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『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』  作者: 雨宮ぐみ


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18/30

第18話 「海軍兵学校を卒業したら、どうするの?」

『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』


――まえがき――


もし、あなたが古い写真の中にいる青年に――


一目惚れしてしまったら、どうしますか?


しかも、その青年が生きていたのは、今から80年も前。


名前しか知らない。


どんな声なのかも、どんな性格なのかも分からない。


もう二度と会うことなんてできない。


……普通なら、そう思いますよね。


16歳の女子高生、五十嵐ひまりも、最初はそう思っていました。


夏休み。


母親の実家で偶然見つけた、古いアルバム。


そこに写っていたのは、昭和十九年の海軍兵学校の学生たち。


その中にいた、一人の青年――如月健一、18歳。


ひまりは、写真を見た瞬間に恋をしてしまいます。


「……かっこいい」


「どんな人だったんだろう」


「どんな声で話すのかな」


「笑ったら、どんな顔をするんだろう」


写真の中の彼を眺めながら、どんどん想像を膨らませていくひまり。


そして、叶うはずのない願いを口にします。


「夢でもいいから……会ってみたい」


ところが、その夜。


写真が不思議な光を放ち――。


気を失ったひまりが目を覚ますと、そこは昭和十九年。


そして目の前には――。


「大丈夫か?」


写真の中の青年、如月健一が立っていました。


「…………え?」


「どうした?」


「……健一さん?」


「なぜ、俺の名前を知っている?」


こうして始まった、80年の時を越えた二人の恋。


現代の女子高生と、戦時中を生きる海軍兵学校の青年。


スマートフォンも、コンビニも、SNSも知らない健一。


そして、昭和の生活や戦時下の常識をまったく知らないひまり。


二人が一緒にいるだけで、毎日が大騒ぎ。


笑ったり、喧嘩したり、嫉妬したり。


時には胸が締めつけられるほど切ない時間を過ごしながら、二人は少しずつ本当の恋を知っていきます。


しかし――。


二人の間には、決して越えることのできない「時代」という壁がありました。


そして健一は、戦艦大和へ。


「必ず帰ってくる」


「待ってる。絶対に待ってるから」


二人は未来を約束します。


けれど――。


戦争という大きな運命が、二人を引き離してしまいます。


それでも、ひまりの恋は終わりません。


80年の時を越えて、もう一度――。


大好きな人に会うために。


これは、写真から始まった恋が、時代を越えて奇跡を起こす物語。


笑えて、キュンとして、時々泣ける。


そして最後には、きっと笑顔になれる。


『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』


どうぞ、ひまりと健一の80年越しの恋を――最後まで見届けてください。

第18話 「海軍兵学校を卒業したら、どうするの?」


「健一くん、これ見て!」


朝。


ひまりは庭から戻ってくるなり、健一の前に小さな紙を差し出した。


「何だ?」


「四つ葉のクローバー!」


「……」


健一は紙ではなく、ひまりの顔を見る。


「どこで見つけた?」


「庭です!」


「よく見つけたな」


「すごいでしょ?」


ひまりは得意げに胸を張る。


「四つ葉のクローバーって、幸運のお守りなんですよ」


「幸運?」


「はい。だから健一くんにあげます」


「俺に?」


「海上訓練もあるし、これからも大変そうだから」


ひまりは笑った。


「持っていてください」


健一は四つ葉を受け取る。


「……ありがとう」


「大事にしてくださいね」


「ああ」


健一は丁寧に紙を折り、制服の内ポケットへしまった。


「よし!」


ひまりは満足そうに笑った。


「これで安心!」


「何が?」


「健一くんに幸運がついたから」


「それなら心強いな」


二人は笑った。


しかし――。


ひまりには見えなかった。


健一が一瞬だけ、遠くを見るような表情をしたことを。



---


昼過ぎ。


二人は庭の縁側に座っていた。


「ねえ、健一くん」


「何だ?」


「海軍兵学校を卒業したら、どうするんですか?」


健一は少し考えた。


「まだ詳しくは決まっていない」


「でも、海軍士官になるんですよね?」


「ああ」


「じゃあ、卒業したら船に乗るの?」


「そうなるだろう」


「……」


ひまりの胸が、少しだけざわついた。


「大きな船?」


「ああ」


「戦艦とか?」


「場合によってはな」


「……」


ひまりは俯いた。


頭の中に、あの夢が蘇る。


暗い海。


大きな船。


自分を呼ぶ健一の声。


『ひまり!』


「……」


「どうした?」


「……ううん」


ひまりは笑った。


「何でもないです」


健一は、そんなひまりをじっと見つめた。


「また夢のことを考えているのか?」


「……」


図星だった。


「はい」


「まだ気になる?」


「少しだけ」


「ただの夢だ」


「分かってます」


ひまりは小さく笑った。


「でも、なんとなく怖いんです」


健一は黙った。


そして――。


「ひまり」


「はい?」


「俺は、君との約束を忘れていない」


「……」


「また海へ行こう」


「……!」


ひまりの顔が明るくなる。


「令和の海?」


「ああ」


「本当に連れていってくれる?」


「君が帰ることができたならな」


「……」


その言葉に、ひまりの胸が少し痛くなる。


帰れるかどうか。


まだ何も分からない。


でも――。


「帰ります」


ひまりは力強く言った。


「絶対、令和に帰ります」


「そうだな」


「そして!」


ひまりは健一の前に指を立てる。


「健一くんを連れていきます!」


「……俺を?」


「はい!」


「どうやって?」


「それは……」


ひまりは考え込む。


「タイムマシン?」


「そんなものがあるのか?」


「令和にもありません」


「……」


「じゃあ……」


ひまりは困った顔をする。


「頑張って一緒に帰る!」


