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想定外

間違った選択をしたとは思っていない。

正しいかどうかじゃない。必要だった選択をしただけだ。


後悔の問題じゃない。

迷ってはいけない。

物語の途中と終わりをつなぐために、どうしても必要なことだった。

それがすべてだ。


……なのに、なんでこんなに足が震えてるんだよ!?


隊長を呼んだあと、彼は村長のほうへ視線を向けた。

そこに浮かんだ表情は、驚きと絶望が入り混じったものだった。


次の瞬間、ざわめきと囁き声が一気に広場を満たす。

リリヤの手から逃れようともがきながら、周囲の視線が嫌でも目に入った。


心配と同情の目。

まるで足を折った子犬を見るような目だ。


……こんな性格、彼らに設定した覚えはない。

まあ、村人について何も書いてなかったんだから、俺の責任か。


やがて、隊長がこちらに歩み寄ってきた。


「お嬢さん、少し彼と話してもいいかな?」


その声に、リリヤはわずかに身をすくめ、黙って手を離し、少し距離を取った。


「エリサエル・サーン、だったな?」


「はい、そうです!」


数少ない“覚えている名前”の一つだ。


「署名はできるか?」


「字は書けません」


「問題ない」


すぐさま、隊長より少し細身で、指が長く、やや青白い若い兵士が動いた。

他とは少し違う軍服を着たその男は、小さな腰掛けと木の机を組み立てる。


紙が一枚置けるだけの、本当に小さな机だ。


「こちらは書記官だ。登録を担当する」


近づこうとしたその時、進路を塞ぐ人物がいた。


「エリアス……突然どうしたのかは分からんが、よく考え直すべきだ」


村長だった。


「村長殿。年齢の勘違いは理解できます。

 ですが、職務中につき、徴集を妨げることは許されません」


「い、いえ! 止めるつもりなど! ただ助言を――」


「大丈夫です、村長」


村長が驚いたようにこちらを見る。

……この状況以上におかしい発言、あるか?


終わらせよう。

そう思った矢先、また止められた。


今度は――リリヤ。


両手で俺の左腕を掴み、俯いたまま。

表情は見えないが、声は震えている。


「……本当に、行くつもりなの?」


「俺は――」


言いかけた瞬間、頭の中で警鐘が鳴った。


……おかしい。


空気が一段、冷たくなる。

風が荒れ始め、木々のざわめきが急に大きくなった。


「……?」


隊長ですら周囲を見回している。

彼も感じ取ったのだ。


まずい。


「……ねえ。私に、嘘ついた?」


いつ、とは聞けない。

分かっている。何の話か。


「そんなことは――一度も――」


「じゃあ……!」


風がさらに強くなる。


「リリヤ、聞いてくれ。今は――」


「いや!!」


冷気が突き刺さるように強まった。


「おかしいよ!!」


……気づいていたのか。


周囲はすでに人が減っていた。

寒さと強風で、多くは引き上げ、残っているのは好奇心の強い者だけ。


それでも十分、最悪だ。


「ここ数日ずっと変だった!

 最初は冗談かと思ったけど、

 ピオリおじさんが止めたことまで無視して!」


「……!」


「……!!」


隊長が村長を睨みつける。

凍えるような寒さの中、村長は冷や汗を流していた。


「もう“ピオリおじさん”って呼ばなくなった!

 おかしい! 病気だよ! 行かせない!」


「リリヤ――」


「リ、だってば!!!」


叫びと同時に、彼女を中心に空気が爆発した。


突風が村全体を叩き、遠くの家々の窓や扉まで開け放つ。


俺は立っていられず、膝をついた。

引き寄せられるように、リリヤも一緒に倒れ込む。


混乱ではない。

理解してしまったからこそ、眩暈がした。


――魔法だ。

粗く、生のままの魔力。

訓練なしで扱えるのは、生まれつきの魔術師だけ。


……そうか。

リリヤは、魔術師だった。


だが感心している暇はない。

隊長と兵たちが、すでに包囲していた。


彼は屈み込み、混乱するリリヤを抱える俺に封筒を差し出した。


「……村長の言う通りだ。

 もう一度、よく考えろ」


「魔法そのものは珍しくない。

 だが彼女は……少し早すぎる」


封筒を受け取ると、隊長は立ち上がり、撤退の準備に入った。

兵士の一人が、俺たちを立たせてくれる。


騒ぎの直後、嵐のように母が現れた。


視線が合った瞬間――

体が、勝手に震えた。


結局、村長とリリヤが事情を説明し、俺は横で聞くしかなかった。


「……あんた、何をしたの!?」


「……まだ病気みたいで」


「病気!?」


一瞬で距離を詰められ――


「痛い! 痛い! 痛い!!」


耳、引っ張られてる!! 回されてる!!


「頭をベッドに置いてきたの!?

 あれだけ話したでしょ!?

 なんでそんな真似をするの!!」


ようやく耳を解放される。


深呼吸を数回。

完全ではないが、少し落ち着いた様子で村長に向き直る。


「……それで。あの人たちは?」


「難しいでしょう。

 ただ、これをエリアスに残していきました」


「あ、はい」


封筒を差し出す。

持っていても意味はない。


村長は中身を読み、告げた。


「首都の兵舎に提出するための紹介状です」


「名前は?」


「どこにも書かれていません」


「じゃあ、行かなくていい」


……そんな簡単ならよかった。


「ミアベラ様……」


ミアベラ?


「ご主人とも相談なさるべきでしょう。

 テオドロ殿も、関係者ですから」


……ミアとテオ?

それは俺の設定じゃない。


「分かりました。主人と話します」


母は俺を見た。

言葉にできない表情。

でも、きっと一生忘れない。


「……がっかりだよ、エリアス」


……完全に、やらかした。


全部が違う。

いや――書かなかった部分が、全部、牙を剥いてきただけだ。

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