第13話 恋人になったら、手をつなぎたい!
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
――まえがき――
もし、あなたが古い写真の中にいる青年に――
一目惚れしてしまったら、どうしますか?
しかも、その青年が生きていたのは、今から80年も前。
名前しか知らない。
どんな声なのかも、どんな性格なのかも分からない。
もう二度と会うことなんてできない。
……普通なら、そう思いますよね。
16歳の女子高生、五十嵐ひまりも、最初はそう思っていました。
夏休み。
母親の実家で偶然見つけた、古いアルバム。
そこに写っていたのは、昭和十九年の海軍兵学校の学生たち。
その中にいた、一人の青年――如月健一、18歳。
ひまりは、写真を見た瞬間に恋をしてしまいます。
「……かっこいい」
「どんな人だったんだろう」
「どんな声で話すのかな」
「笑ったら、どんな顔をするんだろう」
写真の中の彼を眺めながら、どんどん想像を膨らませていくひまり。
そして、叶うはずのない願いを口にします。
「夢でもいいから……会ってみたい」
ところが、その夜。
写真が不思議な光を放ち――。
気を失ったひまりが目を覚ますと、そこは昭和十九年。
そして目の前には――。
「大丈夫か?」
写真の中の青年、如月健一が立っていました。
「…………え?」
「どうした?」
「……健一さん?」
「なぜ、俺の名前を知っている?」
こうして始まった、80年の時を越えた二人の恋。
現代の女子高生と、戦時中を生きる海軍兵学校の青年。
スマートフォンも、コンビニも、SNSも知らない健一。
そして、昭和の生活や戦時下の常識をまったく知らないひまり。
二人が一緒にいるだけで、毎日が大騒ぎ。
笑ったり、喧嘩したり、嫉妬したり。
時には胸が締めつけられるほど切ない時間を過ごしながら、二人は少しずつ本当の恋を知っていきます。
しかし――。
二人の間には、決して越えることのできない「時代」という壁がありました。
そして健一は、戦艦大和へ。
「必ず帰ってくる」
「待ってる。絶対に待ってるから」
二人は未来を約束します。
けれど――。
戦争という大きな運命が、二人を引き離してしまいます。
それでも、ひまりの恋は終わりません。
80年の時を越えて、もう一度――。
大好きな人に会うために。
これは、写真から始まった恋が、時代を越えて奇跡を起こす物語。
笑えて、キュンとして、時々泣ける。
そして最後には、きっと笑顔になれる。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
どうぞ、ひまりと健一の80年越しの恋を――最後まで見届けてください。
第13話 恋人になったら、手をつなぎたい!
翌朝。
「……どうしよう」
ひまりは鏡の前で、昨日もらった髪飾りを見つめていた。
健一から初めてもらったプレゼント。
それだけで、朝から顔が緩んでしまう。
「えへへ……」
髪に飾ってみる。
「……似合ってるかな?」
誰に聞くわけでもなく、鏡に向かって呟く。
すると――。
「ひまり」
「きゃっ!」
またしても背後から健一の声。
「び、びっくりした!」
「すまない」
健一はひまりの髪を見た。
「……昨日の髪飾りか」
「はい!」
ひまりは嬉しそうに笑う。
「今日もつけてきました」
「そうか」
「……どうですか?」
「似合っている」
「……!」
昨日も言われた言葉なのに。
今日は恋人になったあとだからなのか、胸がいつも以上にドキドキする。
「ありがとうございます」
ひまりは照れながら笑った。
健一も少しだけ笑う。
「大切にしてくれているようだな」
「もちろんです」
「そうか」
二人の間に、穏やかな空気が流れた。
そのとき――。
「如月!」
遠くから同期生の声がした。
「今日、時間あるか?」
「ああ」
「少し手伝ってほしいことがある」
「分かった」
健一はひまりを見る。
「少し行ってくる」
「はい」
健一が歩き出す。
