第23話 「大和に乗った健一くん」――離れていても、心は一緒
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
――まえがき――
もし、あなたが古い写真の中にいる青年に――
一目惚れしてしまったら、どうしますか?
しかも、その青年が生きていたのは、今から80年も前。
名前しか知らない。
どんな声なのかも、どんな性格なのかも分からない。
もう二度と会うことなんてできない。
……普通なら、そう思いますよね。
16歳の女子高生、五十嵐ひまりも、最初はそう思っていました。
夏休み。
母親の実家で偶然見つけた、古いアルバム。
そこに写っていたのは、昭和十九年の海軍兵学校の学生たち。
その中にいた、一人の青年――如月健一、18歳。
ひまりは、写真を見た瞬間に恋をしてしまいます。
「……かっこいい」
「どんな人だったんだろう」
「どんな声で話すのかな」
「笑ったら、どんな顔をするんだろう」
写真の中の彼を眺めながら、どんどん想像を膨らませていくひまり。
そして、叶うはずのない願いを口にします。
「夢でもいいから……会ってみたい」
ところが、その夜。
写真が不思議な光を放ち――。
気を失ったひまりが目を覚ますと、そこは昭和十九年。
そして目の前には――。
「大丈夫か?」
写真の中の青年、如月健一が立っていました。
「…………え?」
「どうした?」
「……健一さん?」
「なぜ、俺の名前を知っている?」
こうして始まった、80年の時を越えた二人の恋。
現代の女子高生と、戦時中を生きる海軍兵学校の青年。
スマートフォンも、コンビニも、SNSも知らない健一。
そして、昭和の生活や戦時下の常識をまったく知らないひまり。
二人が一緒にいるだけで、毎日が大騒ぎ。
笑ったり、喧嘩したり、嫉妬したり。
時には胸が締めつけられるほど切ない時間を過ごしながら、二人は少しずつ本当の恋を知っていきます。
しかし――。
二人の間には、決して越えることのできない「時代」という壁がありました。
そして健一は、戦艦大和へ。
「必ず帰ってくる」
「待ってる。絶対に待ってるから」
二人は未来を約束します。
けれど――。
戦争という大きな運命が、二人を引き離してしまいます。
それでも、ひまりの恋は終わりません。
80年の時を越えて、もう一度――。
大好きな人に会うために。
これは、写真から始まった恋が、時代を越えて奇跡を起こす物語。
笑えて、キュンとして、時々泣ける。
そして最後には、きっと笑顔になれる。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
どうぞ、ひまりと健一の80年越しの恋を――最後まで見届けてください。
第23話 「大和に乗った健一くん」――離れていても、心は一緒
「……行っちゃった」
健一を乗せた戦艦大和が、ゆっくりと港を離れていく。
ひまりは海岸に立ったまま、その姿を見つめていた。
「健一くん……」
どんどん小さくなっていく艦影。
「絶対、帰ってきてね」
そう呟いて、胸元に手を当てる。
そこには――。
健一からもらった軍服のボタン。
「……これがあるから、大丈夫」
自分に言い聞かせるように、ひまりは笑った。
---
数日後。
ひまりの元に、一通の手紙が届いた。
「……!」
封筒を見た瞬間、ひまりの顔が明るくなる。
差出人は――。
如月健一。
「健一くんから!」
ひまりは急いで部屋へ戻った。
そして、封筒を開く。
『ひまりへ。
無事に大和へ乗艦した。
艦は想像していた以上に大きく、初めて見たときは俺も驚いた。
今はまだ慣れないことも多いが、仲間たちと過ごしている。
ひまりは元気にしているだろうか。
食事はちゃんと食べているか?
無理をしていないか?
俺がいないからといって、寂しがって泣いていないだろうな。
――健一』
「……」
ひまりは手紙を胸に抱いた。
「泣いてないもん」
そう言いながら――。
目には涙が浮かんでいる。
「……ちょっとしか」
---
ひまりはすぐに返事を書いた。
『健一くんへ。
ちゃんとご飯食べてます!
でも、ちょっと寂しいです。
健一くんがいないと、家の中が静かすぎます。
それから――。
大和ってどんなところですか?
今度、詳しく教えてください。
あと、私が渡した四つ葉のクローバー、ちゃんと持ってますか?
