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思い出探し

釘を打つ音が、今日も一日の始まりを告げていた。

サーン家の作業場は家の裏手にあり、薄汚れた石造りに、ところどころ歪んだ陶器の屋根。小道を挟んで向かいには粉ひき小屋があり、その横には村の共同畑が広がっている。正面の入口は広場に面しているが、作業場へは裏口から入るようになっていて、そこは梅の木の枝が屋根にかかるほど伸びていて、ほとんど隠れていた。


たしか、この物語の始まりもこんな感じだった。

そして本当に、俺はこの作業場の音で目を覚ました。


昨日戻ってきたあと、母さん――ミアに、ずっとベッドに寝かされていた。レオリクと同じ病気にかかったんじゃないかと心配していたらしい。

病気? 知らない。

レオリク? 誰だよそれ。


この村は物語の序盤、二、三章ほどしか出てこなかった。主人公が旅に出るまでの、ほんのつなぎ程度。だから村人についてもほとんど書かなかった。

早く“冒険”に行かせたくて、戻ってくる理由すら深く考えていなかったのを、今さらながら後悔している。


いや、考えすぎるな。俺はすぐ脱線する。

まずは顔を洗おう。


ベッドから起き上がり、部屋を見渡す。隙間だらけの木の板から朝の光が細く漏れ、部屋をぼんやり照らしていた。窓を開けると、青白く冷たい光が流れ込む。

……なんて妙な世界を作ったんだ、俺は。


この部屋は二階にあって、ちょうど父さん――テオの作業場の上だ。裏手にあるおかげで、遠くの山並みがよく見える。梅の木が邪魔していないのが救いだ。


集中しろ。脱線するな。


木製のタンスの上に洗面用の水盆が置かれている。顔を洗い、横にあった布で拭く。

階段を降りるとすぐ台所で、母さんがパン生地をこねていた。注文を受けて朝に渡す、いつもの仕事だ。


「どうだい? 少しは良くなったかい?」


軋む階段のせいで、降りた瞬間に気づかれた。


「うん、もう大丈夫。心配かけてごめん。」


……たぶん、こんな感じで返していたはず。


「そうかい。それじゃ座っておくれ。何か食べさせよう。」


……セーフ?


久しぶりすぎて、エリアスの口調を完全に忘れている。変になってなきゃいいけど。


母さんはまずコーヒーとオレンジケーキを置き、それからパン、チーズ、クッキー、さらにはおかゆの器まで追加してきた。


いや、多い多い多い。こんな食いしん坊設定あったっけ!?


「母さん……これはさすがに多くない?」


「昨日のあんた、本当にひどかったんだよ。リリヤの話じゃ、真っ白で何言ってるか分からなかったって。弱ってるならしっかり食べて、祭りの手伝いに行くんだよ。」


あ、祭り。

そうだ……ここが旅立ちのきっかけになるんだった。


ちょっとだけ昔の展開を思い出そうとしたら――


……


考えてる間に、今度は目玉焼きが追加されていた。


「全部食べてから行くんだよ。昨日みたいに倒れたら困るからね。」


「は、はい。」


下手に逆らうと皿の数が増えそうなので従うしかない。


――食べ終えたら、祭りまであと何日か確認しないと。


この国は隣国へ侵攻する準備をしていて、祭りは若者の“徴集”の口実。そのくせ、表向きは「王への忠誠を示す儀式」なんて言っている。

拒否した村は……まあ、ひどい目に遭う。


エリアスは「戦争なんて起きるはずない」と信じて出ていった。理由は、周囲の国々が“同盟”という名の平和圏だったから。でも実際は隣国でクーデターが起き、王家が倒され、各国が介入することになった――そんな導入だったはずだ。


……よし、記憶の整理完了。

そして食事も完了。


「おや、もう食べたのかい? ちょうど良かったよ。あんたに頼みたいことがあるんだ。」


「何をすればいい?」


「粉ひき小屋まで行っておくれ。今日はシアトさんが小麦の束を仕上げてくれたそうでね。」


シアトさん? そんな人いたっけ?


「分かった。いくつ持ってくればいい?」


「七つだよ。急いでおくれ。」


七つ!?


「は、はい! 行ってきます!」


七つの小麦の束!?


「気をつけてお行き!」


……昨日倒れたの気にしてるんだか、してないんだか。

というか、この体で七つなんて無理だろ。せいぜい一つ? いや、一つも怪しい。


まあいい。

外に出て、まずは状況確認だ。


ここからが本番だ。

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