第14話 初めての喧嘩!?「もう知らない!」
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
――まえがき――
もし、あなたが古い写真の中にいる青年に――
一目惚れしてしまったら、どうしますか?
しかも、その青年が生きていたのは、今から80年も前。
名前しか知らない。
どんな声なのかも、どんな性格なのかも分からない。
もう二度と会うことなんてできない。
……普通なら、そう思いますよね。
16歳の女子高生、五十嵐ひまりも、最初はそう思っていました。
夏休み。
母親の実家で偶然見つけた、古いアルバム。
そこに写っていたのは、昭和十九年の海軍兵学校の学生たち。
その中にいた、一人の青年――如月健一、18歳。
ひまりは、写真を見た瞬間に恋をしてしまいます。
「……かっこいい」
「どんな人だったんだろう」
「どんな声で話すのかな」
「笑ったら、どんな顔をするんだろう」
写真の中の彼を眺めながら、どんどん想像を膨らませていくひまり。
そして、叶うはずのない願いを口にします。
「夢でもいいから……会ってみたい」
ところが、その夜。
写真が不思議な光を放ち――。
気を失ったひまりが目を覚ますと、そこは昭和十九年。
そして目の前には――。
「大丈夫か?」
写真の中の青年、如月健一が立っていました。
「…………え?」
「どうした?」
「……健一さん?」
「なぜ、俺の名前を知っている?」
こうして始まった、80年の時を越えた二人の恋。
現代の女子高生と、戦時中を生きる海軍兵学校の青年。
スマートフォンも、コンビニも、SNSも知らない健一。
そして、昭和の生活や戦時下の常識をまったく知らないひまり。
二人が一緒にいるだけで、毎日が大騒ぎ。
笑ったり、喧嘩したり、嫉妬したり。
時には胸が締めつけられるほど切ない時間を過ごしながら、二人は少しずつ本当の恋を知っていきます。
しかし――。
二人の間には、決して越えることのできない「時代」という壁がありました。
そして健一は、戦艦大和へ。
「必ず帰ってくる」
「待ってる。絶対に待ってるから」
二人は未来を約束します。
けれど――。
戦争という大きな運命が、二人を引き離してしまいます。
それでも、ひまりの恋は終わりません。
80年の時を越えて、もう一度――。
大好きな人に会うために。
これは、写真から始まった恋が、時代を越えて奇跡を起こす物語。
笑えて、キュンとして、時々泣ける。
そして最後には、きっと笑顔になれる。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
どうぞ、ひまりと健一の80年越しの恋を――最後まで見届けてください。
第14話 初めての喧嘩!?「もう知らない!」
「ひまり、少し待っていてくれ」
朝食を終えた健一が、いつものように立ち上がった。
「今日も訓練?」
「ああ。夕方には戻る」
「分かりました」
ひまりは笑顔で頷いた。
最近は、健一が出かけるときに「いってらっしゃい」と言うのが当たり前になっていた。
「……気をつけてくださいね」
「ああ」
健一は少し笑って出ていった。
ひまりは、その背中を見送る。
「……今日も早く帰ってきてくれるかな」
恋人になってから、健一と離れている時間が妙に長く感じる。
「私、重症かも……」
ひまりは自分で言って笑った。
---
ところが。
その日の午後。
ひまりは庭で一人、健一を待っていた。
「……遅いな」
いつもなら、夕方には戻ってくる。
しかし――。
太陽が傾いても、帰ってこない。
「まだ訓練してるのかな?」
ひまりは何度も門のほうを見る。
「……健一くん」
少しずつ不安になってきた。
昨日までなら、ここまで気にならなかった。
でも今は恋人だ。
だからこそ――。
「何かあったんじゃ……」
嫌な想像が頭をよぎる。
「やだ……」
ひまりは胸の前で手を握った。
そのとき。
「ひまりさん」
声がした。
振り返ると、健一の同期生が立っていた。
「健一くんは?」
「まだ戻っていない」
「え……?」
「今日は少し訓練が長引いている」
「怪我とかは?」
「聞いていない」
「……よかった」