「ずいぶん大雑把だな」


「いいんです!」


二人は笑った。



---


その日の夕方。


健一はひまりを連れて、兵学校の近くまで歩いた。


「ここから先は関係者以外、あまり入れない」


「分かりました」


ひまりは少し離れたところから建物を眺める。


「ここが……健一くんの学校」


「ああ」


「なんか、すごい」


「何が?」


「健一くんがここで勉強して、訓練して……」


ひまりは笑う。


「ここで健一くんが育ったんだなって思うと、不思議です」


「俺はここで何年も過ごしてきた」


「友達もいっぱい?」


「ああ」


「じゃあ、卒業したら寂しいですね」


「……そうだな」


健一は少し遠くを見た。


「同期と離れるのは寂しい」


「でも、また会えますよね?」


「もちろんだ」


健一はそう答えた。


けれど、その声には――。


ほんの少しだけ、寂しさが混じっていた。



---


「健一!」


遠くから声がした。


同期生がこちらへ歩いてくる。


「お前、こんなところにいたのか」


「ああ」


同期生はひまりを見る。


「また一緒にいるのか」


「……まあな」


「ずいぶん仲がいいな」


「そういう言い方をするな」


健一が少し照れる。


「ほう?」


同期生がニヤニヤする。


「顔が赤いぞ、如月」


「赤くない」


「赤い赤い」


「うるさい」


ひまりは思わず笑ってしまう。


「ふふっ」


「ひまりまで笑うな」


「だって健一くん、照れてるんだもん」


「君もだろう」


「え?」


「顔が赤い」


「……!」


ひまりは慌てて顔を隠した。


「もう!」


同期生は二人を見て笑った。


「お似合いだな」


「……」


健一は何も言わなかった。


ただ、ひまりの隣に立つ。


その距離は以前より近くなっていた。



---


その夜。


ひまりは部屋で、健一からもらったボタンを眺めていた。


「……」


そして、今日の会話を思い出す。


卒業。


海軍士官。


船。


戦艦。


「……嫌だ」


ひまりは小さく呟いた。


「健一くんが遠くへ行くの……」


恋人になったばかりなのに。


これからもっと一緒にいたいのに。


その願いとは逆に――。


健一の未来は、戦争へ向かって進んでいる。


ひまりは歴史を変えないと決めている。


だから、運命を変えることはできない。


それでも――。


「……私、健一くんと一緒にいたい」


涙が一粒、頬を伝った。



---


一方、その頃。


健一は一人、海を見ていた。


制服の内ポケットに手を入れる。


指先に触れたのは――。


ひまりからもらった四つ葉のクローバー。


「……幸運のお守りか」


健一は小さく笑った。


「ひまりらしいな」


そして、海を見る。


静かな夜の海。


しかし、その先には――。


これから自分が進むことになる、厳しい未来が待っている。


それでも今は。


「……もう一度、ひまりと海を見たい」


健一はそう願っていた。


その頃、ひまりも同じ月を見ていた。


二人は離れた場所にいながら――。


同じ夜空を見上げていた。


そして、二人の時間は少しずつ、卒業の日へ近づいていく。


――第18話・終――

『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』


――あとがき――


最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。


『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』はいかがでしたでしょうか?


この物語は、令和を生きる16歳の女子高生・五十嵐ひまりが、古いアルバムの中に写っていた青年・如月健一に一目惚れするところから始まりました。


「写真の中の人に恋をする」


普通なら、絶対に叶わない恋です。


けれど、ひまりの「会いたい」という強い想いが時を越え、二人は昭和十九年で出会います。


最初は、現代っ子のひまりと、真面目で少し不器用な健一。


時代も違えば、生活も価値観も違う二人でした。


それでも、一緒に過ごす時間が増えるにつれて、少しずつ惹かれ合い、恋人になっていきました。


二人の恋を描くうえで大切にしたかったのは、戦争そのものではなく、その時代の中でも誰かを好きになり、笑い、未来を夢見た若者たちの気持ちです。


健一にも、ひまりと一緒に過ごしたい未来がありました。


ひまりにも、健一と一緒に見たい未来がありました。


「また海を見よう」


「必ず帰る」


そんな普通の約束が、戦争によってどれほど大切なものだったのか。


だからこそ、二人が離ればなれになる場面は、物語の中でも特に大切にしました。


そして最後は――。


80年前には叶わなかった二人の約束を、令和の時代でもう一度。


健一の生まれ変わりとひまりが再会することで、二人の恋にもう一度、未来を与えました。


80年前にできなかったこと。


一緒に映画を見ること。


令和の街を歩くこと。


スマートフォンを見ること。


そして、何より――。


誰にも引き裂かれることなく、好きな人の隣にいること。


今度こそ、二人にはそんな普通の幸せを手にしてほしい。


そんな願いを込めています。


もし、物語を読み終えたあとに、


「ひまりと健一、この先どうなるんだろう?」


「令和で二人はどんな恋愛をするんだろう?」


そんなふうに想像していただけたなら、とても嬉しいです。


写真の中の一人の青年に一目惚れした少女。


そして、80年という長い時間を越えて、もう一度巡り合った二人。


恋は、時代が変わっても消えない。


そんな奇跡を、二人から感じてもらえたら嬉しいです。


最後まで、ひまりと健一の恋に付き合ってくださり、本当にありがとうございました。


またどこかで、二人に会える日が来るかもしれません。


そのときはきっと――。


「健一くん、令和へようこそ!」


「……ひまり。まずはスマートフォンの使い方を教えてくれ」


「そこから!?」


そんな二人の声が聞こえてきそうです。


それでは――。


『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』


これにて、二人の最初の物語は幕を閉じます。


最後まで読んでくださったあなたへ。


本当に、ありがとうございました。

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