第19話 文化祭なんてない!? それなら私が作ります!
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
――まえがき――
もし、あなたが古い写真の中にいる青年に――
一目惚れしてしまったら、どうしますか?
しかも、その青年が生きていたのは、今から80年も前。
名前しか知らない。
どんな声なのかも、どんな性格なのかも分からない。
もう二度と会うことなんてできない。
……普通なら、そう思いますよね。
16歳の女子高生、五十嵐ひまりも、最初はそう思っていました。
夏休み。
母親の実家で偶然見つけた、古いアルバム。
そこに写っていたのは、昭和十九年の海軍兵学校の学生たち。
その中にいた、一人の青年――如月健一、18歳。
ひまりは、写真を見た瞬間に恋をしてしまいます。
「……かっこいい」
「どんな人だったんだろう」
「どんな声で話すのかな」
「笑ったら、どんな顔をするんだろう」
写真の中の彼を眺めながら、どんどん想像を膨らませていくひまり。
そして、叶うはずのない願いを口にします。
「夢でもいいから……会ってみたい」
ところが、その夜。
写真が不思議な光を放ち――。
気を失ったひまりが目を覚ますと、そこは昭和十九年。
そして目の前には――。
「大丈夫か?」
写真の中の青年、如月健一が立っていました。
「…………え?」
「どうした?」
「……健一さん?」
「なぜ、俺の名前を知っている?」
こうして始まった、80年の時を越えた二人の恋。
現代の女子高生と、戦時中を生きる海軍兵学校の青年。
スマートフォンも、コンビニも、SNSも知らない健一。
そして、昭和の生活や戦時下の常識をまったく知らないひまり。
二人が一緒にいるだけで、毎日が大騒ぎ。
笑ったり、喧嘩したり、嫉妬したり。
時には胸が締めつけられるほど切ない時間を過ごしながら、二人は少しずつ本当の恋を知っていきます。
しかし――。
二人の間には、決して越えることのできない「時代」という壁がありました。
そして健一は、戦艦大和へ。
「必ず帰ってくる」
「待ってる。絶対に待ってるから」
二人は未来を約束します。
けれど――。
戦争という大きな運命が、二人を引き離してしまいます。
それでも、ひまりの恋は終わりません。
80年の時を越えて、もう一度――。
大好きな人に会うために。
これは、写真から始まった恋が、時代を越えて奇跡を起こす物語。
笑えて、キュンとして、時々泣ける。
そして最後には、きっと笑顔になれる。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
どうぞ、ひまりと健一の80年越しの恋を――最後まで見届けてください。
第19話 文化祭なんてない!? それなら私が作ります!
「……つまらない」
昼下がり。
ひまりは縁側に寝転がっていた。
「暇だぁ……」
「またそれか」
向かいに座っていた健一が笑う。
「だって健一くん、最近ずっと勉強と訓練ばっかりなんだもん」
「学生だからな」
「私だって高校生ですよ?」
「そうだったな」
「なのに……」
ひまりは頬を膨らませる。
「令和の高校なら、もっと楽しいイベントがいっぱいあるのに」
「例えば?」
「文化祭とか!」
「文化祭?」
「はい!」
ひまりは勢いよく起き上がった。
「クラスのみんなで出し物を考えて、食べ物を売ったり、劇をしたりするんです」
「学校で食べ物を売るのか?」
「そう!」
「変わった行事だな」
「楽しいんですよ」
ひまりは楽しそうに話す。
「好きな人と一緒に回ったり……」
そこで、ひまりが健一を見る。
「……」
健一もひまりを見る。
「……私たちもやってみません?」
「文化祭を?」
「はい!」
「ここで?」
「ここで!」
健一は少し考えた。
「……無理だろう」
「どうして?」
「兵学校だぞ?」
「あ……」
ひまりは周囲を見る。
厳格な海軍兵学校。
確かに文化祭をやる雰囲気ではない。
「……じゃあ」
ひまりは少し考える。
「二人だけの文化祭!」
「……」
健一が苦笑する。
「どうやって?」
「私が作ります!」
---
数時間後。
「できた!」
ひまりは庭の一角に小さな机を置いた。
その上には――。
お茶。
簡単なお菓子。
そして、紙に書かれた看板。
『ひまり&健一 秘密の文化祭』
健一は看板を見て固まった。
「……」
「どうですか?」
「……字が大きいな」
「そこ!?」
「それに、『秘密』なのに看板を出している」
「……」
ひまりは看板を見る。
「……確かに」
二人で顔を見合わせる。
そして――。
「ふふっ」
「ははは」
二人は笑った。
---
「では、第一回!」
ひまりが宣言する。
「ひまり&健一の秘密の文化祭、開催です!」
「何をする?」
「まずは喫茶店!」
「喫茶店?」
「はい!」
ひまりはお茶を健一の前に置く。
「いらっしゃいませ!」
「……」
健一は真面目な顔でひまりを見る。
「注文していいか?」
「もちろん!」
「お茶を」
「かしこまりました!」
ひまりはお茶を出す。
「どうぞ!」
「ありがとう」
健一がお茶を飲む。
「……うまい」
「本当?」
「ああ」
「じゃあ、次は私がお客さん!」
ひまりが健一の前に座る。
「いらっしゃいませ」
健一が言った。
「何を注文しますか?」
ひまりは笑う。
「健一くん特製のお茶!」
「……俺が?」
「はい!」
健一は困りながらも、お茶を淹れた。
「どうぞ」
「いただきます」
ひまりが飲む。
「……美味しい!」
「そうか」
「健一くん、喫茶店向いてるかも」
「そうか?」