ひまりは胸を撫で下ろす。
しかし――。
「ただ、今日は戻るのが遅くなるかもしれない」
「……」
「先に休んでいたほうがいい」
「分かりました」
そう答えたものの。
ひまりの心は落ち着かなかった。
---
夜。
ようやく玄関のほうから足音が聞こえた。
「!」
ひまりが飛び出す。
「健一くん!」
「……ひまり?」
健一は少し驚いた。
「おかえりなさい!」
「ああ。ただいま」
ひまりは健一の姿を見て――。
「……」
固まった。
制服には少し汚れがついている。
髪も乱れている。
「怪我してない?」
「大丈夫だ」
「本当に?」
「ああ」
「どこか痛くない?」
「問題ない」
健一はそう言って部屋へ向かおうとした。
「待って!」
ひまりが腕を掴む。
「ちゃんと見せて」
「大丈夫だと言っている」
「でも……!」
「ひまり」
健一の声が少し強くなった。
「本当に大丈夫だ」
「……」
ひまりは手を離した。
「……分かった」
健一はそのまま歩いていく。
ひまりは、その背中を見つめていた。
「……」
なんだろう。
いつもの健一と違う。
---
翌朝。
「健一くん」
「何だ?」
「昨日、どうしてあんな言い方したんですか?」
「……」
健一は少し黙った。
「疲れていたんだ。すまない」
「……」
「悪かった」
謝ってくれた。
なのに――。
ひまりの胸に残っているモヤモヤは消えない。
「……私、心配したんですよ」
「ああ」
「ずっと待ってた」
「……すまない」
「なのに、あんな言い方……」
「ひまり」
「……」
健一は困ったように息を吐いた。
「君を心配させたくなかった」
「だったら、ちゃんと言ってください」
「……」
「大丈夫って言われても、怪我してるかもしれないって思うじゃないですか」
健一は黙った。
「私は……」
ひまりの目に涙が浮かぶ。
「健一くんのことが好きだから、心配なんです」
「……」
「それなのに……」
ひまりは涙を拭った。
「もう知りません!」
「ひまり!」
ひまりはその場を走り去った。
---
「……」
健一は一人、立ち尽くしていた。
「……しまった」
自分でも分かっている。
ひまりは、ただ心配していただけだった。
それなのに。
自分は、つい強い口調になってしまった。
「……俺は何をしているんだ」
---
ひまりは庭の隅に座っていた。
「……もう」
涙が止まらない。
「なんで怒るのよ……」
自分でも分かっている。
健一は疲れていた。
悪気がなかったことも。
それでも――。
好きな人に冷たくされたことが悲しかった。
「……私、未来に帰れないかもしれないのに」
小さな声が漏れる。
「この時代で、健一くんしか頼れる人がいないのに……」
ひまりは膝を抱えた。
すると。
「ひまり」
「……!」
後ろから健一の声。
「……何ですか」
ひまりは振り向かない。
健一は少し離れた場所に立っていた。
「昨日のことを謝りたい」
「……」
「俺が悪かった」
「……」
「君が心配してくれていたのは分かっている」
ひまりは黙っている。
健一は続けた。
「疲れていたからといって、君にあんな言い方をするべきじゃなかった」
「……」
「すまない」
しばらく沈黙が続く。
やがてひまりが振り返った。
「……本当に?」
「ああ」
「もう怒ってない?」
「怒っていない」
「……」
ひまりの目から、また涙が落ちた。
健一が驚く。
「ひまり?」
「だって……」
ひまりは涙を拭う。
「健一くんが帰ってこないから、怖かった」
「……」
「怪我してたらどうしようって」
「……すまない」
「私、未来に帰れないし……」
「……」
「家族にも会えないし……友達にも会えない」
ひまりの声が震える。
「だから、健一くんまでいなくなったら……私、本当に一人になる」
健一は何も言えなかった。
そして――。
ゆっくり、ひまりの前に座った。
「……俺は、ここにいる」
「……」
「君を一人にはしない」
ひまりは健一を見る。
「本当?」
「ああ」
「約束?」
「約束だ」
健一は手を差し出した。
ひまりはその手を見つめる。
そして――。
そっと握った。
「……仲直り」
「ああ」
「もう怒ってないです」
「俺もだ」
「……」
