第20話 卒業が近づいてる?「ずっと一緒って言ったのに……」
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
――まえがき――
もし、あなたが古い写真の中にいる青年に――
一目惚れしてしまったら、どうしますか?
しかも、その青年が生きていたのは、今から80年も前。
名前しか知らない。
どんな声なのかも、どんな性格なのかも分からない。
もう二度と会うことなんてできない。
……普通なら、そう思いますよね。
16歳の女子高生、五十嵐ひまりも、最初はそう思っていました。
夏休み。
母親の実家で偶然見つけた、古いアルバム。
そこに写っていたのは、昭和十九年の海軍兵学校の学生たち。
その中にいた、一人の青年――如月健一、18歳。
ひまりは、写真を見た瞬間に恋をしてしまいます。
「……かっこいい」
「どんな人だったんだろう」
「どんな声で話すのかな」
「笑ったら、どんな顔をするんだろう」
写真の中の彼を眺めながら、どんどん想像を膨らませていくひまり。
そして、叶うはずのない願いを口にします。
「夢でもいいから……会ってみたい」
ところが、その夜。
写真が不思議な光を放ち――。
気を失ったひまりが目を覚ますと、そこは昭和十九年。
そして目の前には――。
「大丈夫か?」
写真の中の青年、如月健一が立っていました。
「…………え?」
「どうした?」
「……健一さん?」
「なぜ、俺の名前を知っている?」
こうして始まった、80年の時を越えた二人の恋。
現代の女子高生と、戦時中を生きる海軍兵学校の青年。
スマートフォンも、コンビニも、SNSも知らない健一。
そして、昭和の生活や戦時下の常識をまったく知らないひまり。
二人が一緒にいるだけで、毎日が大騒ぎ。
笑ったり、喧嘩したり、嫉妬したり。
時には胸が締めつけられるほど切ない時間を過ごしながら、二人は少しずつ本当の恋を知っていきます。
しかし――。
二人の間には、決して越えることのできない「時代」という壁がありました。
そして健一は、戦艦大和へ。
「必ず帰ってくる」
「待ってる。絶対に待ってるから」
二人は未来を約束します。
けれど――。
戦争という大きな運命が、二人を引き離してしまいます。
それでも、ひまりの恋は終わりません。
80年の時を越えて、もう一度――。
大好きな人に会うために。
これは、写真から始まった恋が、時代を越えて奇跡を起こす物語。
笑えて、キュンとして、時々泣ける。
そして最後には、きっと笑顔になれる。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
どうぞ、ひまりと健一の80年越しの恋を――最後まで見届けてください。
第20話 卒業が近づいてる?「ずっと一緒って言ったのに……」
「……卒業?」
ひまりは、思わず聞き返した。
「そうだ」
健一は静かに答える。
「海軍兵学校の卒業が近づいている」
「……」
ひまりの手から、さっきまで持っていた湯呑みが滑りそうになった。
「もう……そんな時期なんですか?」
「ああ」
「でも……」
ひまりはカレンダーを見る。
自分がこの時代に来てから、かなりの時間が経っていた。
最初は何も分からず、帰る方法ばかり探していた。
けれど今は――。
健一と一緒にいる毎日が、当たり前になっていた。
「……卒業したら?」
「配属される」
「どこに?」
「まだ決まっていない」
「船に乗るんですか?」
「おそらくな」
「……」
胸の奥が、ズキッと痛んだ。
---
「ひまり?」
「……何でもないです」
ひまりは笑おうとした。
「卒業、おめでとうって言わないとですね」
「まだ卒業していない」
「でも、もうすぐでしょ?」
「ああ」
「……」
ひまりは俯いた。
「私……」
「ん?」
「健一くんが学校を卒業したら、今みたいに会えなくなるのかな」
健一は黙った。
「……そうなるかもしれない」
「……」
その一言が、ひまりの胸に突き刺さった。
「そっか……」
---
その日の午後。
ひまりは一人で庭にいた。
「……嫌だな」
今までは、朝になれば健一がいた。
一緒にご飯を食べて。
くだらない話をして。
時々喧嘩して。
そして仲直りして。
そんな毎日が続いていた。
でも――。
卒業すれば、健一は軍人になる。
「……分かってたことなのに」
ひまりは膝を抱えた。
自分は未来の人間。
健一は80年前の人。
最初から、普通の恋ではなかった。
「……それでも好きになっちゃったんだもん」
涙が一粒落ちた。
---
「ひまり」
「……!」
振り返ると健一が立っていた。
「こんなところにいたのか」
「……はい」
「どうした?」
「何でもありません」
「また嘘をついている」
「……」
健一が隣に座る。
「話してくれ」
「……」
ひまりはしばらく黙っていた。
そして――。
「卒業したら、私のこと忘れませんか?」
健一が目を見開いた。
「……なぜそんなことを言う?」
「だって……」
ひまりは涙を拭う。
「健一くんは軍人になるんでしょう?」
「ああ」
「忙しくなるし、遠くに行くし……」
「……」
「新しい人に出会うかもしれない」
「ひまり」
「私は令和に帰らないといけないし」
「……」
「だから……」
ひまりは笑った。
「そのうち、私のことなんて忘れちゃうのかなって」
健一はしばらく黙っていた。
