表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/19

秘密に包まれて

ヴィレデン――同名の王国の首都にして、ヴェリディオン同盟の誇る宝石のような都市。

この同盟は、太古の暗黒時代を生き延びるため、地域の諸王国が議会制のもとに結成した連邦国家である。


そして現在、この首都は世界規模の政治と観光の中心地となっていた。

近隣のタラミルのような地域から来る者もいれば、海の向こうの大陸――カルドリスやソルカリスから訪れる者までいる。


巨大で、まるで迷宮のような街。

その街の中でも、より正確には下層市街で、一人のフードを被った少女が人混みの中を駆け抜けていた。


身軽に走り、何人かの通行人にぶつかり、屋台にも何度か身体をぶつけながら、それでも彼女は止まらない。


目指していたのは、大瀑布の壁面近く。

そこには上層市街へ向かうための階段があり、さらに裕福な者向けには、釣り合い錘で動く昇降機まで設けられていた。

上層市街には貴族や王族が住み、いくつもの宮殿がほぼその一帯すべてを占めている。


だが、少女の目的は階段でも昇降機でもなかった。

彼女が向かうのは、もっと特別な場所だ。


階段のある地点に近づいたところで、彼女は進路を変え、壁沿いを慎重に進み始めた。

誰かに尾行されていないか、見られていないか、細心の注意を払いながら。


やがて街の喧騒からかなり離れた場所にたどり着く。

そこには一軒の小さな小屋があった。長いこと放置されていたようで、周囲は草が生い茂り、小さな木の枝葉がまるでその小屋を抱きかかえるように覆っている。


少女は迷いなくその小屋の中へ入った。

足元に絡みつく雑草を少し鬱陶しそうに払いのけながら、玄関代わりの部屋の中央まで進む。


もう一度、誰にも見られていないことを確認すると、床に敷かれたラグをめくり、その下に隠されていた木製の小さな扉を持ち上げた。


躊躇なく、慎重にその中へ入り込み、後ろ手に扉を閉める。


そこには、彼女を待つように小さなランタンと火打石が置かれていた。

彼女は素早く火を起こし、薄暗い地下空間を明るく照らした。


明かりに照らされて現れたのは、細く湿った長い通路だった。

泥と根の匂いが強く染みつき、空気の流れも悪い。少女にできるのは、ただ足早にその先へ進むことだけだった。


しかもそのトンネルは、単なる一直線の通路ではない。

階段があり、分岐があり、崩れかけた箇所があり、ネズミや虫といった不快な生き物までいる。


少女はこの場所が大嫌いだった。

だが、それでもここが彼女にとって唯一、安全に通れる道だった。


やがて突き当たりに、もう一つの小さな扉が見えてきた。

彼女はそれを開け、外の光を取り込み、ランタンの火を消してから小さな梯子を上る。


たどり着いた先は、大きな倉庫だった。

中には香辛料や希少な調味料が詰まった木箱が山積みにされ、果物やワインの樽が並び、なかにはシンドラ王国から運ばれた極上品もある。

さらに、魚、豚、鶏、山羊、牛などの肉類も、干物や塩漬けとして保存され、ハムやソーセージが吊るされていた。


豊かで広々としたその倉庫の中に、周囲に紛れるように隠された小さな箱が一つ。

少女は迷うことなくそこへ向かった。


そして素早くフード付きの外套と、その下に着ていた厚手の衣服を脱ぎ、軽い服装だけになると、それらを箱の中にしまう。

代わりに、あらかじめそこへ隠しておいた別の衣服――刺繍の飾りがついたシンプルな桃色のドレスと、クリーム色の靴を取り出して身に着けた。


倉庫を出ると、そこは天井の低い石造りの通路だった。

狭い壁に囲まれたその空間で、彼女の靴音が小さく反響する。


すると、その通路に並ぶ扉の一つから、一人の年配の女性が現れた。

誰かに文句を言いながら出てきた彼女は、少女の姿を見るなり目を見開く。


「今日のうちに終わらせておくようにって言ったでしょうが――姫様!?」


「ごめんなさい、少し遅れてしまって……」


「謝っている場合ではありません! こちらはもう大慌てなんですよ! 陛下があなた様のことを一分おきにお尋ねになっております!」


その女性はドネイデ。

モンフェドゥル宮殿の筆頭侍女だった。

大瀑布に最も近い場所に建つその宮殿に住まう栄誉を許されたのは、ただ一人――

ヴィレデン王国国王、エウラシオ・ダルリズ・ガブリリャーノ・デ・ヴァズ・アオダノルデのみである。


