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『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』  作者: 雨宮ぐみ


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17/30

第17話 帰ってきた彼と、秘密のデート

『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』


――まえがき――


もし、あなたが古い写真の中にいる青年に――


一目惚れしてしまったら、どうしますか?


しかも、その青年が生きていたのは、今から80年も前。


名前しか知らない。


どんな声なのかも、どんな性格なのかも分からない。


もう二度と会うことなんてできない。


……普通なら、そう思いますよね。


16歳の女子高生、五十嵐ひまりも、最初はそう思っていました。


夏休み。


母親の実家で偶然見つけた、古いアルバム。


そこに写っていたのは、昭和十九年の海軍兵学校の学生たち。


その中にいた、一人の青年――如月健一、18歳。


ひまりは、写真を見た瞬間に恋をしてしまいます。


「……かっこいい」


「どんな人だったんだろう」


「どんな声で話すのかな」


「笑ったら、どんな顔をするんだろう」


写真の中の彼を眺めながら、どんどん想像を膨らませていくひまり。


そして、叶うはずのない願いを口にします。


「夢でもいいから……会ってみたい」


ところが、その夜。


写真が不思議な光を放ち――。


気を失ったひまりが目を覚ますと、そこは昭和十九年。


そして目の前には――。


「大丈夫か?」


写真の中の青年、如月健一が立っていました。


「…………え?」


「どうした?」


「……健一さん?」


「なぜ、俺の名前を知っている?」


こうして始まった、80年の時を越えた二人の恋。


現代の女子高生と、戦時中を生きる海軍兵学校の青年。


スマートフォンも、コンビニも、SNSも知らない健一。


そして、昭和の生活や戦時下の常識をまったく知らないひまり。


二人が一緒にいるだけで、毎日が大騒ぎ。


笑ったり、喧嘩したり、嫉妬したり。


時には胸が締めつけられるほど切ない時間を過ごしながら、二人は少しずつ本当の恋を知っていきます。


しかし――。


二人の間には、決して越えることのできない「時代」という壁がありました。


そして健一は、戦艦大和へ。


「必ず帰ってくる」


「待ってる。絶対に待ってるから」


二人は未来を約束します。


けれど――。


戦争という大きな運命が、二人を引き離してしまいます。


それでも、ひまりの恋は終わりません。


80年の時を越えて、もう一度――。


大好きな人に会うために。


これは、写真から始まった恋が、時代を越えて奇跡を起こす物語。


笑えて、キュンとして、時々泣ける。


そして最後には、きっと笑顔になれる。


『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』


どうぞ、ひまりと健一の80年越しの恋を――最後まで見届けてください。

第17話 帰ってきた彼と、秘密のデート


「……遅いなぁ」


夕暮れの海を見ながら、ひまりは何度目か分からないため息をついた。


健一が海上訓練に出てから、数日。


「今日こそ帰ってくるって言ってたのに……」


ひまりは、髪に手をやる。


そこには、健一からもらった髪飾り。


「……約束したもんね」


健一は必ず帰ってくると言った。


だから、ひまりは信じて待っていた。


そのとき――。


「ひまり!」


聞き慣れた声がした。


「……!」


ひまりが振り返る。


「健一くん!」


そこには、少し疲れた顔をした健一が立っていた。


「ただいま」


「おかえりなさい!」


ひまりは勢いよく駆け寄る。


そして――。


そのまま健一の胸に飛び込もうとして、寸前で止まった。


「……」


「……」


二人とも固まる。


「……どうした?」


「い、いえ……」


ひまりは真っ赤になって一歩下がった。


「おかえりなさい……」


「……ああ」


健一も少し照れている。


「待っていてくれたのか?」


「もちろんです」


「ずっと?」


「ずっと!」


ひまりは頬を膨らませた。


「遅いですよ」


「すまない」


「心配したんですから」


「分かっている」


健一は優しく笑った。


「でも、ちゃんと帰ってきただろう?」


「……はい」


ひまりは嬉しそうに笑った。


「約束、守ってくれましたね」


「ああ」


「えらい!」


「子供扱いするな」


「ふふっ」


二人は顔を見合わせて笑った。



---


その夜。


ひまりは久しぶりに健一と並んで夕食を食べていた。


「海上訓練、大変でした?」


「ああ。だが、いい経験になった」


「船にはずっと乗ってたんですか?」


「そうだ」


「船酔いしなかった?」


「少しだけな」


「えっ! 健一くんでも船酔いするんだ!」


「する」


「なんか安心した」


「なぜ?」


「健一くんも普通の人なんだなって」


「……俺を何だと思っている?」


「完璧な軍人さん」


「そんなことはない」


健一が苦笑する。


「俺だって疲れるし、失敗もする」


「じゃあ、これからはもっと甘えてください」


「甘える?」


「はい」


ひまりは笑った。


「恋人なんだから」


「……」


健一が少し黙る。


「そうだったな」


「忘れてたんですか?」


「いや」


健一は笑う。


「改めて言われると、少し恥ずかしいだけだ」


「……私もです」


二人は照れながら笑った。



---


食事のあと。


ひまりは健一を庭へ連れ出した。


「健一くん」


「何だ?」


「今日、ちょっとだけ付き合ってください」


「どこへ?」


「秘密です」


「秘密?」


「はい!」


ひまりは健一の手を取った。


「こっち!」


「おい、ひまり」


「早く!」


二人は庭の奥へ向かった。


そこには、小さな縁台が置かれていた。


「ここ?」


「はい」


ひまりは座る。


健一も隣に座った。


「……何をするんだ?」


「星を見るんです」


空を見上げる。


夜空には、たくさんの星が輝いていた。


「綺麗……」


「そうだな」


「令和だと、こんなに星が見えないんですよ」


「そうなのか?」