ひまりはその背中を見つめる。
「……」
そして、ふと思った。
「……手、つなぎたい」
昨日のデート。
手が触れたのに、結局つなげなかった。
恋人なのだから――。
一度くらい、ちゃんと手をつないで歩いてみたい。
「……よし」
ひまりは小さく拳を握った。
---
昼過ぎ。
健一が戻ってきた。
「待たせたな」
「おかえりなさい!」
ひまりは駆け寄る。
「今日は何をしていたんですか?」
「同期の手伝いだ」
「大変でした?」
「少しな」
「じゃあ、休みましょう」
「ああ」
二人は縁側へ向かった。
ひまりは健一の隣に座る。
「……」
「……」
静かな時間。
ひまりはちらちらと健一の手を見る。
大きな手。
昨日、ほんの一瞬だけ触れた手。
「……」
どうしよう。
つなぎたい。
でも――。
「恥ずかしい……」
小さく呟く。
「何が?」
「ひゃっ!」
健一がこちらを見ていた。
「何でもないです!」
「そうか?」
「はい!」
ひまりは慌てて前を向く。
すると健一が言った。
「今日は何かしたいことはないのか?」
「……あります」
「何だ?」
「……散歩」
「昨日もしただろう」
「今日もしたいんです」
「分かった」
健一は立ち上がった。
「行こう」
「はい!」
---
二人は並んで歩いていた。
ひまりは健一の隣を歩きながら――。
何度も手を見る。
「……」
あと少し。
あと少しだけ近づけば。
でも、自分から手を伸ばすのは恥ずかしい。
「……」
健一も、なぜか今日は落ち着かない。
昨日から気になっていることがある。
ひまりと手をつないでみたい。
けれど――。
自分から言うのも照れくさい。
「……」
二人とも同じことを考えているのに、どちらも言い出せない。
そんな中――。
「きゃっ!」
ひまりが石につまずいた。
「危ない!」
健一が咄嗟に手を伸ばす。
今度は――。
手を掴んだ。
「……」
「……」
二人とも動かない。
健一の手が、ひまりの手を包んでいる。
「……大丈夫か?」
「……はい」
ひまりの顔は真っ赤。
健一も少し赤くなっている。
「……」
しかし、健一は手を離さなかった。
ひまりも――。
離したくなかった。
「……健一くん」
「何だ?」
「……このままでも、いいですか?」
健一はひまりを見る。
そして――。
「ああ」
その一言だけだった。
でも、それだけで十分だった。
二人は手をつないだまま歩き始めた。
---
「……」
「……」
しばらく二人とも無言。
ひまりは心臓がうるさい。
「……手、あったかい」
思わず呟く。
「そうか?」
「はい」
「君の手も……」
健一が言いかけて止まる。
「……何ですか?」
「何でもない」
「気になる!」
「忘れろ」
「えー!」
ひまりは笑う。
健一も笑った。
「……でも」
ひまりが少しだけ握る手に力を込める。
「嬉しいです」
「何が?」
「こうやって手をつなげること」
健一はひまりを見る。
「俺もだ」
「……!」
ひまりの顔がさらに赤くなる。
「もう一回言ってください」
「言わない」
「なんで!」
「恥ずかしい」
「健一くんも恥ずかしいんだ」
「当たり前だ」
「ふふっ」
ひまりは嬉しそうに笑った。
---
海辺まで来ると、二人は並んで座った。
手はまだつないだまま。
「健一くん」
「何だ?」
「恋人って……いいですね」
「……そうだな」
「昨日まで、ただの写真の人だったのに」
「写真の人?」
「はい」
ひまりは笑う。
「私が一目惚れした人」
「……」
健一は少し照れた。
「それは……今でも変わらないのか?」
「もちろん」
「そうか」
「でも、今は写真じゃなくて――」
ひまりは健一の顔を見る。
「本物の健一くんが好き」
健一は黙った。
しばらくして。
「……俺も」
「え?」
「写真の中の君を見たわけじゃないが」
「はい」
「今、目の前にいる君が好きだ」
「……!」
ひまりは顔を真っ赤にした。
「……健一くん」
「何だ?」
「もう一回言って」
「言わない」
「なんで!」
「恥ずかしいからだ」