そして――。
「ひまり」
「はい……」
「俺は、君を忘れない」
「……」
「何年経っても」
「……本当に?」
「ああ」
「でも……」
「俺は君に出会ってから、毎日が変わった」
健一はひまりを見る。
「君と過ごした時間を忘れることなんてできない」
「……健一くん」
「だから、そんな顔をするな」
健一がひまりの頭に、そっと手を置いた。
「俺は約束しただろう」
「……何を?」
「君を一人にしない」
「……」
「たとえ離れていても」
ひまりの目から涙が溢れた。
「……ずるい」
「何が?」
「そんなこと言われたら……」
ひまりは健一の胸元に顔を埋めた。
「もっと好きになっちゃう」
健一の腕が、そっとひまりの背中に回る。
「……それなら」
「……?」
「俺も、もっと好きになる」
「……!」
ひまりは顔を上げた。
健一の顔も赤くなっている。
「健一くん……」
「何だ?」
「今の、もう一回言って」
「言わない」
「えー!」
「恥ずかしい」
「聞きたい!」
「駄目だ」
「ケチ!」
二人は顔を見合わせて笑った。
---
数日後。
健一の卒業に向けた準備が本格的に始まった。
制服を整え。
荷物を整理し。
同期生たちと話をする。
ひまりも手伝っていた。
「この本、持っていきます?」
「ああ」
「これも?」
「それは置いていく」
「じゃあ、これは?」
「……それも必要だ」
「健一くん、荷物多すぎ!」
「君が何でも持たせようとするからだ」
「だって心配なんだもん」
健一が笑う。
「本当に心配性だな」
「恋人ですから」
「……そうだったな」
二人は笑った。
---
その夜。
健一はひまりに小さな封筒を渡した。
「これを」
「何?」
「まだ開けるな」
「え?」
「卒業の日に開けてくれ」
ひまりは封筒を受け取った。
「……何が入ってるの?」
「秘密だ」
「教えてください!」
「駄目だ」
「気になる!」
「卒業まで待て」
「……分かりました」
ひまりは封筒を胸に抱えた。
「絶対、なくさない」
「ああ」
「約束ですよ?」
「約束だ」
---
そして――。
卒業の日が、近づいていた。
ひまりは知らない。
その卒業が、健一との関係を大きく変える日になることを。
そして健一もまだ知らなかった。
自分の進む先に待っているものが――。
ひまりとの「来年」という約束を、少しずつ遠ざけていくことを。
――第20話・終――
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
――あとがき――
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』はいかがでしたでしょうか?
この物語は、令和を生きる16歳の女子高生・五十嵐ひまりが、古いアルバムの中に写っていた青年・如月健一に一目惚れするところから始まりました。
「写真の中の人に恋をする」
普通なら、絶対に叶わない恋です。
けれど、ひまりの「会いたい」という強い想いが時を越え、二人は昭和十九年で出会います。
最初は、現代っ子のひまりと、真面目で少し不器用な健一。
時代も違えば、生活も価値観も違う二人でした。
それでも、一緒に過ごす時間が増えるにつれて、少しずつ惹かれ合い、恋人になっていきました。
二人の恋を描くうえで大切にしたかったのは、戦争そのものではなく、その時代の中でも誰かを好きになり、笑い、未来を夢見た若者たちの気持ちです。
健一にも、ひまりと一緒に過ごしたい未来がありました。
ひまりにも、健一と一緒に見たい未来がありました。
「また海を見よう」
「必ず帰る」
そんな普通の約束が、戦争によってどれほど大切なものだったのか。
だからこそ、二人が離ればなれになる場面は、物語の中でも特に大切にしました。
そして最後は――。
80年前には叶わなかった二人の約束を、令和の時代でもう一度。
健一の生まれ変わりとひまりが再会することで、二人の恋にもう一度、未来を与えました。
80年前にできなかったこと。
一緒に映画を見ること。
令和の街を歩くこと。
スマートフォンを見ること。
そして、何より――。
誰にも引き裂かれることなく、好きな人の隣にいること。
今度こそ、二人にはそんな普通の幸せを手にしてほしい。
そんな願いを込めています。
もし、物語を読み終えたあとに、
「ひまりと健一、この先どうなるんだろう?」
「令和で二人はどんな恋愛をするんだろう?」
そんなふうに想像していただけたなら、とても嬉しいです。
写真の中の一人の青年に一目惚れした少女。
そして、80年という長い時間を越えて、もう一度巡り合った二人。
恋は、時代が変わっても消えない。
そんな奇跡を、二人から感じてもらえたら嬉しいです。
最後まで、ひまりと健一の恋に付き合ってくださり、本当にありがとうございました。
またどこかで、二人に会える日が来るかもしれません。
そのときはきっと――。
「健一くん、令和へようこそ!」
「……ひまり。まずはスマートフォンの使い方を教えてくれ」
「そこから!?」
そんな二人の声が聞こえてきそうです。
それでは――。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
これにて、二人の最初の物語は幕を閉じます。
最後まで読んでくださったあなたへ。
本当に、ありがとうございました。




