第21話 卒業の日――「健一くん、かっこいい……!」
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
――まえがき――
もし、あなたが古い写真の中にいる青年に――
一目惚れしてしまったら、どうしますか?
しかも、その青年が生きていたのは、今から80年も前。
名前しか知らない。
どんな声なのかも、どんな性格なのかも分からない。
もう二度と会うことなんてできない。
……普通なら、そう思いますよね。
16歳の女子高生、五十嵐ひまりも、最初はそう思っていました。
夏休み。
母親の実家で偶然見つけた、古いアルバム。
そこに写っていたのは、昭和十九年の海軍兵学校の学生たち。
その中にいた、一人の青年――如月健一、18歳。
ひまりは、写真を見た瞬間に恋をしてしまいます。
「……かっこいい」
「どんな人だったんだろう」
「どんな声で話すのかな」
「笑ったら、どんな顔をするんだろう」
写真の中の彼を眺めながら、どんどん想像を膨らませていくひまり。
そして、叶うはずのない願いを口にします。
「夢でもいいから……会ってみたい」
ところが、その夜。
写真が不思議な光を放ち――。
気を失ったひまりが目を覚ますと、そこは昭和十九年。
そして目の前には――。
「大丈夫か?」
写真の中の青年、如月健一が立っていました。
「…………え?」
「どうした?」
「……健一さん?」
「なぜ、俺の名前を知っている?」
こうして始まった、80年の時を越えた二人の恋。
現代の女子高生と、戦時中を生きる海軍兵学校の青年。
スマートフォンも、コンビニも、SNSも知らない健一。
そして、昭和の生活や戦時下の常識をまったく知らないひまり。
二人が一緒にいるだけで、毎日が大騒ぎ。
笑ったり、喧嘩したり、嫉妬したり。
時には胸が締めつけられるほど切ない時間を過ごしながら、二人は少しずつ本当の恋を知っていきます。
しかし――。
二人の間には、決して越えることのできない「時代」という壁がありました。
そして健一は、戦艦大和へ。
「必ず帰ってくる」
「待ってる。絶対に待ってるから」
二人は未来を約束します。
けれど――。
戦争という大きな運命が、二人を引き離してしまいます。
それでも、ひまりの恋は終わりません。
80年の時を越えて、もう一度――。
大好きな人に会うために。
これは、写真から始まった恋が、時代を越えて奇跡を起こす物語。
笑えて、キュンとして、時々泣ける。
そして最後には、きっと笑顔になれる。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
どうぞ、ひまりと健一の80年越しの恋を――最後まで見届けてください。
第21話 卒業の日――「健一くん、かっこいい……!」
朝。
いつもより早く目が覚めたひまりは、鏡の前で何度も髪を整えていた。
「……よし」
今日は、健一の大切な日。
海軍兵学校の卒業式。
「なんか、私まで緊張する……」
ひまりは胸元を押さえる。
健一と出会ってから、いろいろなことがあった。
最初は、写真の中の青年だった。
それが今では――。
自分にとって、かけがえのない恋人になっている。
「今日はちゃんと笑って、お祝いしよう」
そう自分に言い聞かせた。
---
やがて、式の時間が近づいた。
ひまりは少し離れた場所から、健一たちの姿を見ていた。
海軍兵学校の制服。
整然と並ぶ学生たち。
その中に――。
「……健一くん」
ひまりの胸が高鳴る。
いつもの健一とは違う。
背筋を伸ばし、凛とした表情で立っている。
「かっこいい……」
思わず呟いた。
すると隣にいた同期生が笑う。
「ひまりさん、ずっと見てるな」
「えっ!?」
「顔に出てるぞ」
「だって……」
ひまりは慌てて顔を隠す。
「今日の健一くん、いつもよりかっこいいんだもん」
「本人に言ってやればいい」
「無理です!」
---
卒業式が終わる。
健一がこちらへ歩いてきた。
「待たせたな」
「健一くん!」
ひまりは笑顔で駆け寄る。
「卒業、おめでとう!」
「ああ。ありがとう」
「本当におめでとうございます!」
ひまりは嬉しそうに拍手する。
「これで立派な海軍士官ですね」
「まだこれからだ」
「でも、すごいです」
ひまりは健一を見上げる。
「ずっと頑張ってたもんね」
「ああ」
健一は少し照れたように笑った。
「君にも色々と支えてもらった」
「私、何もしてないですよ」
「そんなことはない」
「……」
「君がいてくれたから頑張れた」
「……!」
ひまりの顔が赤くなる。
「そういうの……」
「ん?」
「急に言わないでください……」
「本当のことだ」
「もう……」
---
その日の午後。
二人は二人だけで過ごしていた。
「そういえば」
ひまりが思い出す。
「健一くんから預かってたもの」
「ああ」
ひまりは大切に保管していた封筒を取り出した。
「今日、開けていいんですよね?」
「もちろん」
「何が入ってるのかな……」
ひまりは封を開ける。
中に入っていたのは、一枚の小さな紙だった。
そこには健一の字で――。
『ひまりへ
卒業したら、今までより会える時間が少なくなると思う。
それでも、俺は君との時間を大切にしたい。
いつか君が元の時代へ帰る日が来ても、俺は君を忘れない。
そして、もしまた会える日があるなら――その日まで待っている。
如月健一』
「……」
ひまりは何度も読み返した。
そして――。