ドネイデは少女を倉庫区画から従者たちの居住区のほうへ急かすように連れていき、そのまま浴室へと押し込んだ。

そこは広い湯殿で、中央には温水の満ちた大きな浴槽があった。


少女がその湯に身を沈めていると、別の侍女が姿を見せる。


「メリッサ殿下。陛下より、本日夜の舞踏会までお会いになることはできないとのお言葉を預かっております」


「そう……残念ね。姉様はどこにいるの?」


「インドラ殿下は、婚約者様との私的なお出かけから、まもなくお戻りになるかと。お戻りになりましたら、お会いになりたい旨をお伝えいたしましょうか?」


「いいえ……どうせパーティーで会えるもの」


メリッサ――あるいはリッサと名乗った少女は、鼻先だけを水面から出して身体を湯の中へ沈めた。

そして、つい先ほど起きた出来事を思い返す。


(あの人が現れたとき、ついに見つかったんだと思った。けど、どうやら私が誰かなんて全然知らなかったみたい。どの軍の寮の人かもわからないし、話していたことが本当かどうかもわからない。でも……ひとつだけ、確かなことがある)


その瞬間、メリッサの周囲の水が静かに揺れ始めた。

やがて彼女の目の前に、小さな渦が生まれる。


ほんの小さなものだったが、彼女は笑みを隠せなかった。


「エリアス……この機会、絶対に逃さないんだから!」


渦はやがてほどけるように消え、再び穏やかな水面だけが残る。


だが、その場に残って入浴の手伝いをしていた侍女は、あまりのことに完全に言葉を失っていた。

なぜなら、メリッサがこれまで一度たりとも魔法を使えたことなどなかったからだ。


――――X――――X――――


なんで俺はこれを見逃してたんだ!?


リアム!

あのエルフ野郎!


到着直後のあのゴタゴタで頭がいっぱいになって、あいつもキャラの一人だったってことを完全に忘れてた。


いや、ミロとは違う。

ミロはまだ物語の序盤で死ぬキャラだし、ボルレンは“空の城”崩落の少しあとに故郷へ帰る……はずだ。

……たぶん、そのくらいのタイミングだったと思う。


でもリアムは違う。

あいつは重要人物だ。

こんなうっかりをしていい相手じゃない。


「さて……どこで見つければいいんだ、あいつを」


ヴェラと同じくらい大事なポジションだってのに。

もっとちゃんと意識しておくべきだった。


「あっ、いた!」


「少しは恥を知りなさいよ!」


「もちろん、今後はちゃんと――」


「見てごらんなさい! ほら、こんなにしか焼けなかったのよ!? 先月に比べたら全然足りないじゃない!」


「なるほど、それは――」


「それにまだあるんだからね!」


……なんであいつ、パン屋のおばちゃんに怒鳴られてるんだ?

何かやらかしたのか?


「すみません、俺の友達が何か失礼でも?」


「ほら見なさい! また帝国主義の兵士が増えた!」


「えっ!?」


「奥さん、俺たちは王国の兵士であって、帝国じゃ――」


「それをさっきから説明しようと――」


「帝国主義者に決まってるでしょ! 好き勝手して、欲しいものを奪って、私たちを好き勝手に扱って! 穀物を見てみなさいよ! あんなことするなんて卑怯者のやることだわ!」


穀物……?


いや、今はそんなことを気にしてる場合じゃない。

周囲に人が集まり始めてる。これはまずい。

下手したら一気に危険になる。


「リアム、行こう」


「……ああ」


俺もリアムも腰にサーベルを下げている。

問題は俺たちじゃない。もし誰かが感情的になったら、その瞬間に取り返しがつかなくなるってことだ。


「二度とこの辺に顔を出すんじゃないよ、この帝国かぶれども!」


……この街の人たち、そんなに帝国主義を嫌ってるのか。

そんな設定、俺が作った覚えは全然ないんだけど。

普通に驚いてる。


とにかく、あの小さな市場エリアから少し距離を取ったところで、俺はリアムを呼び止めた。


「リアム」


俺が足を止めると、リアムもすぐに立ち止まり、こちらを振り返る。


「ちょっと真面目な質問をしたい」


リアムは黙って続きを待った。


「正直に答えてくれ。お前の名前……本当に“リアム”なのか?」


その瞬間、リアムは目を丸くした。

だが次の瞬間には、なんとも言えない“哀れむような顔”に変わる。


「エリアス……勤務中にキノコはやめたほうがいい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