですが……」


男性の視線が、ひまりへ向いた。


「君が……ひまりさんか?」


「……はい」


男性は少し躊躇うような表情をした。


「如月健一さんの……」


その名前を聞いた瞬間。


ひまりの胸が跳ねた。


「健一くん!?」


男性は首を横に振る。


「いや……私は彼の同期の者だ」


「……!」


ひまりは駆け寄った。


「健一くんは!?」


「……」


男性は答えようとして、言葉を止めた。


「どうしたんですか?」


「いや……」


「健一くんに何かあったんですか?」


「……まだ、何も聞かされていない」


「じゃあ、どうしてここに?」


男性は懐から、一枚の封筒を取り出した。


「これを預かっていた」


「……!」


ひまりは震える手で受け取った。


封筒には――。


五十嵐ひまり様


そして、見慣れた文字。


「……健一くんの字」


間違いない。


ひまりは封筒を胸に抱いた。


「これ……いつ書いたんですか?」


「大和に乗る前だ」


「……」


「もし何かあったら渡してくれ、と頼まれていた」


ひまりの顔から血の気が引いた。


「……何かって?」


男性は答えなかった。


ただ、静かに頭を下げた。


「大切なものだと思う」


そして、そのまま去っていった。



---


「……」


ひまりは部屋に戻った。


封筒を机の上に置く。


怖くて、すぐには開けられない。


「……嫌」


手が震える。


「こんなの……」


もし。


もし、この手紙が――。


「違う」


ひまりは首を横に振る。


「考えちゃ駄目」


深呼吸する。


一回。


二回。


そして――。


ゆっくり封を開けた。


中には一枚の便箋。


ひまりは震える手で読み始める。


『ひまりへ。


この手紙を君が読んでいるということは――』


「……」


そこで、ひまりの目から涙が落ちた。


『俺がしばらく君のそばにいられないということだと思う。』


「……健一くん」


『心配しなくていい。


俺は必ず帰る。


君と約束したから。


また海を見よう。


また二人で笑おう。


そして――』


ひまりは涙を拭いながら読み進める。


『君に、直接伝えたいことがある。』


「……?」


『ひまり。


俺は君のことが――』


その先の文字を見た瞬間。


ひまりの手が止まった。


「……」


涙で文字が滲む。


「読めない……」


慌てて涙を拭う。


そして、もう一度見る。


そこに書かれていた言葉は――。


『大切な人だと思っている。』


「……」


ひまりは胸に手紙を抱きしめた。


「……私も」


声が震える。


「私も、健一くんが大切だよ……」


そして最後の一文。


『だから、待っていてほしい。


必ず帰る。


約束だ。


健一』


「……うん」


ひまりは涙を流しながら笑った。


「待ってる」


何度も頷く。


「絶対、待ってるから……」



---


その頃。


遠く離れた海の上。


戦艦大和は、静かに海を進んでいた。


甲板に立つ健一。


制服の内ポケットには――。


ひまりからもらった四つ葉のクローバー。


健一はそれをそっと握った。


「……ひまり」


そして、遠い故郷の空を見上げる。


「俺は帰る」


しかし――。


その航海の先には、戦争という大きな運命が待っていた。


そしてひまりもまた。


まだ知らない。


健一との「最後の約束」が――。


どれほど大切な意味を持つことになるのかを。


――第24話・終――

『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』


――あとがき――


最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。


『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』はいかがでしたでしょうか?


この物語は、令和を生きる16歳の女子高生・五十嵐ひまりが、古いアルバムの中に写っていた青年・如月健一に一目惚れするところから始まりました。


「写真の中の人に恋をする」


普通なら、絶対に叶わない恋です。


けれど、ひまりの「会いたい」という強い想いが時を越え、二人は昭和十九年で出会います。


最初は、現代っ子のひまりと、真面目で少し不器用な健一。


時代も違えば、生活も価値観も違う二人でした。


それでも、一緒に過ごす時間が増えるにつれて、少しずつ惹かれ合い、恋人になっていきました。


二人の恋を描くうえで大切にしたかったのは、戦争そのものではなく、その時代の中でも誰かを好きになり、笑い、未来を夢見た若者たちの気持ちです。


健一にも、ひまりと一緒に過ごしたい未来がありました。


ひまりにも、健一と一緒に見たい未来がありました。


「また海を見よう」


「必ず帰る」


そんな普通の約束が、戦争によってどれほど大切なものだったのか。


だからこそ、二人が離ればなれになる場面は、物語の中でも特に大切にしました。


そして最後は――。


80年前には叶わなかった二人の約束を、令和の時代でもう一度。


健一の生まれ変わりとひまりが再会することで、二人の恋にもう一度、未来を与えました。


80年前にできなかったこと。


一緒に映画を見ること。


令和の街を歩くこと。


スマートフォンを見ること。


そして、何より――。


誰にも引き裂かれることなく、好きな人の隣にいること。


今度こそ、二人にはそんな普通の幸せを手にしてほしい。


そんな願いを込めています。


もし、物語を読み終えたあとに、


「ひまりと健一、この先どうなるんだろう?」


「令和で二人はどんな恋愛をするんだろう?」


そんなふうに想像していただけたなら、とても嬉しいです。


写真の中の一人の青年に一目惚れした少女。


そして、80年という長い時間を越えて、もう一度巡り合った二人。


恋は、時代が変わっても消えない。


そんな奇跡を、二人から感じてもらえたら嬉しいです。


最後まで、ひまりと健一の恋に付き合ってくださり、本当にありがとうございました。


またどこかで、二人に会える日が来るかもしれません。


そのときはきっと――。


「健一くん、令和へようこそ!」


「……ひまり。まずはスマートフォンの使い方を教えてくれ」


「そこから!?」


そんな二人の声が聞こえてきそうです。


それでは――。


『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』


これにて、二人の最初の物語は幕を閉じます。


最後まで読んでくださったあなたへ。


本当に、ありがとうございました。

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