ちゃんと持っていてくださいね。
帰ってきたら、一緒に海を見に行きましょう。
約束です。
ひまりより』
書き終えたひまりは、手紙を何度も読み返した。
「……これでいいかな」
そして封筒に入れる。
「早く届きますように」
---
一方。
戦艦大和。
健一は甲板に立っていた。
広大な海。
どこまでも続く水平線。
「……」
懐から、ひまりから届いた手紙を取り出す。
「また読んでるのか?」
同期の一人が声をかける。
「……ああ」
「好きだなぁ、お前」
「うるさい」
「何が書いてあるんだ?」
「見せない」
「ケチだな」
健一は笑う。
そして手紙を大切にしまった。
「……帰ったら、一緒に海を見る約束をした」
「そうか」
「だから、帰らないとな」
その言葉に、同期は一瞬黙った。
「……ああ」
---
その夜。
ひまりは縁側で星を見ていた。
「……健一くんも見てるかな」
同じ空の下。
同じ星。
遠く離れていても――。
空だけは繋がっている。
ひまりは小指を立てる。
「約束だからね」
そのとき――。
「ひまり」
「……!」
祖母の声。
「こんなところで何してるの?」
「星を見てるの」
「そう」
祖母はひまりの隣に座った。
「誰かを待ってるみたいね」
「……!」
ひまりは顔を赤くする。
「そ、そんなこと……」
「ふふ」
祖母は何も聞かなかった。
ただ、ひまりの頭を優しく撫でた。
---
数日後。
ひまりは再び手紙を書いていた。
今度は少し長い。
『健一くんへ。
今日は庭の花が咲きました。
一緒に見たかったな。
それから、今日は昔の写真を見ていました。
初めて健一くんを写真で見た日のことを思い出しました。
あのときは、まさか本当に会えるなんて思ってなかった。
ましてや――。
好きになるなんて。
人生って不思議ですね。
私は、健一くんに会えて本当によかったと思っています。
だから――。
ちゃんと帰ってきてください。
私は待っています。
ひまり』
書き終えたところで、ひまりは少し考えた。
「……」
そして最後に一行付け足した。
『大好きです。』
「……よし」
封筒に入れた。
---
しかし。
その頃、大和では――。
艦内に緊張した空気が流れていた。
健一は上官から新たな命令を受け取っていた。
「……」
書類に目を通す。
そこには、今までとは違う任務の内容が記されていた。
「……これが、戦争なんだな」
健一は静かに呟いた。
これまでの訓練とは違う。
これからは――。
実戦。
命の危険がある場所へ行く。
健一は胸元に手を入れた。
そこには、ひまりからもらった四つ葉のクローバー。
「……ひまり」
健一は小さく笑った。
「俺は帰る」
---
そして――。
ひまりのもとに、次の手紙が届くことはなかった。
一日。
二日。
三日。
「……」
ひまりは毎日、郵便を待った。
「今日こそ来るかな」
けれど――。
届かない。
「……健一くん」
ひまりは不安になっていく。
まだ知らない。
戦艦大和が、これからどこへ向かうのか。
そして――。
健一との手紙が途絶えた理由を。
――第23話・終――
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
――あとがき――
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』はいかがでしたでしょうか?
この物語は、令和を生きる16歳の女子高生・五十嵐ひまりが、古いアルバムの中に写っていた青年・如月健一に一目惚れするところから始まりました。
「写真の中の人に恋をする」
普通なら、絶対に叶わない恋です。
けれど、ひまりの「会いたい」という強い想いが時を越え、二人は昭和十九年で出会います。
最初は、現代っ子のひまりと、真面目で少し不器用な健一。
時代も違えば、生活も価値観も違う二人でした。
それでも、一緒に過ごす時間が増えるにつれて、少しずつ惹かれ合い、恋人になっていきました。
二人の恋を描くうえで大切にしたかったのは、戦争そのものではなく、その時代の中でも誰かを好きになり、笑い、未来を夢見た若者たちの気持ちです。
健一にも、ひまりと一緒に過ごしたい未来がありました。
ひまりにも、健一と一緒に見たい未来がありました。
「また海を見よう」
「必ず帰る」
そんな普通の約束が、戦争によってどれほど大切なものだったのか。
だからこそ、二人が離ればなれになる場面は、物語の中でも特に大切にしました。
そして最後は――。
80年前には叶わなかった二人の約束を、令和の時代でもう一度。
健一の生まれ変わりとひまりが再会することで、二人の恋にもう一度、未来を与えました。
80年前にできなかったこと。
一緒に映画を見ること。
令和の街を歩くこと。
スマートフォンを見ること。
そして、何より――。
誰にも引き裂かれることなく、好きな人の隣にいること。
今度こそ、二人にはそんな普通の幸せを手にしてほしい。
そんな願いを込めています。
もし、物語を読み終えたあとに、
「ひまりと健一、この先どうなるんだろう?」
「令和で二人はどんな恋愛をするんだろう?」
そんなふうに想像していただけたなら、とても嬉しいです。
写真の中の一人の青年に一目惚れした少女。
そして、80年という長い時間を越えて、もう一度巡り合った二人。
恋は、時代が変わっても消えない。
そんな奇跡を、二人から感じてもらえたら嬉しいです。
最後まで、ひまりと健一の恋に付き合ってくださり、本当にありがとうございました。
またどこかで、二人に会える日が来るかもしれません。
そのときはきっと――。
「健一くん、令和へようこそ!」
「……ひまり。まずはスマートフォンの使い方を教えてくれ」
「そこから!?」
そんな二人の声が聞こえてきそうです。
それでは――。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
これにて、二人の最初の物語は幕を閉じます。
最後まで読んでくださったあなたへ。
本当に、ありがとうございました。