「……もう」
涙が落ちた。
「泣くな」
健一が優しく言う。
「だって……」
ひまりは手紙を胸に抱く。
「健一くん、ずるい……」
「何が?」
「こんなの……一生大事にするしかないじゃないですか」
健一は微笑んだ。
「そうしてくれ」
---
夕方。
二人は海辺へ向かった。
以前、約束した場所。
「卒業したら、海を見ようって言ってましたよね」
「ああ」
「ちゃんと覚えてたんだ」
「忘れるわけがない」
二人は並んで座る。
夕日が海を赤く染めていく。
「……綺麗」
「ああ」
「健一くん」
「何だ?」
「これから、どうするんですか?」
「まずは配属先が決まる」
「どこになるんだろう」
「俺にもまだ分からない」
「遠いところだったら嫌だな」
「……」
健一はひまりを見る。
「離れていても、会いに行く」
「本当?」
「ああ」
「約束?」
「約束だ」
ひまりは小指を差し出す。
健一も小指を絡める。
「また約束が増えましたね」
「そうだな」
「私たち、約束ばっかり」
「それだけ、約束したいことが多いんだろう」
「……ふふっ」
ひまりは笑った。
---
そのとき。
遠くから汽笛が聞こえた。
「……」
ひまりの表情が固まる。
「どうした?」
「……あの音」
「汽笛か?」
「はい」
ひまりの脳裏に、あの夢が蘇る。
暗い海。
大きな船。
そして――。
『ひまり!』
「……」
「ひまり?」
「何でもない」
ひまりは笑おうとした。
「ただ、少し怖くなっただけ」
健一はひまりの手を握った。
「大丈夫だ」
「……」
「俺がいる」
「……はい」
ひまりは握り返した。
---
その夜。
健一のもとに、一通の書類が届いた。
「……」
健一は書類を開く。
そこには――。
新たな配属先が記されていた。
そして、さらにその先には。
大きな艦。
海軍の主力艦艇。
健一は静かに書類を見つめる。
「……」
ひまりには、まだ話していない。
その艦の名を――。
『戦艦大和』
そして。
その名前を知らないひまりは、部屋で健一からもらった手紙を何度も読み返していた。
「……ずっと待ってる」
小さく呟く。
「私も、健一くんを待ってるから」
二人はまだ知らなかった。
この卒業の日が――。
二人の恋が「学生同士」から「軍人と恋人」へ変わる、大きな分岐点だったことを。
そして。
健一がこれから乗ることになる戦艦の名前が――。
ひまりが見た「あの夢」と、深くつながっていることを。
――第21話・終――
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
――あとがき――
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』はいかがでしたでしょうか?
この物語は、令和を生きる16歳の女子高生・五十嵐ひまりが、古いアルバムの中に写っていた青年・如月健一に一目惚れするところから始まりました。
「写真の中の人に恋をする」
普通なら、絶対に叶わない恋です。
けれど、ひまりの「会いたい」という強い想いが時を越え、二人は昭和十九年で出会います。
最初は、現代っ子のひまりと、真面目で少し不器用な健一。
時代も違えば、生活も価値観も違う二人でした。
それでも、一緒に過ごす時間が増えるにつれて、少しずつ惹かれ合い、恋人になっていきました。
二人の恋を描くうえで大切にしたかったのは、戦争そのものではなく、その時代の中でも誰かを好きになり、笑い、未来を夢見た若者たちの気持ちです。
健一にも、ひまりと一緒に過ごしたい未来がありました。
ひまりにも、健一と一緒に見たい未来がありました。
「また海を見よう」
「必ず帰る」
そんな普通の約束が、戦争によってどれほど大切なものだったのか。
だからこそ、二人が離ればなれになる場面は、物語の中でも特に大切にしました。
そして最後は――。
80年前には叶わなかった二人の約束を、令和の時代でもう一度。
健一の生まれ変わりとひまりが再会することで、二人の恋にもう一度、未来を与えました。
80年前にできなかったこと。
一緒に映画を見ること。
令和の街を歩くこと。
スマートフォンを見ること。
そして、何より――。
誰にも引き裂かれることなく、好きな人の隣にいること。
今度こそ、二人にはそんな普通の幸せを手にしてほしい。
そんな願いを込めています。
もし、物語を読み終えたあとに、
「ひまりと健一、この先どうなるんだろう?」
「令和で二人はどんな恋愛をするんだろう?」
そんなふうに想像していただけたなら、とても嬉しいです。
写真の中の一人の青年に一目惚れした少女。
そして、80年という長い時間を越えて、もう一度巡り合った二人。
恋は、時代が変わっても消えない。
そんな奇跡を、二人から感じてもらえたら嬉しいです。
最後まで、ひまりと健一の恋に付き合ってくださり、本当にありがとうございました。
またどこかで、二人に会える日が来るかもしれません。
そのときはきっと――。
「健一くん、令和へようこそ!」
「……ひまり。まずはスマートフォンの使い方を教えてくれ」
「そこから!?」
そんな二人の声が聞こえてきそうです。
それでは――。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
これにて、二人の最初の物語は幕を閉じます。
最後まで読んでくださったあなたへ。
本当に、ありがとうございました。