ひまりは少し笑った。
健一も笑う。
「ただし」
「?」
「次に帰りが遅くなるときは、ちゃんと教えてください」
「ああ」
「絶対ですよ?」
「分かった」
「約束ですからね」
「約束だ」
---
その日の夕方。
二人は並んで縁側に座っていた。
ひまりは健一の肩に、ほんの少しだけ寄りかかる。
「……健一くん」
「何だ?」
「喧嘩するのって、疲れますね」
「そうだな」
「でも……」
「?」
「仲直りすると、もっと好きになる気がする」
健一は少し驚いた顔をした。
「……そうか」
「はい」
「俺も……同じかもしれない」
「え?」
健一は照れたように笑う。
「君と喧嘩して、離れている時間が……嫌だった」
「……!」
ひまりは嬉しくなった。
「じゃあ、もう喧嘩しない?」
「努力する」
「努力なんだ」
「絶対とは言えない」
「もう!」
二人は笑った。
そして、握った手を離さないまま――。
夕焼けの空を眺めていた。
この時代で初めての喧嘩。
そして初めての仲直り。
二人の恋は、楽しいだけじゃない。
少しずつ――。
「好き」という気持ちだけではなく、相手を大切に思う気持ちへと変わり始めていた。
――第14話・終――
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
――あとがき――
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』はいかがでしたでしょうか?
この物語は、令和を生きる16歳の女子高生・五十嵐ひまりが、古いアルバムの中に写っていた青年・如月健一に一目惚れするところから始まりました。
「写真の中の人に恋をする」
普通なら、絶対に叶わない恋です。
けれど、ひまりの「会いたい」という強い想いが時を越え、二人は昭和十九年で出会います。
最初は、現代っ子のひまりと、真面目で少し不器用な健一。
時代も違えば、生活も価値観も違う二人でした。
それでも、一緒に過ごす時間が増えるにつれて、少しずつ惹かれ合い、恋人になっていきました。
二人の恋を描くうえで大切にしたかったのは、戦争そのものではなく、その時代の中でも誰かを好きになり、笑い、未来を夢見た若者たちの気持ちです。
健一にも、ひまりと一緒に過ごしたい未来がありました。
ひまりにも、健一と一緒に見たい未来がありました。
「また海を見よう」
「必ず帰る」
そんな普通の約束が、戦争によってどれほど大切なものだったのか。
だからこそ、二人が離ればなれになる場面は、物語の中でも特に大切にしました。
そして最後は――。
80年前には叶わなかった二人の約束を、令和の時代でもう一度。
健一の生まれ変わりとひまりが再会することで、二人の恋にもう一度、未来を与えました。
80年前にできなかったこと。
一緒に映画を見ること。
令和の街を歩くこと。
スマートフォンを見ること。
そして、何より――。
誰にも引き裂かれることなく、好きな人の隣にいること。
今度こそ、二人にはそんな普通の幸せを手にしてほしい。
そんな願いを込めています。
もし、物語を読み終えたあとに、
「ひまりと健一、この先どうなるんだろう?」
「令和で二人はどんな恋愛をするんだろう?」
そんなふうに想像していただけたなら、とても嬉しいです。
写真の中の一人の青年に一目惚れした少女。
そして、80年という長い時間を越えて、もう一度巡り合った二人。
恋は、時代が変わっても消えない。
そんな奇跡を、二人から感じてもらえたら嬉しいです。
最後まで、ひまりと健一の恋に付き合ってくださり、本当にありがとうございました。
またどこかで、二人に会える日が来るかもしれません。
そのときはきっと――。
「健一くん、令和へようこそ!」
「……ひまり。まずはスマートフォンの使い方を教えてくれ」
「そこから!?」
そんな二人の声が聞こえてきそうです。
それでは――。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
これにて、二人の最初の物語は幕を閉じます。
最後まで読んでくださったあなたへ。
本当に、ありがとうございました。