「街の明かりがいっぱいだから」


「なるほど」


ひまりは空を見上げた。


「だから、今日ここで星を見たかったんです」


「どうして?」


「健一くんが帰ってきた記念」


「……」


健一は少し驚いた。


「そんなことでいいのか?」


「そんなことじゃありません」


ひまりは笑う。


「私にとっては、大切なことです」


「……そうか」



---


しばらく二人で星を眺めていた。


するとひまりが突然言った。


「ねえ、健一くん」


「何だ?」


「星って、令和でも同じですか?」


健一は空を見る。


「同じだと思う」


「じゃあ……」


ひまりは指を一本、空へ向けた。


「あの星も、80年後に見えるのかな」


「きっとな」


「……」


ひまりは少し寂しそうに笑う。


「じゃあ、もし私が帰れたら」


「……」


「同じ星を見ます」


健一はひまりを見る。


「俺も見る」


「本当?」


「ああ」


「じゃあ、約束」


ひまりは小指を差し出した。


健一も小指を絡める。


「約束だ」


「……」


二人はしばらく、そのまま空を見ていた。



---


「そうだ!」


ひまりが突然立ち上がる。


「どうした?」


「健一くん、目を閉じてください」


「なぜ?」


「いいから!」


「……分かった」


健一が目を閉じる。


ひまりはこっそり笑った。


そして――。


「はい、開けて」


健一が目を開ける。


目の前に、小さな紙があった。


「これは?」


「令和式のラブレター!」


「……らぶれたー?」


「好きな人に手紙を書くんです」


健一は紙を受け取る。


「読んでいいのか?」


「……はい」


健一が開く。


そこには、ひまりの字で――。


『健一くんへ

帰ってきてくれてありがとう。

大好きです。

ひまりより』


短い言葉だけ。


健一は黙って読んでいた。


「……どうですか?」


「……嬉しい」


「本当?」


「ああ」


健一は手紙を大切そうに折りたたんだ。


「これは大切にする」


「……!」


ひまりは嬉しくなった。


「じゃあ、私にも何かください」


「俺から?」


「はい!」


健一はしばらく考える。


「……そうだな」


ポケットから、小さなものを取り出した。


「これを」


「え?」


ひまりの手のひらに乗せられたのは、小さな金属製のボタンだった。


「軍服のボタン?」


「ああ。古いものだが」


「いいの?」


「持っていてくれ」


ひまりは両手で包み込む。


「……ありがとう」


「君が未来へ帰ることができたら」


健一は静かに言った。


「それを俺のことを思い出すものにしてくれ」


「……」


ひまりは胸がいっぱいになった。


「忘れるわけないじゃないですか」


「そうか」


「絶対忘れません」



---


その夜。


二人はいつまでも星を眺めていた。


そしてひまりは思った。


――この幸せが、ずっと続けばいい。


ずっと健一の隣にいられたらいい。


でも――。


ひまりの知らないところで。


健一のもとには、新たな命令が届いていた。


それは――。


これまでの「訓練」とは違うものだった。


戦争の影が、二人のすぐ近くまで迫っていた。


――第17話・終――

『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』


――あとがき――


最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。


『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』はいかがでしたでしょうか?


この物語は、令和を生きる16歳の女子高生・五十嵐ひまりが、古いアルバムの中に写っていた青年・如月健一に一目惚れするところから始まりました。


「写真の中の人に恋をする」


普通なら、絶対に叶わない恋です。


けれど、ひまりの「会いたい」という強い想いが時を越え、二人は昭和十九年で出会います。


最初は、現代っ子のひまりと、真面目で少し不器用な健一。


時代も違えば、生活も価値観も違う二人でした。


それでも、一緒に過ごす時間が増えるにつれて、少しずつ惹かれ合い、恋人になっていきました。


二人の恋を描くうえで大切にしたかったのは、戦争そのものではなく、その時代の中でも誰かを好きになり、笑い、未来を夢見た若者たちの気持ちです。


健一にも、ひまりと一緒に過ごしたい未来がありました。


ひまりにも、健一と一緒に見たい未来がありました。


「また海を見よう」


「必ず帰る」


そんな普通の約束が、戦争によってどれほど大切なものだったのか。


だからこそ、二人が離ればなれになる場面は、物語の中でも特に大切にしました。


そして最後は――。


80年前には叶わなかった二人の約束を、令和の時代でもう一度。


健一の生まれ変わりとひまりが再会することで、二人の恋にもう一度、未来を与えました。


80年前にできなかったこと。


一緒に映画を見ること。


令和の街を歩くこと。


スマートフォンを見ること。


そして、何より――。


誰にも引き裂かれることなく、好きな人の隣にいること。


今度こそ、二人にはそんな普通の幸せを手にしてほしい。


そんな願いを込めています。


もし、物語を読み終えたあとに、


「ひまりと健一、この先どうなるんだろう?」


「令和で二人はどんな恋愛をするんだろう?」


そんなふうに想像していただけたなら、とても嬉しいです。


写真の中の一人の青年に一目惚れした少女。


そして、80年という長い時間を越えて、もう一度巡り合った二人。


恋は、時代が変わっても消えない。


そんな奇跡を、二人から感じてもらえたら嬉しいです。


最後まで、ひまりと健一の恋に付き合ってくださり、本当にありがとうございました。


またどこかで、二人に会える日が来るかもしれません。


そのときはきっと――。


「健一くん、令和へようこそ!」


「……ひまり。まずはスマートフォンの使い方を教えてくれ」


「そこから!?」


そんな二人の声が聞こえてきそうです。


それでは――。


『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』


これにて、二人の最初の物語は幕を閉じます。


最後まで読んでくださったあなたへ。


本当に、ありがとうございました。

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