「ずるい!」
二人は笑った。
---
夕方。
帰り道。
ひまりは健一の手を握ったままだった。
「……」
「ひまり」
「はい?」
「手を離さなくていいのか?」
「……嫌です」
即答だった。
健一が笑う。
「そうか」
「健一くんは?」
「俺も……このままでいい」
ひまりは嬉しそうに笑った。
そして――。
二人は夕焼けの道を、手をつないで歩いていった。
恋人になって初めての――。
ちゃんとした手つなぎ。
それは二人にとって、小さな出来事だった。
けれど、この時代に来てから一番幸せな一日だった。
そして夜。
ひまりは布団の中で、自分の手を見つめる。
「……まだ、健一くんの手の感触が残ってる」
思い出すだけで、胸がいっぱいになる。
「明日も……つないでくれるかな」
一方、健一も自分の手を見つめていた。
「……不思議な子だ」
そう呟きながらも――。
口元には、笑みが浮かんでいた。
二人の恋は、少しずつ。
けれど確実に、深くなっていた。
――第13話・終――
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
――あとがき――
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』はいかがでしたでしょうか?
この物語は、令和を生きる16歳の女子高生・五十嵐ひまりが、古いアルバムの中に写っていた青年・如月健一に一目惚れするところから始まりました。
「写真の中の人に恋をする」
普通なら、絶対に叶わない恋です。
けれど、ひまりの「会いたい」という強い想いが時を越え、二人は昭和十九年で出会います。
最初は、現代っ子のひまりと、真面目で少し不器用な健一。
時代も違えば、生活も価値観も違う二人でした。
それでも、一緒に過ごす時間が増えるにつれて、少しずつ惹かれ合い、恋人になっていきました。
二人の恋を描くうえで大切にしたかったのは、戦争そのものではなく、その時代の中でも誰かを好きになり、笑い、未来を夢見た若者たちの気持ちです。
健一にも、ひまりと一緒に過ごしたい未来がありました。
ひまりにも、健一と一緒に見たい未来がありました。
「また海を見よう」
「必ず帰る」
そんな普通の約束が、戦争によってどれほど大切なものだったのか。
だからこそ、二人が離ればなれになる場面は、物語の中でも特に大切にしました。
そして最後は――。
80年前には叶わなかった二人の約束を、令和の時代でもう一度。
健一の生まれ変わりとひまりが再会することで、二人の恋にもう一度、未来を与えました。
80年前にできなかったこと。
一緒に映画を見ること。
令和の街を歩くこと。
スマートフォンを見ること。
そして、何より――。
誰にも引き裂かれることなく、好きな人の隣にいること。
今度こそ、二人にはそんな普通の幸せを手にしてほしい。
そんな願いを込めています。
もし、物語を読み終えたあとに、
「ひまりと健一、この先どうなるんだろう?」
「令和で二人はどんな恋愛をするんだろう?」
そんなふうに想像していただけたなら、とても嬉しいです。
写真の中の一人の青年に一目惚れした少女。
そして、80年という長い時間を越えて、もう一度巡り合った二人。
恋は、時代が変わっても消えない。
そんな奇跡を、二人から感じてもらえたら嬉しいです。
最後まで、ひまりと健一の恋に付き合ってくださり、本当にありがとうございました。
またどこかで、二人に会える日が来るかもしれません。
そのときはきっと――。
「健一くん、令和へようこそ!」
「……ひまり。まずはスマートフォンの使い方を教えてくれ」
「そこから!?」
そんな二人の声が聞こえてきそうです。
それでは――。
『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』
これにて、二人の最初の物語は幕を閉じます。
最後まで読んでくださったあなたへ。
本当に、ありがとうございました。