「店員さんがかっこいいから繁盛します」
「……」
健一が少し照れる。
「そういうことを平気で言うな」
「だって本当だもん」
---
次は――。
「ゲーム大会!」
「何をするんだ?」
「じゃんけん!」
「じゃんけん?」
「知りません?」
「ああ」
ひまりはルールを教えた。
「最初はグー!」
「最初は……グー」
「じゃんけん!」
「……」
健一はパー。
ひまりはグー。
「私の負け!」
「勝ったな」
「もう一回!」
「いいぞ」
二回目。
ひまりはチョキ。
健一はパー。
「やった!」
「……」
「健一くん、弱い!」
「君が強いだけだ」
「じゃあ三回勝負!」
「望むところだ」
何度もじゃんけんをする二人。
いつの間にか、二人とも子供のように笑っていた。
---
「最後は――」
ひまりが言った。
「記念写真!」
「写真?」
「はい!」
ひまりは一瞬寂しそうな顔をする。
スマートフォンがない。
写真機もない。
「……撮れないけど」
「なら、描けばいい」
「え?」
健一が紙と鉛筆を取り出した。
「絵なら残せる」
「健一くん、絵を描けるの?」
「少しなら」
健一は二人の姿を描き始めた。
ひまりは横から覗き込む。
「わぁ……」
そこには、縁側に並んで座る二人が描かれていた。
「すごい!」
「そうでもない」
「上手ですよ!」
ひまりは嬉しそうに絵を眺めた。
「これ、もらっていい?」
「ああ」
「宝物にします」
「……そんなにか?」
「はい」
ひまりは絵を大切にしまった。
---
日が沈み始める。
「楽しかったですね」
「ああ」
「文化祭、大成功!」
「二人しかいないがな」
「いいんです!」
ひまりは笑った。
「二人だからこそ楽しいんです」
「……そうだな」
健一はひまりを見る。
「ひまり」
「はい?」
「今日みたいな日が、ずっと続けばいいな」
「……」
ひまりの笑顔が少しだけ止まった。
「……はい」
でも、胸の奥には小さな不安があった。
最近、健一は以前より訓練が増えている。
周囲の兵学校生たちの会話にも、「卒業」「配属」「艦」という言葉が増えてきた。
そして――。
戦争は、確実に二人のすぐそばまで来ている。
「健一くん」
「何だ?」
「来年も……文化祭しましょうね」
健一は少し驚いた。
「来年?」
「はい」
ひまりは笑った。
「また二人で」
健一はひまりの目を見る。
そして――。
「ああ」
静かに頷いた。
「来年もやろう」
「約束ですよ」
「ああ。約束だ」
ひまりは嬉しそうに笑った。
二人は知らない。
その「来年」という未来が――。
二人にとって、簡単な約束ではなくなることを。
――第19話・終――
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
――あとがき――
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』はいかがでしたでしょうか?
この物語は、令和を生きる16歳の女子高生・五十嵐ひまりが、古いアルバムの中に写っていた青年・如月健一に一目惚れするところから始まりました。
「写真の中の人に恋をする」
普通なら、絶対に叶わない恋です。
けれど、ひまりの「会いたい」という強い想いが時を越え、二人は昭和十九年で出会います。
最初は、現代っ子のひまりと、真面目で少し不器用な健一。
時代も違えば、生活も価値観も違う二人でした。
それでも、一緒に過ごす時間が増えるにつれて、少しずつ惹かれ合い、恋人になっていきました。
二人の恋を描くうえで大切にしたかったのは、戦争そのものではなく、その時代の中でも誰かを好きになり、笑い、未来を夢見た若者たちの気持ちです。
健一にも、ひまりと一緒に過ごしたい未来がありました。
ひまりにも、健一と一緒に見たい未来がありました。
「また海を見よう」
「必ず帰る」
そんな普通の約束が、戦争によってどれほど大切なものだったのか。
だからこそ、二人が離ればなれになる場面は、物語の中でも特に大切にしました。
そして最後は――。
80年前には叶わなかった二人の約束を、令和の時代でもう一度。
健一の生まれ変わりとひまりが再会することで、二人の恋にもう一度、未来を与えました。
80年前にできなかったこと。
一緒に映画を見ること。
令和の街を歩くこと。
スマートフォンを見ること。
そして、何より――。
誰にも引き裂かれることなく、好きな人の隣にいること。
今度こそ、二人にはそんな普通の幸せを手にしてほしい。
そんな願いを込めています。
もし、物語を読み終えたあとに、
「ひまりと健一、この先どうなるんだろう?」
「令和で二人はどんな恋愛をするんだろう?」
そんなふうに想像していただけたなら、とても嬉しいです。
写真の中の一人の青年に一目惚れした少女。
そして、80年という長い時間を越えて、もう一度巡り合った二人。
恋は、時代が変わっても消えない。
そんな奇跡を、二人から感じてもらえたら嬉しいです。
最後まで、ひまりと健一の恋に付き合ってくださり、本当にありがとうございました。
またどこかで、二人に会える日が来るかもしれません。
そのときはきっと――。
「健一くん、令和へようこそ!」
「……ひまり。まずはスマートフォンの使い方を教えてくれ」
「そこから!?」
そんな二人の声が聞こえてきそうです。
それでは――。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
これにて、二人の最初の物語は幕を閉じます。
最後まで読んでくださったあなたへ。
本当に、ありがとうございました。




